J9 基地のゲート2

□敦盛2111
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 床から拾い上げたシーツだの脱いだものだのをランドリーに放り込む。ランドリーの周辺で着られる物を漁って、ようやくフルチンからの離脱。うん、落ち着く。
 もう一人のフルチンがベッドでふにゃってる間にコーヒーを。機械任せではあるけど、いちおう、インスタントじゃないやつ。
 味にこだわりなんてありゃしない。朝、部屋の中いっぱいにコーヒーの香りがする状態が好き。ココで暮らすようになってからの習慣だ。
 宇宙暮らしになると、何かしらそういう習慣を始める奴は多いんだとか。俺の場合はまったく単純に、朝=コーヒーの香り。特に、キッドがすぐ横に居る朝は、甘すぎたり濃すぎたりして、ずるずるとぶり返しそうになる空気を、コーヒーの香りが少し誤魔化してくれるような、、、この感じが嫌いじゃない。今日は今日で、甘くも熱くもなればいい。
 キッドはベッドから出てくる様子もなけりゃ、起き上がる気配もない。
 なのにどうも、、、さっきから視線を寄越している。起き抜けから見つめてくれるとは嬉しいじゃないの。

「なに?どした、キッドさん?」

 やっと起き上がったキッドにコーヒーを渡す。
 この世で一番、柔らかくなってるブラスターキッドが、ココに居る。いつもこうだとは限らないけど、今朝はまた飛びきりふにゃふにゃで、ついニヤケてしまう。
 いや、ニヤケるなんて下品な事じゃなくて、、、。俺が最初に惚れたのは、なんもかも弾き返しそうな強い視線とキッツい態度。なのに今、ゆるくて柔らかくて、言ったら殺されそうだけど実際可愛いい表情まで手に入れてる。顔がゆるんだって仕方ないだろ、これは。

「、、なんか、変な夢みた」

 カップを両手で持ったまま、まだ口もつけずにキッドはぼんやりと壁を見てる。膝にタオルケットかけてるけど、背中なんかまるっと素肌で、、冷えるだろーよ。
 自分もカップを持ったまま隣に座ると、その素肌の背中が寄りかかってきた。

「すっげーうるせーんだよ。J9 基地の中が。やたら人がウジャウジャ居てさ」

「うは、、想像できねーわ」

「いい奴ばっかなんだよなー、、」

 へえ、、。本当にそんな事になったら絶対イライラしてそうだけどな。妙に嬉しそうなカオ、してるじゃん。

「軍隊生活がなつかしいってハナシかぁ?で、、その賑やかそうなJ9 基地に俺ちゃんは居た?」

「それそれ!なんせ人数居るだろ?探すの苦労したぜー。見つけはしたけどさ、、、、アレって、お前だよな?」

「ちょ、ソイツに訊けよ!ここに居るのは本物の俺ちゃんだぜ?」

 それでさっきからコッチ見てたってか。ったく、誰だよ、キッドの夢の中の俺だか俺じゃないかわかんないようなヤツ。しかも基地の中で!
 コーヒーを溢さないように気を付けながら、そっと確認のキス。これが俺ちゃんです。次はちゃんと見なさいよ?

「なあ、地球に、、なんか用事とか、ねえ?」

「いんや、、思いつかね。なに、行きたいん?」

「なんだろうな、この感覚。草っ原とか、木の生えてるような場所が、、、
懐かしい感じが、、残って、る?」

「はあっ?もしかしてまぁだ夢ん中かよっ。もっとガッツリ起こしてやろうか」

  タオルケットを思いきりひっぺがして、足の間に割り込んではみたものの。

「いらねえよっ」

 実に素早く、キッドは左足で俺の肩を押し返し、右足では俺の手を踏んづけた。お、これは、、なんて器用なんだ。マジでこれ以上前に進めない。
 すごい眺めではあるけど。

「ルシオのとこの牧場はどーよ?草も木もある」

 この際、このままの格好で長引かせてみよう。

「なんか違うんだよなー、、あ!風だ!新鮮な風!」

 全裸で足おっぴろげて、見事な無頓着ぶりを晒してくれるキッド。これでいて、人前じゃどーの、バラしたらどーの言うんだからわけわかんねえ。どういう構造になってんだろか、コイツの羞恥心って。

「風ねえ。、、ならさ、バイク、付き合わねえ?いやいやいやいや、そんなヤな顔すんなって。勝手に置いて行ったりしないからっ」

「絶対だな」

「おう」

「誓う?」

「いーよ?」

「何に誓う?」

「、、、、、、、、、。」

「こっ、、、の馬鹿!ドコ見てやがるっ!」

 手を押さえてた足が離れたと思った瞬間、その足で二の腕を蹴られた。

「って〜っっ」

 くっそ、右足きたかー。左でそのまま後ろに蹴り飛ばされる予測してたから、ガード間に合わなかったぜ。
 そうこうするうち、ランドリーが仕事を終えて、キッドはまだ熱い服をバタバタ冷まして着込み、シーツを直してからドアへ向かう。

「じゃあさ、俺、アイザックに通しとくから、場所とバイク、任せたぜー?」

「おっけー、任されたー」

「おーい、ボウイー」

 カップを濯ぎながら見送りも無しで返事をしていたら、何やら呼ばれたので、、ひょいと顔を出すと、キッドは自分の人差し指にちょんとキスして、それをこっちにズドン!と撃った。
 派手な投げキスに、気の利いたリアクションも返せないでいるうちに、キッドはドアの向こうへ消える。
 なんか、、よっぽど行きたいみたいね、草っ原。そんなに気になる夢だったら、俺も見てみたいもんだ。
 その、うるさすぎるJ9 基地ってやつをね。








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