J9 基地のゲート1

□戦闘開始
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 今度こそアイザックは度肝を抜かれた。
 いつでも四方に情報を求め、いつ何が起こりそうか、ある程度の予測はついてしまう彼である。
 だが、こればかりは。
 気づかずにいた。それとも無意識にあり得ない事として塞いでしまっていたのか。ともかくそんな間にメイの方はグンと加速度をつけて、もうこんなところに来ているのだ。彼女の心の中はもとより、その速ささえ予測が追い付かない。
 そこへ突然バーナード星の話だ。テーブルを挟んで立ち上がってしまったまま、アイザックは「なぜ?」という言葉さえ口から出ない。

「ごめんなさい。ラスプーチンさんの所で、、、お二人で話しているのを、ずっと聞いてしまったの。ごめんなさい、、でも、、!」

 置いて行かないで、、、そんな言葉は、もうメイにとっては幼稚過ぎてプライドが許さない。だからと言って強引について行くというような大層な事が言える訳もない。生活の自立もかなわず、当の相手の庇護下に置かれていることは何よりもはっきりわかっている。せめて、連れて行って欲しいと、、、重ねて気持ちを伝えるより他にない。
 彼女やシンが大人になるという事は、自分から離れて行く事とイコールなのだと、、、三人の同居人との生活を重ねるうちに、少しづつ覚悟のようなものさえ固めかけていたアイザックである。先刻、二人が部屋を出て行った後など、実際にそんな時が近づいて来ている事を感じて、落ち着かない気分で、、、、それは寂しいという感情に他ならないのだが、、、、、いたというのに。
 拙いながらも切羽詰まった真っ直ぐさで秘密を見せてしまったメイに、けれどもアイザックは、そんな風にこれまでの彼女、シンと共に彼女たち、、の、成長と結びつけてでしか、、、、今はまだ考えもままならない。誰が聞いてもこれは恋の告白だというのに、メイに対してYES かNO か、、、自分が返事をしなければならない立場にある事さえ、咄嗟には思い付かないのだ。
 硬直したように気をつけの姿勢でスカートの端をきゅっと握り、身じろぎもしないメイ。
 必死のあまりゆるりともしない視線に、愛しさが込み上げてその肩へ手を伸ばす。さっきと同じ仕草で触れて、そして今度は押し戻さずに引き寄せようとしたが、、、、、、。

「、、や、、いや、、!」

 我に返ったように身を引いたメイは反動ですとんとソファーに腰を落とした。何を拒まれたのかわからないでいるアイザックを、じっと見上げ、そしてうつむく。

「アイザックさんわかってない、、。やっぱりわかってないんだわ。私、、もう部屋に戻ります」

 言って、再び顔を上げたメイは明らかに一回り大人びた表情を見せた。
 バーナード星の件はしばらくは誰にも言わない代わりに、何か話が進むような事があればちゃんと教えてくれるようにと念を押し、アイザックが小さく首を縦に動かすのを確認してから、ようやく今夜はじめての笑顔を見せた。そして、ドアの前で立ち止まると、可愛らしげに両手を腰に当てて言った。

「アイザックさん約束して。わかんなくたっていいから、、、これからはもう、一緒の部屋で寝ようなんてカンタンに言ったりしないで。ね?」




 水星上空での大抗争を経てオメガコネクションが崩壊、息つく間もなく大アトゥーム計画阻止へ乗り出し、、、、そしてフライバイの旅路へ、、、。そんな大変動まであとほんの2ヶ月足らずとは、ヌビアの神のみぞ知る。
 不安と混乱の中へ突き進むアステロイドの一角で、この瞬間から恋の駆け引きは始まったのだった。






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