J9 基地のゲート1
□Colony ♪
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すぐそこだからと、重ねて誘うボウイに付いて基地を出たら、あきれるほど近かった。そこはJ9基地の目の前にいつも浮かんでいる、10メートルにもならない隕石だったのだから。
もちろん、誰もどころか何もない。交通指標のランプが埋め込まれているだけだ。
言っちまえば酔っぱらい運転だけど、二人乗りしてきたコズモワインダーをボウイは難なくその岩に上陸させると、平らな部分などほとんどない岩のてっぺんに片手をかけて、手招きする。俺も、飛びすぎない程度に岩を蹴ってふわりと上へ向かう。
岩の向こう側にはウエストJ区の、まさしく中心街の一番キラキラした小惑星たちをバックにJ9基地が浮かんでいた。
「ここからが一番ネオンが集中して見えるんだ」
自慢げに言うだけの事はある。いい加減に見慣れてきたはずのJ区やJ9基地に、俺は見とれてしまったのだから。
ちょっと窮屈で、体を動かすとヘルメット同士でゴツンとなるくらいの岩の窪みに、うまいこと座り込む。
「面白い場所だろ?」
こんなに近くで、見たことのない景色に出会えるのはかなり得をした気分だ。宇宙なんて、特にアステロイドなんて代わり映えしないと思ってるだけに。
なんとなく雰囲気に流されてボウイに体重を預けたが、急にばからしくなった。宇宙服でいいムードになってどうするんだか。
「なに考えてる?」
「別に」
「嘘だー。キッドさんいい感じになりかけた癖に」
しらを切って黙っていると、ボウイの方が謝り出す。何て言えばいいのか、、俺としてはさっきのより、こんな瞬間の方が幸せってやつに近い気がするんだ。
「やっぱり来てもらって良かった。部屋だとつい押し倒しちゃうからな」
「いいじゃん別に。嫌なら蹴り飛ばすし」
「ったく、これだから。いちいち蹴り飛ばされる方は痛いし、傷つくんだけど?、、、あ、そうじゃなくて、、、」
「なんだよ」
「あは。やっぱ不便だね。頭かくこともできないや。あのさ、、、ちゃんと言っとかないとって、思って」
なんだか急に改まった話らしい。頭をかけないボウイの手は、所在なさげに膝を抱える。
「怒ったのは確かだけど、避けてたって言われて正直、自分でショックだったからね」
「かまわねえよ別に。改まらなきゃならねえような事、わざわざするなよ」
「全部じゃ、、ないから、、聞いといてよ」
そんなことを言っておきながらボウイはなかなか話し出そうとせず、深呼吸だか溜め息だかわからない肩の動きを繰り返す。
「俺ちゃんさ、セントヘレンのことや、、なんていうか、、その、、」
余りのボウイの緊張ぶりに、俺は無意識にボウイの肩に手をおいた。ボウイを後押ししようとしたのか、止めようとしたのか、自分でもわからない。ボウイは縦に何度か頷いて、俺の手を肩から下ろすとそのまま握っていた。
「要は、、なんでセントヘレンで育ったのかってこと、訊かないでほしいんだ」
拍子抜けした。
「なんだよ、今更、、」
散々聞いたじゃないかと、言いかけて、、、気づく。
聞いてない。
施設での生活や、子供の頃のこと、そこを出てからのこと。いろいろ聞かされて、、そうだ、俺からは訊いていない。ボウイ自身が喋ったことばかりだ。
その中に、施設に入った経緯はなかった。施設での仲間の名前だって何人か覚えてしまっているのに、ボウイがなぜそこに居たのか、、知らないじゃないか。
確かに俺は、ここにきた頃は、こんなに深い関わりになるなんて、ボウイも含めて他の誰にも思っていなかった。なし崩しにズルズルとこうなったからと言って、だからってこんなにも無関心のままだったなんて。
ボウイは孤児。それを記号みたいに鵜呑みにして、想像さえしなかった。双子の事と同じだ。
ボウイがコツンとヘルメットをくっつけてくる。
「いいよね。これくらいのわがままは」