J9 基地のゲート1

□始末屋事始め2
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 びっくり続きで、俺の心臓は休むヒマがない。
 その一、初めて顔を合わせた途端にアイザック・ゴドノフの口から出たセリフ『我々のチームメイトになりたまえ』、、、、なんじゃそりゃ?!
 その二、ブライサンダーというモンスターマシン!この世に一台とは恐れ入った。
 立て続けにその三、ブライサンダーの中にうずくまり、得意げに俺に銃を突きつけたキド・ジョウタロウ!
 目があった一瞬、コイツと張り合ったらかなわないかも知れない、そんな気がして思わずたじろいだ。
 そして極めつけ、恨み晴らします、困り事片づけます、の、よろず請負始末屋コズモレンジャーJ9!!
俺がここに呼ばれた本当の理由。そのJ9のマシンを一手にカバーするプロとして、、そいつは確かにとびきり魅力的だ。
 しかし、どうも俺には始末屋というのがどんなモンなんだか雲を掴むようで見当が付かなかった。
 アイザックは、敵は実力で叩き潰すという。何を敵とするかは全員の目でそのつど判断する、とも言った。
 でもまだ俺はピンとこない。
 そうこうするうち次のドびっくり。担ぎ込まれる怪我人!しかも担いできたのは十歳の女の子メイちゃん!
 俺を火星の宇宙港まで迎えにきたシン・リン・ホーの双子の姉ちゃんだとか。怪我人の応急手当をするのはアイザックで、その補助をするのはメイちゃん。この子供らっていったい。。
 怪我人の登場でなぜだか俺たちは一気に『木星行き葉緑素物質運搬タンカー強奪事件』のド真ん中!
 次いで天井裏から現れた、キュートで得体の知れない美人、エンジェルお町!
 アイザック、キッド、お町、、、三人の口からすらすらこぼれるタンカー強奪事件の裏側。裏の裏、、、!
 三人の頭の中にすでに知識として入っているらしい『闇の情報』というヤツの数々。ここへきてやっと、俺は、、、、、世界が違うー!!と、気づいた次第。
 だってこんなノ、ニュースの向こう側の世界じゃん?!うんにゃ、ニュースにだって出てきやしない地下社会の話じゃないか。
 そりゃこんな世の中だから、相当身近なトコでも噂は多いさ。『ニール社はバイコネがらみで八百長レースをした』『あいつの女はコネクションの構成員で、かわいそうに奴は貢がされてる』。日常茶飯事ではあるけど、結局こんなノは外側からの噂にすぎなくて、、、、、今俺が耳にしているのはナマの、実際に、裏の世界に関わるヤツだけが知る、事実なんだ。興味津々、好奇心のカタマリだけど、話についていくのがやっとの俺に、この連中ときたら、、、、、

「これでチームメイトがそろったな」

「いいじゃなぁい、一度だけ、付き合ってみましょうよ」

「それもそうだな、よし、そうしよ♪」

 これだもの。

 結局俺はきつねにつままれ、お町とキッドのおだてだか誘いだかに乗り、あのマシンを存分に扱ってみたいという欲も捨てがたく、、、イザ、初仕事の段になってとうとう腹を決めた。
 俺たち四人はしょっぱなから木星開発局とガリレオコネクションとにケンカを売ったのだ!マシンの武装の具合からしてそんなこったろうとは思ったが、これで俺にもようやく実感として「敵」「仕事」「始末屋」の実像というものが見えた。
 そして同時に解ってしまった。
 このマシンを他の誰にも任せたくないということ。表情を読ませない奴だけど、アイザックが指示を出す声はとてつもなく安心させてくれるということ。エンジェルお町の一声と笑顔には、男を奮い立たせる勝利の女神の力があること。何より俺を熱くさせたのは、ブラスターピットにあがったキッドと、初めてなのにあ・うんの呼吸で敵を落とせるということ。

(すごい、、、)

「やったぜ!マジに全部かたづけちまった!」

「ねえ、アイザック?もしかしなくても、これでお金になっちゃうのよね?」

(rすごい、すごい、、、すごい!)

「俺決めたぜ。アンタの言う始末屋っての、しばらくやってもいい」

(表彰台より、、すげえっ!)

「そうね、一度だけなんてもったいなさ過ぎるみたい。ね、お家賃は、、、」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 初仕事の敵をすっかり片づけた後、ブライガーの形を取っていたマシンをシンクロンバックさせブライサンダーに戻して、、、J9基地の方向に進路を取ったあたりまでは覚えてる。
 そのあと俺は、熱に浮かされたみたいになってまるで何も考えちゃいなかった。ただひたすら、たった今終えたばかりのBattleの余韻に全身を解放してしまっていた。よく失速しなかったモンだと思う。
 右の後部席にいたアイザックが、ナビ席のお町とのあいだに体を割り込ませ、俺の前の幾つかのパネルやゲージを操作するのをまだ半分ぼーっとしながら見ていた。

「自動操縦に切り替えたからな。操縦桿、、放してもいいぞボウイ。ボウイ?」

 俺のシートに手をついたアイザックに横からのぞき込まれて、やっと目を合わせた。

「あ、ああ。自動操縦ね」

 アイザックの目は、深くて、静かで、、何となく、黒々した森に囲まれる湖の、、、、ずっと底、、、そんな色を連想させた。

「少しシートを倒すといい」

 操縦桿を放すと、指がじんじん、、、何だ?このじんじん、、、。

「なあに?どうしちゃったの彼?」

 ああ、そうか、血だ。血が指先の先まで流れていくのが生々しく感じ取れる。
 心臓、がんがん!壊れそ!

「ほーんと、何イキナリ大人しくなっちまってんの?凄腕の飛ばし屋さんヨ」

 倒したシートにいくぶん顎を上げ気味に体重を預けていると、今度はキッドが真後ろからのぞき込む。
 その目、、、だよ。最初に視線が合った時びびっちまってから、何だかマトモに目を合わせるのが怖くて、、

「は、初めてなモンで、、チト、、」

「何が?」

「何がって、、だから、こおゆう、、、、、ドッグファイト」

「な、なんだって?!ちょ、マジかよ!どういう事だよアイザック!俺、俺てっきり、スティーブン・ボウイってのは、実はどこかでこの手の経験がある奴なんだとばっかり、、、、だからアンタが選んだんだろうと思ってたぜ?!」

「私は何もそんなことは言っていないが?」

「じゃ、あたしたち今、このマシンに初めて触ったってだけじゃなくて、実戦経験もなくて、戦闘艇タイプそのものが初めてって人に、、命任せちゃってたわけ?!」

 何だか大騒ぎ。
 キッドが改めてまじまじと俺を見る。

「信じらんねえ。素人かよコイツ。素人がイキナリ実戦に出て、、、あれだけの腕、見せたってのか。なんて奴だよ、、、」

 上下逆さに見つめ合ったまま、、、まるで今初めて俺を見たような顔。
 そうか。きっとそうだ。今やっと、俺はこいつに目を向けてもらえたんだ。今までは、顔を知ったというだけの、まだまだ「関係ない奴」だったんだ。今初めて、存在を気にして認めてもらった。
 そして俺も今、怖いと思った気持ちを乗り越えて、、、
 いや、まだ怖いのは消えないけど、もうたじろがないし、真っ直ぐ見られてもびくついたりしない。
 さっきまで及び腰だったのに、今度は目が離せない。最初の時みたいに、その瞳のキツい光に跳ね返されるのはイヤだ。
 胸が騒ぐ!もっと見て欲しい。もっと認めさせたい。今、今、まだこのドッグファイトの興奮が残っているうちに、触れたい、、、強く。
 そうは問屋がおろさぬようで、、

「すごい!すごいわよボウイちゃん!あなたってばサイコーじゃない!」

 そう言って、俺を強く抱きしめてくれたのは、なんとナビシートのエンジェルお町。

「う、うわっぷ、、!」

 し、シゲキテキ、、。

「ボウイちゃん大丈夫?初めてのケイケンでちぢこまっちゃったのカナ?」

 素敵なボディを惜しげもなく密着させながらエンジェルがそんなことを言ったので、ぎょっとして、、、、やっと状況を飲み込んだ。

「ち、ちぢこまっちゃっただって?!冗談!じゃナニか?ひょっとしてみんなして俺ちゃんがびびって震えてるとでも思ってたワケ?!」

 飛び起きて見回せばエンジェルの目は点、リーダーは洞察力フル回転、攻撃手は不信ヅラ。

「ぷ!ぷははははっ、困るぜー、勘違いしてもらっちゃあ!俺ちゃんはね、嬉しくてしょうがないのよ。この世にこぉんなにエキサイトできるコトがまだあったとはね。全身で興奮に飲み込まれちゃってたの!、、、あんた達そおゆう経験ないかい?」

 シートを戻し、自動操縦を切った。

「アイザック!この子猫ちゃん、俺に任せてくれるんだな!俺もうコイツ放さねえぞっ。ははん、まぁだヘンな顔してるな?うおっし!J9結成を祝ってプレゼントしてやるよ。飛ばし屋ボウイのスペシャルドライブ、、、味わってみなっ!」

「な、何を、、」

「ブライシンクロンアルファ!!」

「いゃぁん、まってよー!」

「このヤロ!急に何しやが、、、わっ!」

「イぃャッホぅー♪」





 ね、、、貴方に話しかけるのは初めてだけど、これがお別れの挨拶です。
 だって俺はこれから、貴方のことを考えるにはどうみたって相応しくない生活を始めるから。
 この出撃の前にマシンのキーと一緒に、、ブラスター装備一式、、、渡されました。つまり、そう言う事です。俺はそれを受け取った。
 プロのレーサーとしてとんとん拍子にトップにのし上がっていった時は、危うく貴方が本当に実在するんじゃないかと信じかけたけど、、、、結局一度だって本気で信じないまま、お別れですカミサマ。
 あの世でも会えないね。ま、なんとかなるさ。



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