J9 基地のゲート1
□始末屋事始め1
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スティーブン・ボウイはマシンと共に定刻通りアフリカプレートを発った。
木戸丈太郎からはまだ何の連絡もない。
が、ラスプーチンの海賊放送局を利用している、地球とアステロイドの往復便の運送会社の運転手が言うには、アフリカプレートで地球正規軍が時ならぬ改めをしているらしい。
無断脱隊者、木戸丈太郎を探しているのにまず間違いない。つまり、彼はここに、このJ9基地に来る気がある、と言うことだ。
火星軌道と木星軌道の間に横たわる小惑星群(アステロイドベルト)。宇宙に出て、もう五年、、以上経つ。
父の敵セルゲイ・ワインベルグの影を追って闇雲に飛び出した。父の、無実の罪を晴らしたかった。
初めはただそれだけの事。
出逢いがあり、別れがあり、、、世の中の複雑怪奇にぶつかり、やがて自分が憎んでいるものの本当の正体が見え始める。地球連邦政府と惑星開発局の癒着をたった一人、内部から正しい方向へ導こうとしていた父を、疎ましく思ったのは誰か?無実の罪を被せて投獄させることを思いついたのは誰か?それを実行したのは誰か?そして、それを知りながら父を生け贄の羊にしたのは誰か?
セルゲイだけでは駄目なのだ。
己が敵と定めたものの余りの巨大さに圧倒され、なす術もなく立ち尽くした時、傷ついた小さな心が二つ、、、私に救いを求め、、、私をもまた救った。
そしてまた出逢いと別れを繰り返し、、道を誤りもした、土壇場での裏切りにもあった。そのたびに思うのだ。この可愛い寝顔のこの子らが私を頼っている限り、と。自分ではとてもそうは思えないのだが、メイとシンには、私はヒーローらしいのだ。ヒーローは諦めないのがセオリーか、と。
「おはようございます、アイザックさん」
「ああ、おはよう。メイ」
「とうとう朝になっちゃった。もうこれでアイザックさんとシンと三人で同じ部屋に寝ること、ないんですね」
「彼等が一緒に住んでくれるならね。その方がいいと思うよ。新しい部屋はもう片づいた?」
こっくりとうなづいてから不安が見える。
「どんな、、、人達かしら、、写真では優しそうだけど、、怖くないといいな」
「アイザックさん、ねえちゃん、おはよ!オレ今日(飛ばし屋ボウイー)を迎えに行くんだよね!」
寝室から飛び出すなりシンは興奮している。超をつけてもいいほどの有名人だ。それに、この仕事を始めるのを期に、シンやメイにもある程度の役割分担もしてある。何も持たず、誰かの世話になっている状態がどんなに心苦しく、自分を惨めに思わせるか、、私はよく知っているし、二人も十歳なら充分そんな事を感じ取れる年齢だ。第三者が入り込むなら尚更。
シンは彼にいいところを見せたくてしょうがないのだ。コズモレンジャーのチームメイトとして役に立つ男であることを認めさせたいらしい。そしてここで暮らす者として自分の方がはるかに先輩であることも。
「その通り。朝食を取ったらすぐ火星ポートに向かってくれ。一人で行くには少し遠出だが、大丈夫だな?」
「まかせて!」
飛び上がるように寝室に駆け込み、あっという間に着替えて二人とも出てきた。
そういえば、いつごろからメイは私の前で着替えをしなくなったのだろう。もしかしたら近いうちにシンとも別々の部屋を使うようになるのかもしれない。
「メイ、シン。おいで」
黙って側による二人の肩を腕に抱え込んだ。
「よく聞いて、覚えておいてくれ。この仕事は、人を殺さなきゃ出来ない事が多くなるはずだ。私が選んだのはそれが出来る人間だと思っている。だからコズモレンジャーが旨く動き出したら、、きっと、お前たちは彼等を怖いと思うことがいつかあるだろう。彼等が悪い人間なら、私がすぐ追い返そう。けれど、怖いのと、本当に悪い人間なのとは違うことがある。解るな?彼等をよく見ていて欲しい。私にとって良い人間でも、お前たちにとって悪い奴なら、居て欲しくないんだ」
「アイザックさん、、、」
「きっと、、きっと大丈夫だよ。うまくいくよ」
「ええ、そうね。私たちのことは心配しないで、、さあ、準備しなきゃ!まず、朝ごはん、それから私はもう一度お掃除と、木戸さんたちがすぐに使えるように日用品をそろえて、全部すんだら通信室ねっ。シン、お迎え頼んだわよ。ちゃんと敬語使うのよ?」
動き出す、、、、。いちかばちか、、今度こそ、私の行きたいところに、、好きな道のりで。
誰が犠牲者で、誰が敵か。何に向かって牙を剥くか、譲れないものは何か。
一つづつ、この目で見定めてやろう。
いちかばちか、このランデブーに賭けよう。彼等が、メイとシンの新しいヒーローに加わってくれる事を祈る。
それにしても、、、昨日からパンチョ・ポンチョと連絡が取れないのが気になる。いつでもきな臭い場に居合わせる特技のある男だからこそ、私設ポリス、コズモレンジャーJ9の口入れ屋に選んだわけだが、、、今日は顔を見せるように言っておいたのだがな。またどこで何に首を突っ込んだのやら、、。
さて、シンがJ9の操縦関係のエキスパートになる可能性を秘めた男(飛ばし屋ボウイ)を連れて帰ってきた。
熱線兵器をメインに置いた攻撃の主力になる男、木戸丈太郎は今はどこか、、、解らないが正規軍に捕らえられたという情報はない。迎えが必要だと、、一言連絡があれば直ぐにでも飛び出していくのだが、、、。
まずは、第一の男だ。
小さな二人のヒーローになったとして、、私が牛耳られるようでは話にならんからなっ。
『飛ばし屋ボウイことスティーブン・ボウイ、ようこそ』
(動き出す、、、!)
予測不能な軌道を描いて、、Proceed!!
〜2へ〜