J9 基地のゲート1

□Dancing Philosophy
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 入り組んだ海岸線、西日と影を交互に浴びながら、銀のオープンカーが白い建物のガレージに納まった。夕凪の入り江はプライベートビーチさながらに静まり返っている。
 車から降りた四十がらみの男は、黒のジーンズに白いシャツ、それからサングラス。派手ななりではないのに浮ついた、、、これがもっと若い男だったならホストといったことろか。どこかそういった風俗稼業を思わせる。
 助手席から少女が降りる。つんとした顎と、細く上がった眉に上品さが見えなくもなかったが、腿や膝を大胆に裂いたジーンズにウエストより短い丈の革ジャケット、加えて、やけに大きな荷物を抱えてキョロキョロする様は、家出してきた不良娘の感じだ。
 中堅の芸能プロダクションの、スタジオ兼保養所。明日から数日間、昨年一躍メジャーになった某バンドが二枚目のアルバムを収録するためにここに入る。男はプロダクション社長。
 少女は、チャンスをつかむため、男についてきた。使い走りでも何でもして、この数日間にかける。バンドのメンバーがO.K. を出せば、バックコーラスに入れると、男は言った。
 男も、そして少女もまた嘘つきである。
 白い建物にモノトーンの男、銀の車、灰色のガレージ。色彩の乏しい中で、少女の長い髪と、ジャケットの下に着ているタンクトップが、夕日と同じ色をして際立つ。



 宅配のチープなディナーセットが届くまでの間、地下のスタジオで練習をすると称して、少女は建物の警備システム、それは一般家庭の防犯用といったレベルであったが、ともかくそれらを把握した上で都合のよいように手慣づけた。
 次には客用のベットルーム。大事そうに抱えていた大きなバックをそこへ運び込むと、楽譜や楽器といった物よりはるかに彼女にとって身近な道具たちを引き出し、次々にレイアウトしていく。
 二人が出会ってから一週間足らず。嘘の終わりは歯切れよくやってきた。



 夕食後、一人の来客があった。業界の大物だというその中年男のもてなしを命じられ、少女は挙げ句に寝室に連れ込まれていた。
 ドアに逃げようとして腕を掴まれる。怒りを買わぬようにと、恐る恐る拒否してみせると、それを楽しむようにみっちりと肉のついた体を寄せてくる。か細く突き飛ばして、部屋の奥へ逃げ込むと、男は勝ち誇ったように嫌らしい余裕を見せはじめた。
 自分の地位を語ってはネクタイをゆるめ、少女の立場を諭しては太い指でちまちまとボタンを外す。これまでにどんな大物歌手や売れっ子達を世に送り出したか、女優たちのベットでの様子がどんなであったか、事細かに言いつのりながら、ひとり勝手に興奮をエスカレートさせていく。
 弱々しく懇願しながら室内を逃げ惑った少女は、ベットを乗り越えようとして、ついに組み敷かれた。

「いやぁっ、、!やめて!、、って、言ってるのが聞こえないのかしらっ!エンジェルお町の肌に触れるなら、D NAからやり直しなさい」

 ズブリ!と、太股まで這い上がっていた醜い男の手の甲にナイフが突き刺さる。くぐもった悲鳴までもが醜く歪んでいる。

「こ、この女!俺が誰だか、、まだわかっていないのかっ、、こんな事をして、、」

「よっく存じ上げていてよ。オメガコネクション、西のナンバー3、ビル・ハーレーさん。オメガって凄いわよね。ボスの馬鹿息子に女性をあてがうだけで西のナンバー3ですって?」

「キサマっ、何者だ!」

「上から下まで馬鹿だらけね。もう名乗ったじゃないの」

 男は左手を貫いているナイフを抜き取るとお町に投げつけた。だが、お町はでたらめに投げられたそれをあっさり交わすと、ベットのスプリングをトランポリンのように使って、くるりとドアまで飛び退いた。
 ベットサイドの引き出しをあけ、そこから銃が無くなっている事に男が気づいた時には、もうドアの外である。

「ないわよ。その部屋には何も。カメラも動いてないしね。代わりにプレゼントをあげるわ。花瓶の中にスコープを入れたから、それを使って周りをよく見てみる事ね。そこから出ようとしたが最後、部屋ごと吹き飛ぶわよ」

 半信半疑で次の句を探す男に、お町はもう興味はなかった。自分の手掛けた仕事に自信がある。外部から救助でも来ない限り、部屋から出られもしないし、反撃もない。
 男の次の行動を確認する事もなく、廊下を走る。チームで請け負った本命は、このコネクションからの来客ではなく、もう一人の男、プロダクション社長の方なのである。


 お町の嘘は素性から何から全部が偽りだったが、その男エドガー・マクベインは実際にその職業についていた。ハーレーと同じ穴の狢とはいえ、表向き真っ当な収入を得ている者の方が仕事のメインで、コネクションの大物がオマケであるというのはどこか妙だが、J9 のメンバーにはどうにもできない。依頼人が復讐を名指ししてきたのは、妹を強姦して死に追いやったハーレーではなく、妹を騙し、夢や希望を踏みにじったマクベインなのだ。
 オメガの馬鹿次男だか三男だかが、まったく個人的なハーレムを作ろうとしていたとあって、リーダーのサラサラヘアは怒髪天を突く勢いであったし、あとの二人は依頼人である姉と言うのが相当な美人で、それはそれは美しい涙を流して見せたので、、、それ以上は言うに及ぶまい。
 お町は今一つ納得しきれないが、オマケの方だけは自分の手で担当しなければ気がすまなかった。




 
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