J9 基地のゲート1

□Wolf Chase ♪
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 基地で唯一、天井ではなく窓から灯りの入る場所。入って正面の壁一面が、天井から床まですべてガラスになっているメインリビングは、自室と一、二位を争うほどに居心地のよい空間である。
 ガラスの向こうには、広くはないが充分に泳げるプールと、それを囲んで本物の木々が植えられている。囲むと言っても、億万長者の庭のプールサイドのように整然としているわけではなく、金属の壁であるホリゾンを隠すために高木、低木、草と、雑多に生い茂っている。季節に応じて温度を変化させてやる手間と燃料を省くため、熱帯から亜熱帯の植物で構成。プールを清潔に保つために、生き物の放し飼いこそしていないが、ジャングルと言っても差し支えない。
 何よりもまず、その水と緑のある風景が住人達の足をここへ向かわせる。誰かが居れば、別の誰かが足を止め、仕事の無い日が長引けば、穏やかにその連鎖反応が続いていく。

 今日もまたそんな日のいっときである。
 編み物か手芸か、細かい事をしていたメイが、目が疲れたので続きをこの部屋へ持ち込んで座っていた。追いかけるようにシンが来て爬虫類図鑑を横で広げる。彼はここのジャングルにふさわしい何か、を飼いたくてしょうがないらしい。買い物がてら街をぶらぶらしてきたキッドが荷物を持ったまま腰を据えると、どうやって嗅ぎ付けるのかボウイも現れた。アイザックが通りかかると、すかさずメイがお茶に誘って呼び込む。
 日がな一日そうしてばかりいるわけではないが、仕事に必要な裏方仕事やトレーニング、外出などで、案外ここの住人達が一人で自室に居る時間と言うのは、タイムカードを押して出社する人々と比べて大差ないようである。

「あら、みんな揃っちゃって」

 しんがりにお町が登場した。キッドと同様、外から帰ったらしい。

「早いじゃんお町。K ビル前のスクランブルでさ、長髪の軽そ〜な男と一緒だったろ?ごゆっくりしなかったんだ?」

「なによ、見てたんなら恋人ヅラでもして出てきてくれたら、もっと早く帰れたのに」

 入ってすぐ右側にあるカウンターの椅子にちょんと腰かけて、とうとう全員。

「冗談!のこのこ出てって、万一お邪魔だった日にゃ、恐ろしくてココに帰って来れねえ」

「ご謙遜なさらなくていいのよ?自分よりレベルが下だと思ったら出て来ちゃってO.K. だわ。取り敢えず、顔だけ見たら大抵の男はへこむでしょうよ」

「顔だけ、、って!顔以外のどこかまずいかよ俺っ?」

 一気にテンションが上がってきて、さすがのアイザックもニヤニヤしている。最もカウンターで一人背を向けてではある。中央の丸テーブルではキッドの隣でとうにボウイが笑い転げて、メイは成り行きにはらはらしつつも、キッドに対して顔だけ発言を投下したお町に内心羨望を向けている。

「たとえば、そおゆうストレートにお子様な反応するトコとか〜」

 お前に笑われたくないと、キッドからガシガシ蹴られていたボウイが、それでも笑いながら話題に加わる。

「お、俺ちゃんとしては、お町の男の好みが想像つくかもって点で、顔以外のとこでキッドさんよか点数上かも。お町っちゃんてさー、シブめのオジサマって結構すきだったりしない〜?」

 それはそれで別のものを投下したような発言である。

「あたしがオヤジ趣味だって言いたい訳?だったら、あんたのお隣に居るボウヤはなんなのよ?レコード屋の店長に、タッカー海波、ジャン・ビーゴ!みなさんキッド君がお気に入りのようで」

「げ、ほんとだ。キッドさんてば交友関係ヤバすぎ〜。外で絡んで来るのもエロ親父ばっかじゃん!」

 とうとうキッドがブラスターに手をかけ、ボウイを追いはじめる。部屋を一周した挙げ句、全速力で廊下へ飛び出していった。
 火付け役のボンバーギャルは静かになった室内で、拍子抜けするほど冷静に言った。

「ねえ、、アイザック、仕事ないの?あいつら相当もて余してるわよ」

 ないからと言って自分で作り出せるものでもない。アイザックをこんな所で見かけるようであれば、脈は薄い。

「知ってる?この前もポリスの警備艇をからかったらしいわよ。採掘済みの坑道に誘い込んで立ち往生させたって


「えっまた?私、なんだか恥ずかしい、、」

「そうだ!アイザックさん、おいら提案があるんだけど!」




 埒もないじゃれあいに終わるかに見えた団欒は、シンの一言で実に有意義なプランが急浮上した。
 現在仕事で使用しているマシンと全く同じ制動で対応する、シミュレーション・トレーニングシステムの開発である。
 初対面同士、マニュアルひとつでブライガーを出動させたアイザックが、今さら無駄遣いとも思えるこのプランに乗り出したのは、一つには自分の手でソフトを作る楽しみであり、一つにはメイの「恥ずかしい」の一言が効いてのこと。シンの熱心さにも押された。もちろんシンは自分が操縦桿を握りたいのである。
 アイザックが動くとあれば事は早い。今回導入するのはブライスター・スタイルのみで、操縦系と、攻撃系の二本立てとした。ゆくゆくは双方を連動させる。
 節約のため、ドク・エドモンにまるごとは外注せず、必要最低限のパーツだけを取り寄せ、幾らでも空いている部屋の一つを使って組み立てていく。
 もちろん作業をするのは文句のあるはずもないキッドとボウイだ。普段は煙たがっているエドモンと、実にこまめに連絡を取り合い、バカモノだの頭が足りんだの、いくら言われようとも嬉々として教えを請うた。シンも含めて、普段から整備点検をやっているのである。シンクロンシステムさえ除外すれば、こんな手作り感覚でもなんとかなるという根拠の薄い自信までつけてしまった。

「考えてみりゃストレッチマシーン何てさ、金さえ払えば外のジムでも用は足りるんじゃん。本当に必要なのはコッチなわけよね。何たって、どっこにも無いんだからさ。シン、そっちの端、押さえて」

「ちょっと待って。キッド、そっちはもう繋いでO.K. だよ」

「実戦以外ではどうにもならねえってのは、確かにお粗末だったよな。お前なんか特にそうだろ。これで少しは燃料の無駄遣いが無くなるなら、アイザックも安い買い物かもな」

「ゲーセンで使う小銭も少なくなるよねっ」

「ばーか言ってろ。ゲーセンなんか役に立つかよ。レーシング系だってシューティングだって、あんな明るくて隅々まで見える宇宙があるかってーの」

 ボウイ担当の操縦系メインコンソールパネルと、キッド側の攻撃系パネルが、コクピット内と寸分違わぬ位置で固定されている。が、裏側ときたら足の踏み場も無い有り様で、本来パネル内部あるいは機体側に組み込まれるべき各パーツは、長短、色とりどりの配線を引きずったまま床に直接置かれている。操作とスクリーンが連動さえすれば、後はどうでもいいといった姿勢が丸見えである。このまま埃避けにシートなど被せてしまう予定だ。
 何度か仕事などで、中断しつつも、本職の技術者が見たら仰天すること間違い無しの日曜大工のノリで、アレ、ソレ、アッチ、ドッチと、、、トントン拍子のうちに大方の作業が終了してしまった。フロントとサイドのビュースクリーンと同サイズの物を、これも位置と角度だけはきっちり同じに据え付け、椅子は妥協して適当な物を置くと、後はアイザックの仕事となった。
 彼の仕事は他の者が思うよりも膨大ではあったが、機体のデータは普段からの真面目な取り組みによって充分にあったし、シミュレーションを統括するコンピューター本体も新しく取り入れる必要はなかった。格納庫とセンタールームにそれぞれあった機体チェック用の物を、一台こちらに回したのだ。アイザックが機の状態を確認したければ、これからは自分の足で格納庫まで降りて来ればいいという事である。彼は彼なりに可能な限りの省略をしてスピードを上げた。
 そしてとうとう、この世に二つと無いおもちゃ、、、もとい、シミュレーションシステムのお披露目となった。






 
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