J9 基地のゲート1

□Fanky Lite ♪
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 街の角々にあるナビボードも、シン達の道案内も不要になってきて、ボウイは暇があればJ 区界隈をうろうろしている。マトモとは言えないが職にはありつけた。生活の拠点が太陽系で一番派手な歓楽街とくれば、いつまでもお上りさんのようにキョロキョロしているより、ちょっとは地元民らしく見えた方がかっこよさそうだと、軽薄な考えを起こして。
 同時に、そのマトモではない仕事を気に入ってしまったことや、初対面の同性にかなりのイキオイで恋してしまったこと、、、あれやこれやで相当イカレてしまっている自分の頭をもてあまし、イカレ具合では更に上を行くこの街に身を沈めたいなどという、バランス取りも無意識に兼ねて、連夜の徘徊。



 そんなわけだから、今日も真夜中過ぎ、トーンの落ちた格納庫を一人横切って行く。
 基地の外輪をぐるりと一周する円周路。左回りに進みながら、内側の壁に手を滑らす。冷たい滑らかな金属をつーっと撫でて、通学路の子供が隣家の塀に棒切れで線を引くように。
 到着した自分の部屋の前、ペタリと、ドアに手をつく。

「ただいま、俺の家」

 もとより車に話しかけたりするボウイのこと、ひんやりと黙って自分の帰りを待っているドアにさえ愛着たっぷりだ。

「なにしてんだ、、お前」

 いつから居たのか、どこから現れたのか、ドアに頬擦りしている所をキッドに見られた。
 馬鹿にしきった顔でじっと見る黒い瞳。
 言い寄り続けること一ヶ月余り、どこでどう事態が急変したのか、、、ひどい痛みと混乱の一夜でボウイはキッドを手に入れた。それは、つい最近のことだ。そして今は、、、、。

「けっこう遊び人なんだな」

「一足先に地元通になってやるんだもーん。どこへでも乗せてってやれるようにね」

「ふん。俺はともかく、お町はわりと知ってる感じだぜ」

 通路の真ん中に立ったままのキッド。ドアに張り付いたままのボウイ。一歩近寄れば触れられるその距離が、ボウイには容易ではない。お互いに半歩なら。それとも、キッドがほんのちょっとでもいいから笑ってくれたら。相手の出方が全ての希望であるかのように思ってしまうほど、弱気だ。

「ま、お町が今までどこに居たんだろうが、お前がどこで遊んでいつ帰ろうが、別にどうでもいいけどな」

 突き放すと言うか、無関係と言うか、もう少し相手に興味を示してもよさそうな物の言い方をする。二人きりの時に限って。
 それ以上気にする風でもなく立ち去ろうとするキッドに、それでもボウイは声をかけずにはいられない。すがりつきたいような恋心と、引き下がっていられないと言う敵愾心がない交ぜになる。

「おやすみのキスは?」

「何度も言ったろ、公共スペースではそういうのナシ」

 分の悪い約束。恋人らしいふれあいも言葉も、互いの部屋の中でだけ。
 タチの悪いことに、自分でそう言いながら、人前に限ってやたらと体に触れてくる。寄りかかってみたり肩に手を回してきたり、実にカンタンにやってくれる。そしていざ、二人きりの室内となると、、、、人が見たら、二人きりの時の方が余程ただの友人同士に見えるだろう。
 今夜もまた公共スペース止まり。一刀の元に切り捨てられた恋心に、声に出さずにお悔やみを唱えながら、キッドの背を見送る。
 シャワーも浴びずにベットへダイビング。
 キッドもよくここへ来る。キッドの部屋へだって、自分の部屋と変わらないほど自由に出入りしている。二人きりになることは拒まないのに、そこから先をためらわせるような冷たい態度。
 そもそもキッドを恋人として手に入れたと思った事からして、何かの間違い、勘違いの類いではないだろうかとさえ、ボウイは考えこむ。初めて人を撃った晩、無遠慮にそばに居続けるキッドに冷静ではいられなかった。最初に会ってから一ヶ月余り、ひたすら下手に言い寄り続けておいて、、、その晩突然、襲いかかった。一方的に暴力を撒き散らし、体の隅々まで蹂躙し尽くした。
 あれはなんだったのだろうか。興奮が収まらなかった。キッドやお町がそうするのを側で見ていて、わかったつもりでいた。もっと、、取り返しのつかないような、大きな罪悪感を抱え込む羽目になるのだろうと、、そんな風にボウイは思っていた。その想像通りであればまだ良かったのだ。ブラスターで人の命を奪うことは、ばかばかしいほどあっけなくて、そのギャップが理解出来なかった。埋められなかった。
 そして、そんなことはとっくの昔に経験済みで、平気な顔をしているキッドが目の前に居た。強姦でさえなかったかもしれない。ただひたすら、乱暴にした。
 キッドは抵抗しなかった。
 その事がいつまでもボウイに重くのしかかる。最初から抱かれるつもりでいたらしい相手に、あれだけ酷い仕打ちをしたのだ。いくら後になって愛してると言われたからと言って、それが自分を落ち着かせるための方便ではなかったと、言い切れるだろうか。
 そしてもう、、一、、、、二週間以上になる。実の所、二人はあの強姦沙汰の後、たったの一度も肌を合わせていない。

「はあ〜、、、抱きてえ、、」

 毛布に顔を埋めて息をついたボウイは、はっと我に返った。

「なにしてんだよ、、俺ってば」

 このままでは埒があかない。確かに言われたのだ。愛してると。挨拶のような軽いキスならあれからだって何度かしたのだ。信じて、当たってみるよりない。
 失うのを怖がる立場になれるほどしっかり手に入れてない。そう思うと多少は気が楽だった。何も持っていないなら、追いかけてゆける。今までそうして生きてきたのだ。



 
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