J9 基地のゲート1

□サムライ!
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 朝食前のJ9 基地。トレーニングウエアをシャカシャカ言わせながらボウイが歩く。

 やっぱり起きてしまった。暇が続いた上に、夕べは妙に早寝してしまったのだ。

 暇。これほど恐ろしいものはない。遊び回って、溜まった雑事を片付け、趣味に走り、興味に飛び付く。それでもまだ仕事が来なかったら、それはもう、いろんな意味で怖い。

 こんな時、いち早く動き出すのはボウイ。いわゆるオフと呼ばれる日々を誰よりもエネルギッシュに騒々しく過ごして居たかと思うと、突然トレーニング三昧に突入する。

 ジムと食堂を行ったり来たりするボウイを見かけると、キッドやお町も依頼を待ちわびてソワソワし始めるのが順番のようになっている。

 さて、シャカシャカと、、、廊下を歩いて来たボウイは、開け放たれたままのジムの入り口で、思わず息を飲んで足を止めた。

 広いジムの真ん中に、キッドが座っていた。 

 黒にも紫にも見えるような濃い藍色の、胴着に、袴。

 静かに目を閉じ正座をしている。その姿は今まで全く見たことのない雰囲気を纏っていた。

 とても声をかけられる感じではない。いや、かけようと思えなかった。

 瞬きを忘れるくらい、視線はキッドに吸い付いて離れない。

 身動きひとつしないその横顔。すっと伸びた背筋。脇にはひとふりの刀。

 視線ばかりか、まるで風に背を押されるように体ごと吸い寄せられそうになって、ボウイは入り口の壁に手をついた。

 どちらも全く動かない、静かな時間が流れる。

 ドキドキと高鳴っていた心臓が、キッドの静けさに寄り添うようにおとなしくなっていくのをボウイは感じていた。

 このままずっと見ていたい半面、ふと、この素晴らしいものを自慢したい衝動に駆られる。

 その場をそっと後退り、ジムの隣の部屋に入り込むと、基地のどこにでもある連絡パネルに飛び付いた。

「アイザック!アイザック!ジムにサムライが居る!!」

 言うだけ言って切った。シンの「大変だ!」よりタチが悪い。

 やがて廊下の向こうにアイザックの姿を見つけると、ボウイは人差し指を口にあて、腕をぶん回しながら呼びつけた。

「ほう、、確かにサムライ、だな。さしずめブライソードのイメージトレーニングという辺りか」

 アイザックの目にもエキゾチックと映ったのだろうか、興味深げにキッドを眺めている。

「カッコいいよね、、、、。ずっと目つぶったままだけどさ」

「集中力を高めているのだろう。精神を重んずるらしいからな。確か、、黙想とか、、」

「しかしえらく長い精神統一だなぁ。もう20分くらいやってるかも」

 その点について特に解説を持たないアイザックは口を閉じ、二人は改めてキッドを見つめた。

「おい」

 ジムに静かなキッドの声が響いた。

「あ、やっぱ気づいてた?」

「すまない。邪魔をしたか?」

 目を開けて小さく息をついたキッドを見て、ようやく二人はジムに足を踏み入れたのだが、、、。

「来るな!そのまま回れ右だ!」

 二人は首を傾げながら構わず近付く。膝に置かれたキッドの、両の拳がグッと握り締められた。

「来るなって言ってんのに、こいつらぁっっっ!」

「なに、どしてよキッドさん」

 ぽんと、ボウイがキッドの肩に触れるや否や。

「あ"あぁぁっっっっっ!」

 怒りのこもった絶叫とともにキッドはひっくり返った。



「ぎゃはははは、、、ば、ばかじゃねえの、足しびれてんのバレんのが嫌で動けないとか!」

「同感だな」

「うるせっ!本番にゃそんな事ないんだから構わねえだろが!」

「当たり前だ。ブライガーの足がしびれてたまるか」

 投げ出していた足を擦っていたキッドは、立ち直ると傍らの刀を掴みさっそくボウイを追い始めた。

「うわわ、たんま!あぶねって!切れるって!」

「切れるか、ばーか!木刀ってんだこれは」

「え、そなの?ちょ、ちょっと待ってよ!切れないヤツなら俺ちゃんもやってみたい!ね、ね、どうやって振るの?」

 案外まじめな顔で興味を示すボウイに、やっとキッドの勢いが止まる。

「なに、そんなにやりたい?」

「だって、カッコいいじゃん!ぜひに教えてちょうだいな」

「ふーん?いいぜ。初心者にちょうどいい練習方法があるんだ。しかもみんなで楽しく出来る」

「まじ!」

「おう、必要な物があるから、後で買って来いよ」

「オッケー。んで、何を買って来ればいい?」

「スイカ。丸々1個だぜ」

「りょーかいしましたー!」

 端で聞いていたアイザックが怪訝な顔をする。

「キッド、どうやって使うんだね、スイカ」

「知りたけりゃ、第32話・祈りの銀河を、見るんだな」



ーそして第32話へ続くー





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