J9 基地のゲート1
□Colony ♪
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「キッドさーん、晩飯だってよーー!」
まるで屈託のない声で、顔で、ボウイは俺の部屋に現れた。中途半端に片付けをして、だらだらと床に座り込んで雑誌をめくっているところに、変な格好で振り返ったものだから、積み上げた雑誌の山を蹴り崩した。
「うわー、、、キッドさん間抜けー、、」
「お前に言われたくねーよ」
すっかり普通に戻っているボウイに安堵と、ちょっとの違和感も感じながらキッチンに着くと、今朝とは打って変わった賑やかさ。
「ウサギとか猫とか、ほんっとに可愛いんだ。柔らかくってさ〜!」
ウサギ?
「J区であんな風に動物をさわれる所があるなんて、びっくりだよ?」
「だろー?俺ちゃんだって、伊達にふらついてるわけでもないんだぜ?」
誰にということもなく喋りまくっているシンに、ボウイが話しかけるとますますシンは目を輝かせてノってくる。
「何の話だよ、シン?」
「あ、キッド、今日ボウイが連れていってくれたんだ!」
だから、どこに?こんな時はほんと、子供だよなーって思う。苦笑してボウイを見上げると、やっと説明が聞けた。何の事はない。J区の自然公園へ行ったらしい。動物と触れ合う事のできるスペースは最近作られたらしく、シンたちも知らなかったようだ。
「アイザックとメイちゃんは先に帰ってきたけど、一緒じゃなかったの?」
「え、ええ。わたしはアイザックさんと、、、その、ショッピングに、、」
「あらぁ〜」
「へえ!二人で何の買い物?所帯臭い買い物したようには見えないな〜?」
「ほ、本屋さんと、、それから、、」
「それから、それから?」
お町とボウイと、俺も混ざって悪乗り気味にメイをからかう。赤くなりながら真面目に返事をしようとしていたメイが、ハッと気づいて膨れる。
「やだもうっ。内緒ですっ」
「えー?いいじゃん」
「ねえ、アイザック?何のショッピングだったのか、気になるわぁ?」
「メイが内緒と言ったのだから、内緒だ」
あーあ、メイがますます真っ赤になった。
朝のぶんを取り戻すような騒がしい食事のあと、メンバー四人はちょっとだけ打ち合わせ。今日入った通信の確認や、例えば俺なら弾薬庫チェックの報告とかそんなトコ。学校での面談が終わる頃をわざわざ見計らって、ボウイがシンを誘いに行った事なんかも聞けた。
一日がそうして過ぎて、俺の部屋の前。時々、、、いや、しょっちゅう、、部屋に入って来ようとするボウイと攻防戦を展開する場所だけど、今夜はあっさり「それじゃ」。誰か居れば俺も言葉をボウイも全く普通通りにしてるから、ボウイがまだ不機嫌なのかなんなのか、、正直、わからなかったけど。
ボウイは普段ここで別れる時と同じように、ドアが閉まるまでずっとそこで立っていた。同じように笑っていた。
ドアの中で一呼吸。やっぱり呼び戻す事にした。
「おい!」
廊下に出るとボウイはもう自分の部屋の前まで行ってしまっていて、呼び止めても犬ころが尻尾ふって飛び付いてくるような素振りも見せない。ドアの前で、、、まだ突っ立って困った顔をしてるんじゃないかと、、勝手に期待した自分に気づいた。
「なに?どしたん、キッドさん」
呼んだきりで黙ってる俺の所まで、ボウイはちゃんと小走りで戻ってきたが、何でもなさそうなその笑顔に、俺はつい、言ってしまった。
「お前、文句あるならなんで顔だけ笑ってんだよ!」
呆気に取られるボウイの顔。しまったと、内心思うが、惰性で俺の顔は膨れっ面モードが止まらない。
「ったく、しょうがないなー。入るよ?」
廊下をチラッと見回して、ボウイは俺を押し戻すように入ってきた。ドアが閉まって、驚くくらいほっとする。
「あー、、、その、、悪りぃ」
ほっとして、素直なセリフがするっと出て、俺としてはさらにほっとしたのだけど、、。
「何が?今朝の事ならそのまんまスルーしてくれりゃいいのにさ。なに気にしてんの?とっくに忘れたかと思ってたのに」
「ちょっと待てよ、謝ってんのに、その態度かよ?」
「だから、気にするなって言ってんじゃん」
そう言いながら、それじゃまるで謝る事そのものまで拒否してる感じだ。こんな気持ち悪いコト、はいそうですか、なんて、俺が言うか?
「ボウイ、ちょっと飲んでいけ」
命令口調だけど、ボウイはそれについては怒りもしないで承知した。
酒で懐柔、、?こっちだって無神経な事を言った後ろめたさみたいなもんはあるんだ。怒鳴り合いはごめんだし。