J9 基地のゲート1
□Understand?
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出会い頭にボウイにぶつかった少年は、怯えきった目付きで固まったままボウイを見上げ、次に傍らのメイに目をやると、途端にはじかれたように言った。
「ご、ごめんなさい!」
そしてやおら、ボウイの上着のファスナーを引き下げると、手に抱え持っていた紙袋をその中に押し込む。
「わっ!なにす、、、」
「助けてやって!」
言い終わるか終わらないかの内に、出会い頭の逆回しのような速さで走り去った。
「おい、ちょっと!」
追いかけて2、3歩、走りかけたボウイが、、、、、
「う、、、?、ぎゃーっ!な、なな何コレっっっ!」
腹を押さえ、ビカビカの大通りの真ん中にうずくまると、大慌てで紙袋を放り出した。
、、、ガサ、、、、、、ゴソ、、、、、
あわや跳び跳ねて行きそうになる紙袋をすんでの所で捕まえ、袋の口をぐしゃっと握って、ゴミか何かのように体から遠ざけてぶら下げる。
「どどど、、どうしよ、、、これ。な、なに、、かな、、?」
袋を持った手をめいっぱい突きだし、及び腰でメイを振り返る。
「えーと、あのね、、、」
手招きしてボウイを屈ませると、メイは周りを見回してからそっと耳打ちした。
「ちょっとだけ、見えたの。緑色の、、ふにゃって、、。きっと木星ベムだわ」
その場で袋の中を覗き込もうとするボウイを、メイは慌てて止める。人差し指を口に当て、路駐のブライサンダーまで黙々とボウイを引っ張って歩いた。
「ボウイさん、今まで知らなかったでしょう?」
木星ベムを個人で所有する事は保護法で禁止されていること。現在、木星ベムが飼育されているのは、衛星リシテアにある研究所と、地球の欧州を拠点とする某大学の附属研究所、この2ヶ所のみであること。ポヨンについては「アイザックが手を打った」ので、違反ではないが、あくまで特例なので大っぴらにしない方がよいこと。
車内に落ち着くと、メイはそういったことをすらすら説明した。
「こんなに人の多い所でこの子を見られたら大変」
メイの膝で撫でられているベムは、ポヨンと比べると驚くほど大人しい。ベムというのはどれもみんなピュンピュン跳ね回って、下に有るものは蹴り倒し、上に有るものは落としながら移動するものだと思っていたボウイは、まったく感心して眺めていた。ポヨンより一回り小さいが、それでもこの大人しさは感動ものだった。
「ボウイさん、、、どうしよう」
基地にはキッドしか居ない。アイザックの不在中に、余計なもの、を持ち込んで良いものかどうか。「助けてやって」と言う少年の言葉、このベムを指しての事だろうが、言った本人こそ、、、誰かから逃げているようには見えなかったか。
「この子、、、具合が悪いのかもしれないわ」
促されてよく見れば、頭のてっぺんから伸びている、触覚とよぶには愛嬌のあるそれがしなりと垂れ下がっている。
「それに、顔色も良くないみたい」
どこが?と訊こうとして飲み込んだ。恐らく説明されてもポヨンと同じ緑色に見えるだけだろう。
あの少年を探すべきなのか、このベムの容体を診ることが「助ける」なのか。だが、メイの説明を踏まえて考えると、具合が悪いからと言って、2ヶ所の研究所以外には運び込むべき病院などないのである。
「そいつ、どれくらいやばいの?救急車が必要なくらい?」
「そこまでかどうか、、、そうね、これがポヨンなら、アイザックさんに診てもらって、、、、、ね、ボウイさん、ポヨン用のお薬なら何種類かJ9 基地にも置いてある、、でも、、」
それ以上言えないでいるメイを見て、ボウイは行き先を決めた。
「よし、そのチビ連れて帰ろ!な!」
心のすくような素直さでメイの表情がパッと耀く。無意識にその表情を見たがっていたボウイもまた、自信をつけて勢いづく。これで戦える。対戦相手は、キッドのご機嫌、だ。