J9 基地のゲート1

□始末屋事始め3
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 敵に追いつめられ味方がいなくなっていく。それとも味方がいると思ったのは俺の錯覚で、初めから一人っ切りだったのか。
 ともかく俺は息を潜めて反撃のチャンスを待つ。
 ホンノ些細なきっかけも見逃さず、獲物からハンターに転じる瞬間!
 何度繰り返しても、何度繰り返しても、これを上回る瞬間に出くわした事がない。
 攻撃に転じる『その瞬間』が好きだ。
 そして直後に来る、、血でも吐くんじゃないかと思うほど渾身の、ラストショットの感触。
 同時に俺は、、、おぞましい事にイッてしまうのだ。

(また同じ夢を見た、、)

 あまりのおぞましさ、いやしさにぞっとして目が覚める。この夢の時はいつもそうだ。

(しまった。うたた寝しちまった!)

 テーブルに乗せた頭をぱっと起こすと、グラスと、空の酒瓶と、吸い殻の山の灰皿の向こう側に、頬杖をついているソバカスのある顔。俺の背中から奴の上着が滑り落ちた。

「あ、、、俺、どれくらい寝てた?」

 言いながら落ちた上着に手を伸ばして、、今度はとてつもなく恥ずかしい状態になっていることに気がつき全身が火のようにほてる。
 初対面の連中と組んでの宇宙でのBattle(始末屋の初仕事だとか)を終えて、、、コイツと、赤い髪のエンジェルと三人で盛り上がってたんだ。
 始末屋、、、だとさ♪
(そんなのアリかよ?!)と(その手があったか)の、ごちゃ混ぜになった不思議な感覚。あの男、アイザック・ゴドノフ、、、一体なにモンで何をしようってのか。いや、俺にとっては奴の出自より、奴が何をしたいかかの方が重要だ。表裏なしに今日みたいなのを仕事と呼ぶなら、非合法だろうとかまやしない。天下御免でブラスターを扱える身分を捨ててきたくせに、ブラスターを捨てられない俺が、コネクションなんぞとかかわらずやっていける旨い手じゃないか、と思う。
 が、用意周到にここまで設備を整え、メンバーを揃えた奴に、、、万が一何かのバックが付いていて、俺たちをそのコマとして利用しようとするなら、、、絶対に許さない。ま、じっくり見定めてやるさ。
 それにしても、、、ひとりで行く当てもなく逃げ回って、逃げ回って、今日が久々の、おおっぴらに(?!)暴れる機会だった。だからあの夢、、。

「んー、、10分か、、そこらみたい。麗しのお町さんもいなくなっちゃったし、お開きしない?」

 見られただろうか?コイツ、、上着をかけてくれた時か何かに、、気づいたかな?俺ががっちがちに勃っちゃってるの、、、。お町が居なくなってくれてたのがせめてもの幸い。

「ああ、そろそろナ。悪い、これ貸しといて」

 拾い上げた上着をそのまま膝に乗せた。テーブルの下だってどうにもこうにも居心地悪い。と言って、そそくさと立ち上がるわけにも、、、、。
 くっそー!最低だぞ。今日会ったばかりの奴にンなとこ見られた日にゃ!!
 スティーブン・ボウイ。太陽系最
大のレース(ル・マン・デ・ソウル)二年連続NO.1を筆頭に、その他諸々の戦績をあげている、モータースポーツ界の超有名人。なので、さほど興味のない俺でもマスコミを通じてなら知っていた。
 そんな奴がなんだってこんなトコにいるのか。ラーク社のチームを抜けたらしいが、ちょうど俺は地球正規軍を脱走して、逃走中だったから、スポーツ関連のニュースまでは気にしてる場合じゃなかったし。

「寒いか?」

「え、、あ、いや。俺、いま寝言か何か言ったか?」

「いンや何も」

「そう。ちなみに、、、、どんな顔して寝てた?」

「どんなって、、、、、、」

 テーブルの上を片づけ始めた手が止まり、目が合うとボウイは少しばかりたじろくような感じ。
 嫌ぁな予感。

「いいから見たまま言ってみな」

「う、、ん。そだな、、、すごい苦しそうで、なのに、やたらとその、悩ましげな表情してたよ」

 だとおもった。一体いつごろからあんな夢を見るようになったのか、もう忘れたけど。人を撃ち殺す場面だけならまだしも、なんだってそれが性欲に結びついちまうのか。俺はひょっとして強姦殺人の願望でもあるんじゃないかと疑ってしまう。だって、夢から覚める直前に決まって見えるのは、むき出しの白い足が血塗れで倒れているシーンなんだ。一目瞭然、それは俺の倒した相手で、暗闇に足しか見えないがどう見たって女の足だ。コイツが、ボウイがいま目にしたのが、俺も知らないホントの俺の顔なんだろうか?

「じゃ、今の俺の顔、忘れとけよ」

「、、、、嫌だ。覚えておきたい」

 再び嫌ぁな予感。さっきの嫌ぁな予感は、俺がどんな顔してたかじゃなくて、それを見た側の反応が、、、

「忘れられないだろうし、忘れたくもない。キッドさんが寝てるあいだに、、、やっと解ったよ。どうやら、お前に惚れちゃったんだな。好きだよ」

 ああ、予感的中。

「上着サンキュ。じゃな、おやすみ」

 仏頂面で上着を放り投げ、立ち上がった。

「つ、冷たすぎやしないかー?!冗談でもからかってんでもないんだぜ?」

「だったら尚更だっ。野郎に体いじくり回されんのは金輪際ごめんだね!!ウエストJ区はアブネえから用心してたが、これから寝泊まりする所にそういう同僚がいるとは思いもしなかったよ!お前とはウマが合いそうだし、お前ほどしっくりターゲットスコープ合わさせてくれるパイロットのまず居ないだろうと思ってたが、、、そういう腹積もりがあるってならプライベートじゃ容赦しねえぞ。必要以上に近づいたらぶっ放す!」

 くそっ、息切れするほど言ってやった。どうにか人心地つける場所かと思ってたら、トンでもねえ落とし穴が待ってやがったとは。

「そんなに、、、突っかからなくたって、平気だよ。、、無茶して嫌われたくねえもん。そんな度胸はないよ。でも、好きだって言うのはやめられそうにないんだ。言いたくて言いたくて、しょうがないんだ。ああっどおしよおかなっっ。なぁんかなー、調子狂っちゃうな。ヘン?やっぱしヘンに見える?」

 おもいっきりヘンに見える。
 なんなんだコイツ?調子狂っちゃうのはこっちの方だ。何をそんなにヘラヘラ笑うんだか。何だか間を外されて肩から力が抜けちまう。

「自分でもヘンだと思うよー?でもさ、今すっげえ嬉しいの。わけわかんないけど、浮かれちゃってんの」

「俺は嫌だっつってんだぜっ。何が嬉しいのさ?」

「うーん、だから、自分がお前に惚れちゃったことが嬉しいの」

 それだけのことで、、俺は応えてやらないのに、、それだけの事でこんなにマジに嬉しそうにするコイツって、、どんな奴なんだろう。
 おかしい。俺、あんまりむかっ腹立ててないや。
 今まで、言い寄る男なんか一人づつ区別して見てやったことなんかないけど、こいつはなんだか変なパターンで、気になるぞ。取りあえず、、、実力行使タイプじゃないなら、、、観察してみようか?

「明日さ、着るもんとか、、いろいろ買い物いくんだろ?乗せてけよ」

 って、もしかして俺、コイツをフッた事に対してフォローしてないか?!

「あいよ、おまかせ」

「じゃ、改めておやすみボウイさん」

「あ、お町っちゃんね、センタールームから一番遠いトコのぉ、こっちから行って右の部屋使うって言ってたから、その部屋以外ね」

「OK」

 言って、ドアから出ようとした背にボウイの馬鹿でっかい声。

「おやすみー!愛してるぜっ!」

 !!

 振り向いて抜き打ちざまに、ボウイの手元にあったグラスをぶち抜いた。

「な、ナンテ事すんのーっ。近寄ってないじゃんよ!」

「恥ずかしいことでけえ声で言うんじゃねえよっ。人前で口走ったら絶対許してやらないからな!覚えとけっ」

「は、はいっ!気をつけマスッ!あ、、、あててっ。あぁあ、指切っちゃったよ」

「え、まじ?」

 ぺろっと、指先の血をなめる仕草が妙にガキっぽく見えた。
 ボウイの手首を掴んでみると、小指の先の、すっと切れた傷から、きれいな紅の血が滲んで溢れる。
 今まで見てきたどの血より、、、。コイツがここで仕事をしていく気なら、これから先、何度もこの血を見ることになる、んだよな、きっと。
 溢れた血がポトリと落ちて、はっと我に返りボウイを見ると、案の定、ガキっぽさは消えて、、熱っぽい視線を俺に向けるオトコの顔。
 し、しまった、自分から近寄っちまった。
 慌てて手首を放す。

「わ、悪かったたな、大事な手なのに。操縦に差し支え、、」

「ま、まぁさか!こンこらいで!飛ばし屋ボウイを嘗めてもらっちゃ困る。骨の一本や二本折れてたって、そこらの奴よかずっとマシにこなせるぜっ」

「おっ強気じゃん?ほらっ、これやるよ」

 ポケットから取り出した手のひらサイズのプラスチックケースを放り投げて渡した。

「なに?ファーストエイドキット?」


「そ、バンソウコ一枚しか残ってないけど。正規軍で支給されたヤツさ」

「あ、ホントだ。フタの裏に特殊射撃チームのマーク、、」

 包帯も、消毒薬も、軟膏も、使い切っちまった。果てはピンセットやハサミまで、利用できるものは利用してここまで逃げ延びてきた。最後の一枚は、新しい生活のお役に立ったか。

「ケースごとやるよ」

「さんきゅ。いい記念にもらっとくよ」

「ばぁか。ったく、くれぐれも図に乗るなよっ」

 さて、どの部屋使おう?今夜は思いっきり寝られそうな気がする。
 ポーカーフェイスのアイザックが何を考えてんだかしらないが、ボウイの馬鹿に何だって言い寄られなきゃなんのか知らないが、、、、、アイザックは俺を正規軍に売ったりしないし、ボウイは寝込みおそったりしない。だろ?
 エンジェル、君はどう思う?聞いてみたいな。
 あれ、珍し、、、俺が誰かの意見を聞きたいだなんて。
 今は自分のカンを信じる。そのうちきっと、奴等そのものを信じられるかも知れない。
 いいよな、これで。だってココ気持ちいいもん。
 俺、気持ちいいんなら好きだし。



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