J9 基地のゲート1
□Colony ♪
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今日は朝食に間に合った。廊下に出ると、キッチンの方からあったかい感じの人の気配がするから、すぐにわかる。
「間に合ったな。ベーコンエッグ?俺もいい?」
「おはようございます。トーストは二枚?」
「いいよ、俺やる」
仕事が不規則な上、段々慣れも出てきて、油断するとついだらしない食生活になりそうな俺やボウイに、メイは本当によく付き合ってくれる。甘えないようにとは思ってるんだけど。
「おはようキッドちゃん」
珍しくお町がコーヒーなんか入れてる。
「あれ?シンは?」
「うん、、なんかアイザックにべったりなの」
それは今日に始まった事じゃないだろうに、、と、のぞいてみると、確かにいつにも増してくっついてる。今にも膝の上に上がり込みそうだ。
アイザックもまた、、、何て言うのか微妙すぎてうまく説明が付かないけど、保護者ぶりの頭に『過』を乗せてるようだ。
二人の様子をお町と窺っていると、最後のベーコンエッグを皿に移してメイが手を止めた。
「今日、、、学校に行くの、、」
が、学校?
もちろんメイもシンも学校に席がある。ほとんど丸々、通信で単位を取るコースらしいので、思わず「行く」という言い方に驚いてしまったが、全く一度も登校しないなんてワケは無いのだ。今日はその「行く日」。アイザックも一緒にという事で、面談のような事があるらしい。
それにしても、、メイは溜め息多いし、シンは喋りもせずに黙々と食べるし、なんだか空気が重い。
「ねえ、ボウイちゃんは?隣部屋なんだから、起こしてあげればいいのに」
お町だけが到って平常営業だ。
「隣だからヤなんだよ。いっぺんやったら、そのまま日課になりかねないだろ」
嘘です。同じ部屋の同じベッドから出て来ました。年がら年中、どっちか一つの部屋から二人で出てくるのもどうかと思って、敢えてボウイを置いてきてるんですよ。おわかり?
いや、、、わからなくて結構。
とうとう出てこなかったボウイをわざわざ起こそうと思ったのは、ただの気まぐれだ。ベッドに座って小突いてやると、ん〜とか、あーとか唸って寝返りを打つ。
「何時だよ〜?」
「八時、、半かな」
「えー、、、?明日は起こさないでって、言ったじゃん」
忘れてた。
「仕事?」
パッと目を開けてボウイは起き上がった。
「違う違う。今日は無いんじゃない?アイザックたちが出かけるらしいから」
「なんで起こすのよーっ。、あーもう!寝られなくなったじゃんよ!」
「起きちまえばいいだろ」
眠りの女神に未練タラタラで、再びベッドに倒れ込む。文句の言葉もトゲのあるアクセント。
まあ、俺が忘れてたのも悪いのだからと、軽く、、、ほんの軽〜く、挨拶代りのキスをくれてみたら、、。
「なんだ、、朝から誘ってんの?だったらもう少し優しく起こしてくれよ」
と、きたもんだ。
「誘ってねえ!」
寝ぼけに色ぼけまで揃えたツラにカウンター一発。
「ったく、寝起き悪い上に朝から鬱陶しいな。アイザックもピリッとしねえし、朝からやりづれえったら」
「悪かったね!鬱陶しくて。で、アイザックがなんだって?」
「学校だとさ。シンの奴はすっかりめためた甘えっ子だし、メイもおろおろしてるしさ。あの年で進路決定でもないだろうにアイザックまでおたついて、調子っぱずれもいいとこだぜ。たかが面談でさ」
朝食での様子を説明してるうち、ボウイが真顔で黙りこんでいることに気づいて、尻切れのように俺も言葉を切った。
「ボウイ?」
「たかがって、、、キッドさんさ、面談って成績の話だけとか、思ってるわけ?」
え、、、、、。
突き放すような低い声。ヤバイと思った時には、目を合わさないまま、ボウイは俺の前を横切ってバスルームへ消えた。
しまった。やらかした。
午前中はひと汗ながして、クールダウンして、射撃室に入って、、そんな辺りで過ごした。ボウイを怒らせたようだけど、それもクールダウンのつもりで。
アイザックたちは午後一番で学校に着きたいような事を言っていたから、メイに昼食の心配をさせないように、早めにボウイを誘って外食するつもりでいた。
ところがボウイが見当たらない。半日くらいじゃ奴はクールダウンにならなかったらしい。
お町を誘う気にもならず、俺はキッチンでインスタントちっくな昼飯を済ませた。ああ、うまくねえ。
午後は、今日は最初から弾薬庫のチェックをするつもりでいた。ボウイを手伝わせて、お町も投入して、、、。その弾薬庫に、結局、一人でいる。
作業が捗らない事はないけど、区切りがいいところで手を止める度に、考え込む。
四六時中、意識してなんていらんないぜ。三者面談、、、ボウイと教師と、もう一人が誰なのか、、、なんて。
かなり、、ヤバイのかな。すねるでも騒ぐでもなく、一発でふて腐れやがって。
あ、起こした時点で一発、殴って二発だったか。