J9 基地のゲート1

□ー地上より愛を込めて赤飯弁当届けますーだって大人でしょおめでとーー
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 基地中にサイレンが響き渡る。どこもかしこもレッドランプが点滅している。キッドとボウイが戻らない。コネクションにつかまってしまったのだ。
 余りの非常事態に体が震えて力が入らない。メタリックの壁が、床が、うるさく赤い色を照り返す中、よろめくようにセンタールームに駆け込む。
 メインスクリーンには、いやらしく太ったコネクションの幹部が、一糸まとわぬ姿でぐったり倒れ伏すキッドを足下に打ち据えて、悪意むき出しで笑っていた。その後ろでは猛獣の檻に入れられたボウイが、衣服も引き裂かれて、今にも牙にかけられんとしているではないか。

「こいつらを助けたければ、お前が来い!いいな、メイ・リン・ホー!」

 その男は真っ直ぐにメイを指差した。
 行かなければ!躊躇なくメイはそう思った。自分が二人を助けなければ!
 ボウイに襲いかかろうとしているのは、あれは虎だった。男の着ていた服から言っても、レッドドラゴンに違いない。赤龍城の見取り図、それから男のデータ、、、、ああ、でも、、!どうやって?
 私には、宝玉がない!手に入れないと!
 廊下に飛び出した。霧のかかったような視界の悪い廊下。どこまでも続く、直線の迷路のようなマテリアルの道。手探りで走りながら、手に触れるドアというドアを開いていく。
 どこ?どこにあるの、私の宝玉!
 まるで湖に近い森のように霧が立ち込める中、向こうから何かが、、誰かが近づいて来る。ひづめの音、風を切って駆けてくる駿馬。白霧の中から現れたのは、漆黒の馬、漆黒のマント、腰に大刀を帯びたその男。

「アイザックさん!」

 良かった!見つけたわ、私の宝玉。これで二人を救い出せる。
 けれどなぜ馬なのだろう。よくよく見ればアイザックはその頭に細作りの王冠を頂いて、、中世の騎士か、、。
 王子様??
 アイザックさんが、、王子様で、、、私の宝玉で、、、、あらら???
 混乱するメイの前で、アイザックはひらりとマントをひらめかせて馬から飛び降りた。
 マントの下にはベルト一本すら身につけていなかった。

「いやーっっっっっっ!」




 自分の悲鳴で飛び起きても、まだ動転していた。いくらなんでもだ。何だってあんな夢を見てしまったのか。人から無理に見せられるものではない、自分が勝手に見てしまった事が、何しろショックだ。
 驚いて起きたお町がいろいろ訊ねてくるのを赤くなってごまかす。
 もう朝。起きてもいい頃合いだから、それなりに眠れはしたようだったが、着替えてすっかり目が覚めた頃に、下腹部が重いような痛いような感じがしはじめて、あまりいい気分とは言えなかった。

「いいわよ、朝ごはんなんか作らなくて。あたし先に行ってコーヒー沸かしておくわね。テーブルにパンだけ乗せて置けばいいわよね。どう?ちょっとくらい痛くても、食べる時には出てきた方がいいんじゃないかな」

「あ、うん、大丈夫そう。あとで行きます。あの、、お町さん、、」

 メイからゴムを借りて髪を後ろでひっつめたお町が、眠気を払うようにパッと振りかえる。もじもじしているメイを見て思い直したのか、そばまで戻って来てくれた。

「どうしたの?」

 メイは夕べからずっと、どうしても気になる事があった。お町が行ってしまう前に聞いておかなければならない。

「あの、、アイザックさんに、教えるの?」

 その名前を言った途端、夢の中のすっとんきょうなアイザックの姿が浮かんで真っ赤になってしまった。でも聞いておかなければ。お町がアイザックに報告するのだろうか。それとも、自分で言わないといけない事なのだろうか。

「そうね、、保護者としてなら、あなたの健康の事、何も知りませんでしたでは、済まないものね、、、」

 改めてお町は考えこんだ。メイについて一番責任のある保護者はアイザックをおいて他にない。けれどある面、彼は他人の男でもある。
 自分ならどうか。母はお町の目の前で、今日はお祝いだからと、父に報告した。とてつもなく恥ずかしかったが、仕方がないとも思えた。例えば、同居している他人の男がいたとしたら、、、わざわざ知られたくは、、、ない。当然だ。

「そうか!」

 やおらお町は手を打ち合わせた。飛び上がらんばかりの、それは発見だった。

「知られたくないのね?それ、アイザックだから、じゃない?」

 目に浮かぶようだった。キッドやボウイに関してはほとんどどうでもいいのだ。知られたところで、メイも恥ずかしさ紛れに膨れて見せたりするだろう。シンがからかおうものなら、平手くらいするかもしれない。
 でもアイザックだけは別物なのだろう。
 メイも何となく、改めて問われて、そんな気がした。

「わかったわ。アイザックが聞いてきたら正直に言うけど、それまでは黙っててあげる。その代わり、しっかり食べて、健康管理する事と、どんなに些細な事でもいいから、私にはちゃんと言ってね」

「ありがとう!大丈夫、お町さんしか相談出来る人居ないんだし、それに、あとでお町さんがアイザックさんに怒られるような事にならないように注意するわ」

 わきまえっぷりに関心しながら、、そのわきまえのよさが、後々彼女自身にとって邪魔になりそうな予感がして、、、お町は内心舌を出した。あまりに先走りすぎた自分の考えにあきれて。

「ねえ、、メイちゃん、アイザックのこと、好きでしょ?」

「え、、」

「男としてって、意味よ」

「え、おと、、、ええっ?あ、あたし、、が、、?」

 私がアイザックさんを、、好き?
 こうしてメイもまた、お町と同じ謎かけの中へ、、、結末を探す旅に出発するのだった。





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