J9 基地のゲート1

□Lion Cry ♪
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 無人隕石ばかりのうら寂しい地区に入ると、またぞろシャボン玉の群れのようなドームが漂う地区に入った。
 でも、航行指標のランプばかりやけに多くて人の気配はあまりない。J 区みたいなカラフルなCM レーザーや、遠目で見てもド派手な看板なんかも無い。ドームの中身も、灰色や白、良くて濁ったうす緑の洒落っけのない建物ばかり。時々、隕石どうしがパイプラインで繋がれて、化学の教科書で見たような、、、分子模型だっけ、あれに似てるのが見た目で楽しいくらい。ほんとに工場ばっかりなんだな。
 連続誘拐犯は、以外と早く捕まえられて、依頼人のご希望により、全裸にひん剥いてふん縛ってJ 区署の前に転がしてきた。
 お町に誘われて、打ち上げの真似事したのが夕べ。
 俺は一人で、朝っぱらからサウスゾーンに足を向けた。

 記憶に新しい区域に到着する。廃工場は、恨めしそうにあの時のままの姿を晒していた。こんなものをいつまでも放っておくなら、この辺りの治安がJ 区並みになる日も遠くない。
 半壊した建物の中に足を踏み入れると、瓦礫の飛び散りかたは想像以上に酷かった。これではポンチョも余裕がなかった筈だ。
 最後に彼を見たのは、、、、、元の建物の形が定かに思い出せないほど荒れているが、多分、この辺りだったと思う。壁に大きな裂け目。ドームも建物も、同じ一つの衝撃で破壊されたらしく、裂け目の向こうには崩れたドームがすぐ見える。
 建物全体で言えば、ここは裏側の通用口近くだったんじゃないだろうか。逃げ道を確保したはずが、一瞬の攻撃のうちに命取りになったわけだ。
 無人の廃工場でなければここまで手荒な事にはならなかったろうが、人目のある場所では逆に、負傷していたエリンはもっと早くに追い詰められ、ジョニー・サンデーとコンタクトを取ることは出来なかっただろう。それもこれも、任務のためってことだ。

「この辺に、、、立ってたかな、、」

 キッドとあいつが。
 俺にとってもリアルな、あの日の光景。いつどの瞬間が、俺とキッドの最後になるか知れやしない。俺が今、ここでこうして居るように、俺とキッドが最後に一緒にいた姿ってのを、気に留めて覚えててくれるような誰かが居るだろうか。お町やアイザックには、ヘタしたら死に際を見られちゃいそうでヤなんだけとなあ。
 キッドはあれきり、すっかり平静だ。
 ジョニー・サンデーがどういう男だったのか、知りたいと思ってた。死んだ奴に真っ向から嫉妬するのはみっともない。わかっていながら言うことを聞かない気持ちを、知られたくはなくて、ジョニーを知ろうとする事に置き換えたかもしれない。
 ジョニーの存在を、せめてもう少しキッドと分け合えたら、、キッドだってちょっとはらくになるだろうに。それだって、カヤの外にされたくない俺の、わがままだったかもしれない。
 結局キッドは、一貫して奴にも、奴の死にも一切ふれない。
 時間に任せて気を取り直したと言うなら、俺はお手上げだ。
 だから、ここに来た。やっと。俺も、もう終わりにしよう。

 宇宙服のヘルメットの中、耳元にノイズが入った気がした。ノイズは、音を拾えないこの状況で、外の様子を知るための一つの手段だ。随分なれてきて、放送局が近くにある時のノイズや、車や船のクラスも聞き分けるようになった。今、入ったのは人の気配。
 振り向くと入り口辺りに誰か立っていた。小柄な男、、、でなければ、、子供?なんだってこんな場所に人が居るのか。火星の連中がまだ何か探し物でもしに来たのか、それとも正規軍の調査が終わってないとか。
 考えちゃみるが、どうも、そんな感じじゃないような。
 ただこちらを向いて立っているだけの相手に、対応を決めかねていると、いきなりそいつはバッタリと倒れた。

「なっなんだ?おい、どうした、、」

「す、すいません、助けてください。ガス欠で、、昨日からずっとここに、、」

 無関係なガキに決定。あんまりよたついて居るので、ともかくブライサンダーに運び込んで、しかたねえから非常食をくれてやった。

「ガス欠だわ、通信おしゃかだわ、酸素循環悪いわ、非常信号だせねえわ!バカじゃねえのか?操縦歴が浅いならな、当分の間は、父ちゃんとか兄ちゃんとか、ベテランに同乗してもらえっっ」

 小さくなって謝っちゃいるが、食うもんは食いやがる。一人で故人を偲んでみちゃおうとしてたのに、なんだこのとんちきは。13、4、、もっと上かな。後ろを短く刈り込んでるのが勿体ないくらい綺麗なブロンド。青いぱっちりお目目といい、にきび一つないお肌といい、美人度ならキッドとタメ張れる、、が!馬鹿度はシン以上だ。

「で?家族を呼ぶのか、修理屋を呼ぶのか、いっそレスキューに引き渡してやろうか?とにかく、いっぺん家にでも連絡いれねえと」

「は、はい、えと、どうしましょう、、?サウスG 区の工業団地の近くなんですけど、僕だけ先に連れていってもらえたり、、だめ、、ですか?」

 シン、、、比べて悪かった。乗って来たマシンを見捨てていくなんて酷いこと、お前はしないよな。

「だめって言うか、なんて言うか、、、っとに、しょうもないやつだなっ」

 パネルに近辺のマップを呼び出してみる。G 区ならここからそんなに遠くなかったような。やっこさんは落ちつかなげにキョロキョロと車内を見回してる。子猫ちゃんに人を乗せると大概そんな反応だ。何しろどこのメーカーのどういう車だか、まるで見当がつかないはずだから。

「後ろ、、、花束ありますね」

 ふん、柄でもないけど、買って来ちゃったんだよ、途中で。
 前屈みでマップを見入っていた俺と交差するように、隣のガキは体を捻ってリアシートを熱心に見ている。体を戻しながら、ガキが耳元で囁いた。

「ジョニーへの手向けのつもり?」

「なっ、、」

 バッと体を起こした瞬間、首の後ろにチクリと痛みを感じた。

「即効性」

 やばい、、コイツ、、軍、、

「ジョニーを知ってるなら、木戸丈太郎も知ってるよね」

 こんな至近距離の相手に反撃もできないほど、急激に体の自由が利かなくなっている。とんでもない即効性だ。
手を伸ばして掴みかかったつもりが、そのまま相手に向かって倒れ込んだ。



 
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