J9 基地のゲート1

□Dancing Philosophy
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 お町が寝室に連れ込まれると同時、マクベインが一人になったタイミングを見てキッドが乗り込んで来ているはずだった。一階にある社長室へ走りながら、お町は首をかしげた。
 兵隊もろくな警備システムも無いような所へ乗り込んで来るキッドに比べ、手間もリスクもこちらの方が高かったのだ。当然、さっさと片付けたキッドがこちらへ応援に来ると思っていた。作戦ではなかったが、そうなるだろうと。しかしまだキッドが来ない。
 廊下の先の社長室。開け放たれたドアから明かりが漏れてはいるが、まだ何事も起こっていないかと思うくらい静かだ。最も、キッドが来ていたとしても、彼の事である、ドスンバタンと騒々しい現場にはならないだろうが。
 もし来ていないのなら、自分が片づけてしまった方がよいだろう。ブラスターを構え直し、足音を忍ばせる。壁に沿って行くと声が聞こえてきた。どうやら到着しているようである。いつでも飛び出せるようにしつつ、邪魔をせぬようそのまま待機した。

「頼む、わかってくれ、私だって脅されていたんだ!誰が好んでこんな酷い真似をするものか。わかっていた、、わかっていたんだ、、だが、抜け出せなかった。君が現れた時、正直、天の助けがきたものとばかり、、そうだろう?これで奴等と縁が切れると、、、そうじゃないのか?」

 お町は頭を抱えたくなった。命乞いの真っ最中である。そっと覗きこんで本当に頭に手をやってしまった。何を思ったのかキッドは、その足元に触れることが出来るほどマクベインが近寄るのを許してしまっている。

「助けではなく、裁きだと言うなら、、仕方がない事かもしれない、、だか、、しかし待ってくれ。裁かれる前に、あの娘たち、、私が奴等に渡してしまったあの娘たちにこそ裁かれたい。リンダが亡くなったことは聞いている。けれど、他の、、、他の娘たちはあれから一体、、、彼女たちの前に私を引き据えてくれ。頼む、生きているうちに、償えなくともせめて!」

 すがり付かんばかりににじり寄るマクベインに、銃口を向けているものの、キッドは仁王立ちのまま動こうとしない。見るに見かねて室内に踏み込んだ時である。
 ドン、と、体が浮き上がるほどの爆発音が上階から響く。寝室からの脱出を図った男の末路だった。
 衝撃で背の高い観葉植物が、タイミング悪くキッドとマクベインのほうへ倒れかかる。瞬間、マクベインはキッドの足を引き倒した。倒れ込みながらキッドが引き金を引く。至近距離で腕を貫いたが、生い茂る観葉植物の枝葉に邪魔されて命中とはいかない。
 お町もまた銃口を向けたが、その時にはすでにキッドは立ち上がり、お町の位置からでは狙えなくなっていた。

「なにしてんのよっ」

 キッドとは違う角度になるように注意しながら近づいたが、男の姿が消えている。

「すまん、逃げられた」

 見れば、部屋の中央だと言うのに、ぽっかりと床に穴が開いていた。

「地下?スタジオに逃げ込んだの?」

「追って仕留める」

「待って、あたし、寝室を爆破した後の事まで考えてないわ。地下に入るのは危険よ。崩れないとは言い切れない」

 きな臭いにおいと煙が回りはじめている建物から、二人はいったん外に出た。
 先ほどお町が車に乗せられて来た道を、少し先に行ったあたり、入り江が見下ろせるカーブで待機しているアイザックとボウイに連絡を入れる。

「ターゲットの生死が確認できない。消火活動しなきゃダメか?それともいっそ、建物全部崩しちまって生き埋めってことで?」

 そんなやり取りの間にも、崖の上のカーブから、まるで自殺でもするかのように空中に飛び出したブライサンダーのライトが見てとれた。愛車はすぐさま海上でブライスターの形をとり、超低空飛行で現場の上を二度、三度、旋回する。

『まずは二人を収容する。建物から山側へ200メートル地点に大物の熱反応だ。出てくるぞ』

「なんだって?」

 ブライスターにとって狭い砂浜は実に着陸しにくい所である。水上なら全部水上、砂地なら全部砂地にしてほしいと、愚痴を言いつつ、ボウイは地上1メートル足らずにホバリングさせた状態で下部ハッチから二人を収容させるという、なんとも器用な離れ業をサラサラやってのける。
 二人がそれぞれのシートに納まる頃には、崖と浜との間にしがみつくような木々をなぎ倒し、オメガの戦闘ロボットが現れていた。

「一機だけと言うことはマクベイン本人だな。ブライシンクロンマキシム!」

「ッしゃー!」

「どうやってあんなとこに逃げたんだ?」

「地下に降りたんだから地下道でしょうよ。なぁにアレ!てんで型の古い払い下げ品じゃないの?一発で片づけるわよ。アイザック、一番燃料のかからない方法はどれ?」

「ンの野郎、、あんなモン持ってやがって!」

 自分のしくじりに怒りが増すキッドと、納得しないではじめた割りにやたらうきうきと張り切り出したお町である。

「崖に叩きつけるのが一番コストがかからないが、この景勝地をこれ以上荒らしたくもないな、、、」

「ヒトコトで決められないなら黙ってろ!」

「うひー、キッドさん怖い!」

 言いながらボウイは、相手のロボットを羽交い締めにし、海に向かって海面すれすれにブライガーでの最高速度を出していた。そしてやおら垂直上昇に切り替える。それだけで仕事は完了したも同然だった。羽交い締めを解かれた相手は、海面に向かって自由落下していく。
 キッドが放つ頭部からの熱線と、それを追うように、お町のドラムバズーカが、暗い海に向かって失速する敵に炸裂した。


 お町が無傷のまま、オメガの三男のハーレムへまで送られるようであれば、そこまで乗り込んでリンダ以外の女性たちの救出も考えられたが、ハーレーの下品さ加減に阻まれた格好だ。
 マクベインを始末し終えた時点で、この仕事は正式に完了した。これ以上はない。
 アイザックはこの件について引き続き情報を収集するだろうが、恐らく、女性たちの身辺情報そのものよりも、手っ取り早くオメガに乗り込める別件を見つけてくるだろう。





 
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