J9 基地のゲート1
□Lion Cry ♪
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キッドはキーを握りしめたまま放そうとせず、俺はキッドの乗って来た小型艇に移された。小型艇のデータには俺のすぐ後ろをついて来た形跡。溜め息が出る。
離陸、シンクロン、着陸と、一人でさっさか帰り支度をするキッド。
なんという心細さ、、、キー、、、返して。
ブライスターに収容された小型艇から、辛うじて肩など借りずにコックピットに上がると、パイロットシートにはキッド。まんまとキーを取られた俺への意地悪、罰、警告。わかってる。あそこに座れないなら、俺はどこにも居る場所なんかない。
入り口で立ち尽くした俺に気がついて、キッドは吹き出す。ばればれなのね。こちらの心境。小馬鹿にしたような笑いと、態度。それでも心底ほっとするフォローに、俺は有り難くブラスターシートに座らせてもらう。
ブライスターがゆっくり浮上を始める。花束、、、、どこいっちゃったんだろう、、。
「なあ、、あいつって、、」
「俺が、居なくなったあとで入隊したんだろ。知らない奴。それも完全に個人的な、、、銃も私物だったし。あれが任務で来てたんなら、今ごろお前にも応戦させて、、戦力足りるかどうか」
最初は俺もそれを心配したんだ。レッドローズの強者にとりかこまれて、連行されるならまだしも、、キッドは自分で言ってる通り、抵抗する気バリバリなんだから。
でも誰も出てきやしなかった。大回りでターンして、速度を上げる。こうして離れて行こうとしていても、追ってくる機影すらない。
「とにかく終わった。レッドローズも、俺に続いてアレじゃ、あんまり若い奴の入隊は見合わせた方がいいだろうよ。調子は?アイザックに診せるまで、大人しく寝ていけよ」
キッドがあんまり怒ってない。金星に続いてこの体たらくじゃ、帰りは嵐か深海かと思ったんだけど。もしかして、あの蹴りで全部散らしてしまった?やばいなあ、ああいう怒りの発散、、エスカレートしたら。
手元でオートに切り替える作業をしているキッド。ここからだと、俺の肩とか、こういう角度で見えてるんだ。ああ、こないだの夜の事、思い出しちまう。逆の位置にいて、キッドが優しくて、俺は、、。
「やっぱり寝てねえ」
そんなに急に振り向かれたら、それだけで眠れない。
「おやすみのきすのあとじゃないとねれません」
「ちがうだろ」
はい、ちがいます。
、、、え、それって、、、訊いても、、いいん、だ?
ああ、俺、お町に借金おまけしてもらうんだったっけ。だよな、やっぱりこのままじゃ。
「うっとおしい、、、って、、、あいつはともかく、ジョニーまで?」
キッドはちょっと目をぱちくりしながらシートを回してこちらを向いた。
「ジョニーと寝たのかって、訊かないのか?」
J 区までは長い。こないだ、朝までくっちゃべらなかった分をやりながら帰ろうか。
「揚げ足とるのなしだぜ」
「揚げ足じゃねえよ。何?そういう話じゃねえんだ?」
そりゃまあ、そっちから言葉で言ってくれた方が気は楽だけど、ならいっそ、どれだけの男女とやってきたのか人数の方が知りたいものだ。
「微妙にね」
「おまえ時々、、、」
言いかけて止めたまま、じっと見られてしまう。
「な、なんだよ、、」
「裏切るよなあ」
「ええっ?」
「あ、気にするな。変な意味じゃないし」
なコト言ったって。まったく、どきどきの上にはらはらしなけりゃならない。話を切り上げて真面目に寝ちゃおうか。キッド、、ぜんぜん機嫌悪くなさそうだし。一人でのこのこ、こんなとこまで来て、変なのにつかまって、またまたキッドに手間かけさせたのに。
シートで大あくびするキッドに、フロントビューの星たちが降り注ぐ。
「なんでそんなに機嫌がいいの?」
「お前がうっとおしくないから」
わかんねー。うっとおしくない裏切り者ですかい?
「ジョニーは俺の背中についた目で、もう一組の腕だった」
倒していたシートから思わず起き上がっていた。
「なんだよ、その妙に嬉しそうな顔」
だって、、、、、ありがとう。俺にはもう充分だ。
キッドの中のジョニーの大きさが悔しかったはずなのに、ジョニーを知ろうとする事でごまかしてた。ジョニーの事を話せたら、キッドだってちょっとは楽になるだろうなんて、胡散臭いことも考えた。それでもキッドは何も語らず、俺はここに来た。俺は俺、奴は奴なんて、、どこかすっきりしない理屈を作り出して、納得しようとしてた。
そんな俺のうろたえぶりが、キッドの一言で全部丸見えになっていく。
それだって、もうどうでもいい。キッドの口から直接ジョニーの名を聞けたんだから。
ジョニーの死と共にキッドが無くしたものが、目と、もう一つの腕だと言うなら、俺はこれからそのカードをモノにしていく。
俺が最初から持っているカードが2枚。飛びきりの足。もう1枚は恥ずかしくて言えないが、、、キッドにあんな約束させた事も、このカードでちゃらにして見せる。
「そっち、落ちつかないなら、席もどるか?」
「うんにゃ、シートからお前の匂いがして、、いい感じ」
手頃な物があったら絶対飛んでくる場面だけど、生憎ここにはそんな余分な物は置いてない。
「俺ちゃん、こっちに座っても出撃O.K. な、くらいに、なるからね」
お前に必要なカード、全部手に入れたい。いつか必ず、ジョニーと一緒だった時より気持ちよく撃てるように、お前はなる。それはきっと、そんなに遠い先の事じゃない。
「俺もな。今はまだ馬鹿にされてるようだけど、いつかお前の子猫ちゃん、振り向かせて見せるぜ」
「えっ」
「さっきみたいな事はこれからだって起きる。お前だけどやして終わっていいワケねえ。お前がマシンを使えなくても、俺はみっともなくうろたえたり、しない。俺がこいつを操縦して助けに行く」
う、、、、、うれしいけど、嫌かも。俺の子猫ちゃんを使ってそんなカッコいい事されちゃ、俺はますますみっともない。
本当にそんなことになる前に、俺がブラスターを手にしてキッドを助けに行かなきゃ。絶対成功させる腕前を身に付けなけりゃ。
「悪かったな。花代、、半分もつから」
「キッド、、」
ジョニー・サンデー、あんたを助けられなかった時の俺達より、マシになるから、どうか見てて。助ける事が出来なかったのは、キッド一人じゃない。だから、俺のことも見てて。
ーーーーend ー ーーー