J9 基地のゲート1

□Fanky Lite ♪
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 面接をかろうじてパスし、この辺りではたまに無くもない即日での住み込みもO.K. され、それなりに順調な滑り出しのキッド。翌日には新入りらしい程度の仕事も与えられていた。
 居座って信用を得てまでする仕事ではない。紙切れ一枚を探し出すだけだ。アイザックからは三日間の時間を与えられているが、今夜中にと、キッドは勝手に決めている。
 たかが二泊三日のお別れで浮き足立つボウイを、実はあまり馬鹿に出来ない。なにしろ、特殊射撃チームにこんな潜入活動の命令など回って来ない。実戦となるとキッドも初めてだ。早く切り上げるに越したことはない。

「あ、新人の、、、、フォンだっけ?出るのは明日から?」

「ハンです。ハン・スタンリー。今日は3時までで上がらせてもらいました」

 夕食が必要なら今のうちに厨房へ声をかけろと言われて、下りてきた所で一緒になった。フロアーのチーフで、名前はなんと言ったか、若い男だ。自分よりは上だが。

「チーフは今日はお休み?朝、、会いましたよね」

「講習に行かされてた。接客とか、新人教育とか」

「はあ、そういうのもあるんですか」

 無駄なお喋りは避けたいし、本当にただのバイトだったとしても、上司と名の付く者との会話はおっくうであろう。どっちにしろかったるかったが、二人分の食事を同時に渡され、受け取って歩く方向も同じだった。
 結局、遠慮したものの押しきられ、相手の部屋で一緒に食事をとっている。初対面同士の決まり文句に応答しているうちはいいが、話題がどこまで飛ぶか。突っ込まれた時の切り返しなど、頭の中はフルに回転しながら、それでも食事が喉を通らないという事だけはない。

「ハンは、調理師とか希望なわけ?将来的には」

「いえ、求人がそっちだったから」

「それじゃあ、見込みあるかな?君、フロアーの方に来ない?その方が向いてるんじゃないの?見栄えいいんだし。厨房よりはきつくないぜ」

 J 区ではあまり人の過去を詮索しないと、言われてはいたが、どうやら本当らしい。といって、いきなり将来のことを期待されても困る。相手は真顔で、厨房とフロアーを比較して説明を始めた。
 プライベートな話題でないだけまだマシだったが、見栄えがいいと言う理由で誘われている構図が引っ掛かる。それはキッドを警戒させるに足りる成り行きなのだ。自意識過剰と笑われようと、かまっていられないほどの経験がある。こんな話の流れから、いつの間にか愛の告白に擦り変わったり、体を求められたりと、それはもう、いく先々でそんな目に遭っているのだ。目の前に居るのは仮にも上司。ここで迫られて、騒ぎの挙げ句クビ、、それだけは困る。そんな事まで考えてしまう自分が情けなくもあるし、こんな事態をしょっちゅう引き起こす自分の姿形も恨めしい。

「強制じゃないよ、念のため。面接の時にやけに熱心だったって言うから、どうしても厨房がいいのかなって思ったけど、そうじゃないなら考えてみてよ。言ってくれれば俺の方で何とか出来るから」

「あの、面接の時って、俺そんなに、がっついてました?」

「マネージャーはそんな風に言ってたけど、、?」

「いや、別に」

 すっかり食べ終わって、茶まで出されている。どうも一人の相手と長く話しすぎた。

「あー、わかった。もしかして金で困ってるんじゃないの?厨房だからじゃなくて、住み込みだったから飛び付いたんだ?即日だしな」

 やはり長居は禁物だ。部分的とは言え、的を射た答えを出させてしまった。平静を装いながら二人分の食器を手にして、チーフの部屋を出ようと立ち上がった。

「だったらやっぱり、、、、見込み、ありそうだな」

 フロアーの方が時給は安いと言う話しだった。なぜ見込みがあると思うのだろうか。会釈してようやく一人になれたが、どうも気になる。人当たりもソフトで、どちらかというと清潔感あふれるタイプの彼が、最後に見せた、値踏みするような目付きが。




 
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