J9 基地のゲート1

□MATERIAL FRIENDS
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 明け方までキッドと遊び回ったせいですっかり朝食を取りそびれてしまったボウイ。腹の足しになるものを求めて徘徊し始めた。
 キッチンに辿り着く手前、メイとシンの部屋を過ぎた辺りに小さな創庫代わりの部屋がある。創庫と言うよりは物置。日用品のストックや、家電の類いが置いてある。

「はぁい、リンリンは今日はA ブロックお願いね。ポコタンとアッシュは大変だけど、格納庫よ」

 開け放しになったその部屋からメイの声。彼女の仕事場の一部と化している部屋なのでおかしいことはないのだが、、、。

(リンリンにポコタン?誰ヨ、ソレは?)

 ドアの隙間から、ひょいと顔を出して覗いてみれば、ずんぐりむっくりの清掃用ミニロボに指示をインプットしているところである。
 どうにも愛嬌あるその姿に、つい、いたずら心をそそられたボウイが、ペンキで顔を描いて以来、すっかりみんな調子に乗り、今ではリボンや蝶ネクタイ、マントをしたものまでいる始末。

「イサクは充電してあげるから待っててね。サァ、みんな、行ってらっしゃい」

 メイが可愛らしい命令を下していく姿に思わず笑みがこぼれた。マントをしたイサクは、創世記に出てくるアブラハムの息子、、言わずと知れたアイザック。アッシュと言うのはアステロイド出身のアイドルの名じゃなかったろうか。
 ピコピコと音をたてながら、身長1メートル足らずのメイの部下たちがそれぞれの方向へ廊下を進んでいく。
 さてボウイは、まだ声もかけずに覗いている。慣れない思案のふちに腰かけて。
 可愛くて笑ってしまったものの、少々考えずにはいられない。血縁でもない大人四人と生活し、スクールに行くでもなし、友達の家に遊びに行くというのも聞いたためしがない。
 J 区と言えど子供くらい住んでいるが、土地柄ゆえ「校門から玄関まで」を謳い文句にスクールシャトルでの送迎は徹底しており、他所の子と出会う可能性は相当低い。
 午後10時を回った頃合いからは、風俗系の仕事につく親をもった子供どうし、繁華街の路地裏に溜まり始める姿が見られる。親が同じ店の者やあるいは近隣の店も一緒になって、子供たちは互いに面倒を見合いながら時間を潰す。J 区の治安の悪さと比例して、彼等の、余所者を排除するカベは高い。
 しかし、彼等とたいして変わらぬ境遇で育ってきたボウイである。チャンスがあれば仲良くなれないこともないだろうとは思うのだが、メイ達がそんな時間に外出などあり得ない。
 チャンスが巡ってきたとして、「ウチにおいでよ」の一言が言えないJ9 稼業。観光ゾーンで出会った友達はいずれ地球へ帰っていく。どちらにせよ、その場きりのトモダチ。
 キッドやボウイにしてみれば逆に都合のいいもので、観光ゾーンで知り合った女の子とは気がとがめる事もなく遊べる。相手もそれを期待しているのだ。ウエストゾーンのちょっと危ない男の子との、その場かぎりの恋真似。
 18の男共には都合が良くとも、10歳の双子にいいわけはない。独りでミニロボ相手にお話ししている所など見てしまっては、、、何か言わずにはいられない。その姿が可愛いから、シンもまた、そんな事に関しては一切文句も言わないから。

「メ〜イちゃん、その子イサクっていうんだ?」

「やだぁボウイさん見てたの?あっ、もうお昼の時間?」

 小さな脚立に上がってイサク君のバッテリーセットを取り出そうとしていたメイが、顔を赤らめて慌てたついでに足元が怪しくなる。

「あ、危ないって〜。いやまだお昼には早いけど、、ほら、かしてみ」

 支えたメイの体は天使のように軽くて、ふわっと着地させてあげられる。
 セットを受け取って、中華鍋の底のようなイサクの頭をパカッと開けながら、とりあえずボウイは言葉をつなげる。

「お前さん、なかなかいい名前もらったじゃん?どーれ、頭ん中みせてみな。ふうん、ご主人様は優しい上に小まめデスねー」

「あら、わたしは使うだけなのよ。面倒はシンが見てくれるの」

 ああ、なるほどなどと受け答えをしながら、話の取っ掛かりを掴むのが下手なボウイ。つい唐突にそのまんまを言ってしまう。

「ね、あのさ、ガッコーとか、行きたくならない?」

 もう少し気の利いた言い方があるだろうにと、、、自分で思うが、言ってしまったものは引っ込まない。案の定、メイは目を丸くする。

「どう、、、して、?」

 大きな瞳が不安げにボウイを見つめ、見る間に潤んできた。何か誤解された事を悟ってボウイは焦り、さらに気の利かない方向へ落っこちる。

「あ、いや、その、、もちろん一日中いてくれた方が嬉しいし、仕事で助けてもらう事だって段々多くなってきてるし、、その、だから、、と、友達、、ほしいだろうなって、、ちょっと、、」

 対等な大人を相手に必死の言い訳でもするようなボウイを見て、メイはすんでのところで涙をとめて、くすくす笑いだした。

「うん、あの、ありがと。あのね、前はね、通信でだけど授業受けてたの。でもアイザックさんに、予習とか見てもらってるうちに、授業の進み方が遅いなぁって、思っちゃって、、。今はぜんぶ、アイザックさんに教わってるけど、来年、、か、その次の年までにハイスクールの入試に挑戦するのが目標なの」

「ええっ?!ハイ、、、うっそー。まさかシンも?」

 縦にうなづくメイを見て、調子に載って、勉強みてやる、、なんて言わなくて良かったと、内心冷や汗。「挑戦だけよ」とメイは照れるが、誰かさんは教師でも食っていけると確信した。




 
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