J9 基地のゲート1

□ー地上より愛を込めて赤飯弁当届けますーだって大人でしょおめでとーー
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「ねえねえ、この前見た西部劇みたいな映画、なんて言ったっけ?」

 夜も10時近くキッドの部屋で、元気バリバリなシンの声。
 夕食後からずっとこの調子で居座り続けるシンに、そろそろかったるくなってきてはいるものの、案外まともに受け答えをしているキッド。

「主役が持ってた銃ってさ、なんだっけ?あれってほんとにああいう銃があったの?」

「どうかな、どっちにしても博物館クラスだけどな」

 付き合いよく返事をしているのは話題のせいだろうか。

「でも凄かったよね、最後の爆発のシーン。昔の火薬でもあんな風に爆発するの?」

 次から次へと、全くよく喋る。度々、話題はズレてゆくが、いつの間にか戻ってくる。切れ目のつかないお喋りぶりは、まるで女の子の群れのようで、成長したら一体どういうオトコになるのかと、妙な心配などしてしまう。それより、あのアイザックを相手に5年間、シンはずっとこの調子だったのだろうか。
 生返事になりつつあるのを自覚しながらも、シンの様子に余裕を持って思いを馳せていたりするのは、キッド一人だった。

「おい、そろそろ部屋に戻って寝ろよ。メイに締め出されるぞ」

 シンと同じく居座り続けているボウイは、いい加減そわそわした気分を隠しきれない。

「いいよべつに、どこだって眠れるもん」

 お前がよくてもコッチはよくない。とは、さすがに言わない。「なんで」などと、子供特有の意味なく直球な質問をされたらごまかすのがめんどくさい。脳みそと口の距離が短いボウイでさえ、それを学習するほどにはシンたちと付き合って来ている。

「夜更かしさせたのがばれたら、俺たちがアイザックに怒られるんだぜ?」

「えっ、そうなの?」

 真顔になって慌てて時計を振り仰ぐ姿にキッドが吹き出しかけて横を向いた。アイザック、非情によく聞く薬である。

「大丈夫だって、言いやしないさ。今度ゆっくり時間が取れたらさ、銃火器専門の博物館しってるから連れてってやるよ。今日はもう寝な」

「ほんとに!うん、わかった。じゃ、もう行くね。おやすみっ」

 驚くくらいあっけなくシンは部屋を出て行った。
 ようやくキッドと二人、オトナ〜の時間が取れたと言うのに、ボウイは口を尖らせる。

「なんだよアイツ〜。ずいぶんとキッドの言うことよく聞くじゃんっ」

 ソファーを使うよりベットに座り込んでしまった方が居心地がよいという程度の、さほど広くはない部屋。望めばいくらでも使い放題の、人口密度の低いJ9 基地ではあるが、年齢に見あったと言うべきか、一人暮らしとしては一般的な面積をキッドは選んでいる。
 シンがとっ散らかして行った銃のカタログだのクッキーの空き箱だのを、テーブルを跨いでみたりソファーを踏み台にしてみたりと、無精なやり方で片付けているボウイ。ベットでだれているキッドは、手の届く範囲の物をボウイに向かって放っている。

「おまけにキッドさんてば、人の事呼びつけてほったらかしにしといてさ、シンばっかり構ってんだもんな」

「くっだらねえ妬きかたしてるとゴミと一緒に捨てるぞ。、、、と、えーと、俺が呼んだんだっけ?」

 ブーイングを出しまくりながら、キッドを捕らえようと押してくるボウイを、邪険にしない程度に、受け流し、からかい。呼びつけた理由は自分でもちろん承知しつつの、コトバアソビ。今夜の優位を保つため、駆け引きじみたじゃれあい。
 それにしても、たった今シンが出て行ったばかりのタイミングでは何とはなしに気が削がれる。シャツのボタンを一つ、二つ外され、肌に直接触れてくるのを許してはいたが、やっぱりイマイチ、と、勝手に頭の中を切り替えてすっくり立ち上がる。
 ブーイングを通り越して不安になりつつあるボウイを尻目に、ミニサイズの冷蔵庫から取り出した烏龍茶。

「それって、、ちょっとー、、終了の合図みたいに見えるんスけどぉ?」

「ふくれるなって。俺さ、自分でけっこう驚いてんだよ。子供に好かれるとは思ってなかったからさ」

「ああ、シン?」

 話題が振り出しに戻ってしまったが、キッドは自分を追い出しにかかってる訳ではない。それだけわかれば、もうボウイはハッピーだ。

「確かにネー、ことさら子供好きには見えないけどさ。でも、ありゃ、シンの方が特別なつっこい奴なんでないの?」

「そう?そうだよな、やっぱり」

 兄弟ではない、兄弟のように育った子供を多く持っているボウイが言うのだから、間違いないだろう。一人っ子のうえ、子供と接する機会もたいしてなかったキッドは、思わず合点がいったという顔でしきりとうなづく。
 最初にここに来たときは子供が居ることに戸惑いもしたし、そのままずっと衣食住を共にすると聞いてかなり面食らった。それはあのアイザックとの取り合わせの妙も有っての事だが、正直なところを言えば、気まずくならない程度に付き合えればいいと、、、思ったりしていたものだ。
 それが、ふたを開けてみれば当の子供たちは素直だし物わかりが何しろよろしい。一番厄介に思えていたハジメマシテ的な気恥ずかしさも、ボウイの周囲に居るせいだろうが、感じないままだった。今ではもう、日に一度くらい用もないのにシンがちょこまかと現れる事で、ほっとする自分にも気付いている。ぶっちゃければ、同じまとわりつかれるならボウイよりラク、、。

「メイの方はさすがに女の子っていうか、多少は気ぃ使っちゃうけど、シンはずんずん来るもんな」

「そういやメイちゃん、最近はあんまり部屋に来たりしないよなあ、、、」

「双子で環境も同じで、それでもけっこう違うから面白いよな」

「いや、そうじゃなくて、、」

 言われてキッドも思い返してみた。最初のころ、しょっちゅう部屋を訪れては、トイレットペーパーだのの消耗品の心配をしてくれたり、食べ物の好き嫌いなど問われたり、色々な気配りのためにまとわりついていたのはメイだった。生活もすっかり軌道に乗って、彼女の気配りが無くとも困ったり不服があったりする訳ではないが、確かにここのところ、メイとのやり取りは控えめだ。特に変わった様子でもないが、シンのように一人でこちらに訪ねて来る事がめっきり無くなっている。

「俺ちゃんのあれが、、、まずかったかな、、、ひょっとして、、」

 考え込んでいたボウイが何やら暴露し始めた。

「あれって?何か余計な事でも言ったのか?」

「そんなじゃないけど、しばらく前にさ、部屋にメイちゃん来てるの知らなくて、パンツ一枚でご対面しちゃったんだわ」

 ふーん、と聞いていたキッドが、はっ、と口を押さえる。

「、、、やべ、、、、」

「え?やべ、、って、まさかキッドさんも何か、、した、とか?」

 口を押さえたまま、キッドが縦にぶんぶんと頷く。

「忘れてたけど、、、今思うとマジやばかったかも。俺、全裸見られた。前から」

「えーっ!俺ちゃんだってそんなラッキーなトコ出くわしてないのに、よりによってなんでメイちゃんっ?こりゃーもう、こっちで呼ばない限りは部屋なんか来てくれないと見たね」

「なコト言ったってさ!メイだって、キャーとか、ワーとか騒げば平謝りもしたけど、別にどうもしなかったから、、コッチもつい寝ぼけてて、悪りぃ、て、、、、そのまま」

「それ、ショックのあまり声も出なかったんじゃないのーっ?それじゃお町だって来なくなるぜ」

 言葉のあやだ。お町はそんな事はない、、とは言ったほうも聞いたほうも思ったが、この際それはどうでもよい。

「そんなにガーガー言うなよ!お前だって似たり寄ったりだろうが!」

「ぜんっぜんちがう!正面からモノを見たと見ないでは、全然違う。いくらキッドのカラダが綺麗でもね、美術館の彫刻とは訳が違うんだからねっ」

 どさくさ紛れに何か言われたが、構ってる気分ではない。とはいっても、今更、気がついたってしょうもない事なのだった。
 そう、実際それはメイにとっても、とっくのとうに過ぎ去ってしまった出来事なのだった。ただ、メイはとうとうキッドのヌードを見たことも、ボウイのパンツいっちょうを見たことも、誰にも言えずじまいだった。
 
 
 
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