J9 基地のゲート1

□Lion Cry ♪
1ページ/4ページ





「そうね、カルロはどこから見てもの前科者だし、、エリクソンもね、ちょっと気になるの。、、後は、、除外してもいいと思うわ」


「最有力候補はどうだったかね?キッド」

 連続誘拐殺人犯を追っている。一人目の被害者の遺族からの依頼だ。ポリスの動きがかなり進んでからの事だったから、まずはポリスが目をつけた人物を当たっている。もちろんアイザックが勝手に情報を拝借して。

「多分、、ハズレだな。生活は荒れちゃいるが、前科は前科として終わってる感じだ。今現在、人殺しやってマスって顔じゃない」

「簡単に言ってくれるぜ。顔見てわかりゃこんなに苦労してないつーの」

 ハズレの確率が高そうな奴ばかり大量に割り振られて、散々駆けずり回ったんだ。愚痴くらい言いたくなる。

「学習能力ねえな。見本がココに四つもそろってんじゃん。人殺しフェイス」

 ニヤリともせずに言う。お町がうんざりしきった嘆きを、声に出さずに天井へ吐き出す。アイザックはキッドじゃなく俺に向かって睨みを飛ばした。
 空気が重たくて、冗談なんかで散らせないのは、実は、今日に始まった事じゃない。

「四つってことは俺ちゃんも立派に頭数か。一番のベテランにそう言ってもらえりゃ、うれしいねえ」

 天井への嘆きは、今度はアイザックだった。俺だってこんなこと言いたいわけじゃないってば。
 運よくポンチョから連絡がきた。どうも長引くらしく、アイザックは片手で合図して解散を決める。真っ先にキッドが、誰にも目配せひとつせずに部屋を出た。
 ドアからそのまま目が離せなくて、じっと足音を追いかけていると、細くて柔らかい指に後ろから目隠しをされた。あれだけこまめに爆弾にかまっているのに、火薬の匂いひとつしない。

「少女漫画」

 顔から火が出る。そそそ、そんな顔してましたでしょうか?

「でも、、カッコ悪いってわかってるでしょうに、あんな風に見せてるのって、何日か前からすればずっと可愛いげがあるわ」

「うん、、」

 お町はほんとに、いつだってカッコいい。通信が長引いてるふりして、何も言わないでいるアイザックも。

「とは言ってもね、、。金星での借金、少しおまけしてあげるから、しっかりしなさいよ」

「そりゃあ、ありがたい」

 低い声で自信たっぷりな返事と裏腹に、俺はただ今、あれやこれやで自己嫌悪の真っ最中。
 追いかけて、キッドがドアの向こうに行っちまう寸前でつかまえた。

「何?説教とか?」

「欲しいならそれもあげるけど、いらないでしょ。あとで来る。今日こそ締め出しは無しで頼むぜ」





 ジョニー・サンデー。キッドが、決着をつける事を約束した男。銃口を向けあって、殺るか殺られるか。どちらになっても、それはフェアな、、、単なる結末。万が一殺されても、文句はないと、、、。キッドに、そんな約束をさせる事のできた男。
 俺にわかってるのはそれだけ。それしかわからない。それだけが、わかってる。




 あの時、キッドは二晩続けて正体不明になるまで泥酔した。最初はぴたりと閉まったドアの向こうで。次の日は俺が滑り込んで。嫌がられると困るから、俺も、完全につぶれるまで呑むことだけに没頭した。
 二晩続けてもまだ収まらないようなら、酒じゃなくて俺を頼れなんて、、、偉そうなことを言う所だったけど、運が良いのか悪いのかチョコっとした仕事が舞い込んでキッドの深酒はぴたりとやんだ。
 それからすぐだった。俺が大迷惑なヘマをやらかしたのは。
 あまりに派手でおバカなヘマで、全員巻き込んで右往左往させちゃったもんだから、キッドもその時は勢いこんで、皆と一緒になって俺をいじめてた。怒り散らすキッドを見ていて、ジョニー・サンデーの死から少しは気が逸れたなら、これは棚ぼた、、、、などと、一瞬でも思った俺が馬鹿だった。
 この金星に絡んだヘマで全面的に非のある俺は、徹底してキッドの部屋から締め出された。寝食を共にして、同じ仕事して、一緒に居る時間の長さだけは自慢できた。それがまさか、肝心な時に手の届く範囲に居させてもらえないなんて。本当に、だけ、だったんじゃないかと思うと、情けないとか寂しいとか言ってる場合じゃない。正直、悔しい。


 いつにも増して素っ気なく、、いっそそれも通り越して無愛想なキッド。ほおっておくと、俺の存在なんか空気のようになっちまう。
 一人になれなくてイライラするキッド。二人になれなくてイライラしそうな俺。
 違うかも。一人がいいなら、俺に遠慮なんかするもんか。締め出しの刑は終了だ。
 俺の刑期が長引くにつれ、キッドの不機嫌も日々進行してきている所だった。あれからもう、三つも仕事をこなして来てる。
 まさかこんなに引きずるなんて。金星での事は単なる口実。迷惑かけて生き延びた俺より、死んじまった奴の方がキッドの中で比重が重い。
 自分がそんなヤな考え方する奴だったとは、思わなかった。それでもいい。キッドに否定させるまで、この考えは捨てようと思わない。それが何年後になったとしても。
 ベットひとつしか無かったこの部屋も、段々に荷物が増えている。最初に来たのは確か、センターラグと、オーディオ。それからお町がサイズを間違えて買ったラックの半分。もう半分は俺の部屋。ラグの真ん中に、低いガラステーブルが来た頃には、もうすっかりここはキッドの部屋で、新しい物が加わっても気にならなくなっていたけれど、改めて見回すと、なんとも短いこの部屋の歴史。
 この部屋の前までは、どんな荷物たちに囲まれていたんだろう。レッドローズの隊舎に、どんな荷物を置き去りにしてきたんだろう。
 気がつくとキッドは、銃を分解するための小道具セットをガラステーブルの上に広げだしていた。

「おっと、まった」

 俺は慌ててキッドの手を掴んだ。これを始められると果てしなく長いんだ。
 振り払おうとはせず、俺の顔を見たままなにごとか考え込んでいる。断る口実なんか、わざわざ考えるほどの事じゃないし、、、値踏みするような、、、、。
 考えごとは解決したのかなんなのか、ラグに足を投げ出してベットに寄りかかっている俺の膝に、キッドが乗っかってきた。一人になりたくて仏頂面してたわけじゃ、ないんだよね、、。

「金星の件、、お許しは出た、、かな」

「あ、、、金星か。なんだ、まだ気にしてたのか?」

 スミマセン。実はあんまり気にしてる余裕なかった。ジョニー・サンデーへの喪は、もう済んだのかって、、、ほんとは聞きたい。
 ペタリともたれかかってくる、いつもとちょっと違うキッド。いや、かなり。いつもは、、なんと言うのか、、こう、、、ムードもへったくれも、、。
 キスを軽くひとつして、自分からベットに移動すると、黙って俺を待ってる。どこを触れても、ちゃんと俺を感じてくれて、それは変わりないけれど、、すっかり静かにしているキッドを目の前にすると、今更だけどどうにも気恥ずかしくなって、いっそ明かりを落としてしまおうかなんて考える。
 実際キッドとこうなる前までは、こんな風にされるがままのキッドしか、、想像してなかったんだけど。今となっては、たたらを踏むほど腕を引っ張られてベットへ倒れ込んだり、途中で顔を足蹴にされたり、乱暴だと思ってたキッドの仕草のあれこれが、すごく積極的な態度だったんだと、よくわかる。
 それでも、こんなに大人しくじっとしている時でも、結局リードを取っているのはキッドの方だった。つられた俺は、ゆっくりと、一枚づつ服を脱がしていたが、とうとう恥ずかしさに耐えられなくて、すがるように抱きついた。

「ちょっとお、、なんか喋ってよ。なんか、、なんでもいいから、喋るの聞きたい」

「朝までくっちゃべるだけで終わったらどうする?」

 確かにそれは、どうすると言われましても。
 離れた体をまた寄せあって、キッドの腕が絡み付く。

「、、、最初の時、俺が言った事、覚えてるか?」

「ん、、、愛してる、、て、言われた」

「それは置いとけ」

 いや、置いときたくないんですけど、、。

「次の時は、俺がお前を抱くって、言ったんだ」

「ああ!アレか」

 確かにそんなこと言ってたけど、それきり全然そぶりもないから、きっとからかわれたんだろうと、、、、、、え?

「それ、、、、今ってこと、、?」

 びっくりするほど優しい目で俺を覗き込んでから、長い、長いキスをした。と言うより、くれた。これはどうも、本気でその気らしい。

「まじな話、、やめてもいいぞ。途中でも言えよ?俺、、いちおう初心者だから、な?」

 まさかそんなご丁寧な前置きをされるとは、思ってもみなかった。逆にどぎまぎして、あいまいにうなづくと、キッドはすっかり明かりを消してしまった。さらにどぎまぎしてしまう。
 初心者と言うだけあって、少しばかりぎくしゃくしたりして。それでもぎこちなく体ごともつれ合って、キッドはすんなり入れられない事を三回も謝った。めったにないくらい優しいその声は、もうどうしたらいいんだかわからないくらい俺を戸惑わせて、結局されるまま、キッドに任せてしまう。それでもなんとか、俺たちは繋がるだけは繋がった。

「ごめん、ボウイ。もう少しは、、マシにやれると思ってたけど」

 キッドはほっとしたように動きを止めて言った。

「なんで、、四回も言う、、?今までの俺が、、とんでもない鬼畜みたい、、」

 とくにこんなカッコしてると。かなり、、やばいな、、うしろからって、、、。キッドが相手だって、わかってるのに、、、屈辱って、、なくなりはしないんだな、、。
 どうしよう、、いつもキッドにこんなことしてる俺って。
 キッドが恐る恐る、、動き出す。、、、嫌だとは言わない。せめて、繋がったままずっと、じっとしていたかった、かも。痛いと言えば確かにそうたけど、イコールすべて苦痛でもなくて。この焦れったいほんのちょっとの快感を、自分からかき集めたくて、、。
 まずかったかも。キッドがいつもこうされてるって、、思ったのは。イマジネーション直撃。自分の感覚なのかキッドのそれなのか、頭の中でぐちゃぐちゃに混ざりだす。
 そうか、この体勢がよろしくないんだ。キッドが見えてないから。体で感じることだけがぜんぶになっちまうから。
 エロチックという言葉の、ほんの尻尾に触れた気がして、、、この次ってあるのかな、、、あるなら、、ちゃんとキッドを、見てなくちゃ、、、ああ、あとは、ほんとに、、、なにもかもお任せだ。

「おまえ、ぜんぜん声あげたりしないんだなぁ、、、」

「そう、、だった?」

 言われればそんな気もする。ほうけていると、ベットから引っ張り出され、バスルームですっかりキッドに洗われた。
 キッドは眠るまでずっと、徹底的に、優しかった。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ