J9 基地のゲート1

□残影帰帆
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 愛機ブライスターをこの宇宙のど真ん中に置き去りにしなければならないと、お町の口から聞いたのは48時間前の事。
 そして今、ボウイが永遠の別れとなるスイッチ目掛けて、力任せに拳を振り下ろす。



     △ △ △



 何てこった、、、、!俺は一人で58時間も気を失っていたらしい。みっともない事この上なかった。
 太陽系におさらばしてバーナード星系に向かうため、俺達はソーラー10目指していた。その時点ですでにブライスターは瀕死の重体だったのだ。
 その上頼みの綱のソーラー10プレートは無人の廃墟。と言うか、跡形もなく、残骸。運良くポンチョと巡り会い、ソーラー10に付属する指標Vガバロス宇宙灯台に滑り込み、ラスプーチンの置き土産である恒星間用の光速母船にブライスターごと移り、、、。
 まさに息つく間もない、間一髪。ガバロスは謎の赤縞のクリスタルにやられた。
 アイザックの正確な判断で急遽、光速駆動に入って難を逃れたものの、シートに体を固定する暇さえなかったのだ。無茶な光速突入の衝撃はなかなかに凄まじく、俺が咄嗟に掴んだアームはそれに耐えられなかったらしい。船内で無茶苦茶に叩き付けられた俺は、全身包帯だらけで58時間ぶりのお目覚めとなったわけだ。

「48時間後には出発できるだろう。それまでに全ての火器をマスターしておいてくれ」

 怪我人に向かってなんてこと言いやがる。
 ま、仕方ない。俺が足を引っ張っているのは確かだし、新しい武器にも早くお目にかかりたい。何より、赤縞のクリスタルという、謎ではあるがはっきりとした敵が待ち構えている。

「さぁてキッドちゃん、ご気分がよろしいようならば、早速お勉強がお待ちかねよ」

 ああ、エンジェル。頼むからおちょくらんでくれ。

「暫くはそこでおねんねしたまま、マニュアルとお友達してな。ともかく、、、思ったより元気そうで安心したわ、俺ちゃん」

 ささっと手が伸びて、あっというまにキスされてしまった。今までで一番の早業。
 お町が見て、、、、!

「このばかっ!」

 ああ、体が痛てえ。情けねえ。

「早いとこマスターしちゃってね!」

 さっさと逃げていきやがる。あきれているお町と目が合った。

「さすがのあたしもね、男同士のキスをこーんなに間近で見たのははじめてよ。でも、、あんまり違和感無いのはなぜかしらねえ、キッドちゃん」

 お町は俺が言葉を失っているのを受けてサラサラと流してくれる。気が回るのはいいけど、回しかたが痛い。暫くはからかわれそうだ。

「でもボウイちゃんも、、気持ちが不安定っぽいかもね。キスくらい許してあげちゃってね」

「何のことだ、お町?」

「ぅん。愛しの子猫ちゃんとお別れなのよ。私達もだけど」





 アイザックのクールさ加減にはほとほと頭が下がる。
 俺達は遊びに行くんじゃない。まあ、出発した時はそんな気分もちょっとは、、。でも、道半ばどころではない、太陽系を完全に出るよりも早く、敵が待ち構えていた。暴れまわった太陽系ではない、地の利のない所で見たこともない敵がいる。そんな中に飛び込んで行くのだ。
 それにしても、あれはすでに俺達のメンバーの一人だ。マシンを勝手に擬人化するボウイの馬鹿のせいで、すっかりそんな気になってしまっている。
 そのブライスターを宇宙の真ん中に置いて行くとは、、、。しかも使える装備は外して持って行くと言うのだから徹底している。
 ボウイはひとっ言も文句は言わなかったらしいけど、、俺なんかよりずっと、気の会う相棒だったろうに。





 母船の格納庫に置かれたブライスターを相手に作業中のボウイを見つけた。早速、使用可能な装備とやらを外しているらしい。

「キッドさん、もう動けるの?」

「ああ。お陰様でね」

「キスの効果?ね、それよりさ、そこの2機。見てやってよ!あ、あれ?なんだキッドさん、それ見に来たんじゃん。新しい子猫ちゃん、見てくれもなかなかだけど、中身はもっとすげえぞ。2機ってのがまずイイよな。向こうで一段落したらさ、懇切丁寧にしごいて差し上げるから、アクロバットくらいしようぜ。ほら、メインコクピットこっちこっち!」

 いつもの倍、喋りやがる。

「聞こえてんのー?ほれ、しっかり持ち場見てきなよっ」

 まるで追いやられるようにブラスターピットに上がりかけ、何気なく振り返ると、ボウイは作業途中の息抜きでもするように、パイロットシートでシミュレーションに熱中し始めた。
 攻撃込みのシミュレーションらしく、ポロポロと仕損じが出ているが、敵機への食いつきは凄くイイ。イイ、どころではない。他の攻撃手が付いたらどうだか知らないが、俺なら、そう、そのスピード、タイミング、判断、、ん、O.K. 、次、そう、そっちで、こっちから、そうそう!まずいナ、これはよっぽど集中して自分の持ち場を完璧にしておかないと、、、ボウイの速さに置いて行かれ兼ねないぜ。
 あ、、!外れた。
 ボウイのシミュレーションに引き込まれてすっかりイメージトレーニングに没頭していたが、フッと肩透かしを食った。俺が狙った、つまりボウイが追った相手に完全に逃げられたのだ。
 画面代わりのフロントビューから、ボウイに目を戻すと、ぴたりと動作が止まっている。

「っきしょ。またココだ。どうもな、ココでこっちに手が動くよなぁ。ちょっと、、、、長かったな、ブライスターと付き合った時間は。お前もいつまでも二号サンじゃかわいそうだよね」

 言いながら立ち上がり、機首を並べて隣に置いてある本妻さんを眺めている。
 今のあの背中こそ、哀愁ただようナントカって?何を、考えてる?何を、思い出してる?ボウイ。

「お別れだってな」

 戻ってボウイの横に立った。改まるのも嫌だけど、平静を装ったつもりで。

「おわっ?キッドさん上にあがったんじゃ、、、でっ、今、俺ちゃんが何か言ったの聞いちゃった?あの、、そんなまじな顔しないでよ、速攻でマスターしちゃうからね」

「そうじゃない。お前の腕に文句なんかつけるもんか。はぐらかすなよ?俺が言ってるのは、、」

「O.K. 、O.K. 。そう興奮しなさんなって」

 さっきブラスターピットに追いやられたと同じように、後ろから肩をつかんで外を向かされる。なだめに来たのに、どうもこれじゃ逆っぽい。
 取り合えずされるまま、二人並んで二号さんのコクピットから本妻さんを眺めるが、、、この野郎、想像したよかずっと落ち着き払っていやがる。
 でも何か釈然としないな。予測を裏切られたから、、だろうか。

「なあ、本当にいいのか?もしその気があるんなら、俺からもアイザックに、、、」

「さんきゅ。、、、考えてみればこんなの初めてだよな。キッドが新しい武器より俺の事を気にしてるなんて。けど、もし子猫ちゃんに関して、何か決定する権利が他の誰より俺にあるって、、、子猫ちゃんの主人はこのボウイさんだと思ってくれてるなら、、、ここはひとつ、黙っててもらおうじゃない」

「ふん、強気なんだ。後で泣くなよ」

「うーん、ま、泣きゃしねえだろ。未練はあるけど、でもそれはここに残していくからじゃない。とにかく、腹は決めたさ。目一杯、威勢よく送り出してやる」



     △ △ △



 慌ただしい48時間も残り僅かになった。皆それぞれ新しい持ち場を頭に叩き込み、万一の備えのサバイバル装備の点検も済ませた。
 すべてが整った。
 あれからボウイは格納庫に詰めっ切りで、食事も仮眠もブライスターの中でとったようだ。もう誰も、奴の邪魔はしなかった。
 母船のブリッジを預かるアイザックとポンチョ以外、全員スペーススーツを着こんで格納庫へ集合して来た。最後の別れのために。
 メイが、髪を結わえていたブルーのリボンで、シンの愛用のスパナを一本、ブライスターの操縦桿に結びつける。
 お町からは口づけを。
 俺も何かとは思ったが、別れのはなむけになるような物を持ち合わせていない。とにかくこれで最後だからと、ブラスターピットに上がってレバーを握りしめる。
 全くほんとに世話になった。それこそ生死を共に。修羅場も遊びも。火星の嵐、木星のオーロラ、ビカビカのネオン、なんだかんだ言って、やっぱり青かった地球。
 そう、地球。これで太陽系の匂いのする物が何一つなくなっちまう。俺のギターもJ 9 基地と共に燃え尽きたか。
 何となくはっきりしない気持ちを残したまま、ブライスターから出た。
 俺が最後。かっこわりぃな。
 ふと見回してお町と目が合った。お町は何やら意味ありげにニッコリと、視線をボウイの方へ。
 この母船からブライスターを射出するためのスイッチの側に立ったまま、ボウイは一歩も動いていなかった。その横顔を見て、俺はすっと力が抜けてゆく。誰よりもさっぱりと、誇らしげに、自分の彼女を見つめている。
 変にこだわってんのは俺だけか、、そっか、なるほどね。よし、ボウイが言うんだ、威勢よく!だな。
 母船が突然、始動した。

「どうした!何かあったのかアイザック!」

 レシーバーに飛び付いて怒鳴ると、すぐにスピーカーからアイザックの声が響く。

『いや、方向転換をしただけだ。射出ゲートを太陽系の方向へ合わせた』

 なかなか粋なことをする。俺達の、太陽系への思いを乗せて帰ってもらおうって寸法か。

『ボウイ、用意はいいか?』

 アイザックが確認をする。ゲートを開けるのは母船のブリッジにいるアイザックだ。各自スーツをチェックしてボウイにうなづく。

「ようし、、、いいぞ、アイザッ、、、」

「待った!あと少し待ってくれ」

 O.K. を出そうとするボウイから、俺はレシーバーをひったくってそれだけ言うと、再びブライスターの中に駆け込んだ。
 いいコト思い付いた。さっきから俺ひとり未練たらたら女々しいようだが、かまうもんか。
 ナイフを取り出し、小指の先を少しだけ切る。俺のシートへ、、、血を一滴。これでいい。やっと俺も別れが言えた。
 急いで戻り、ボウイに向かって親指を立てて見せた。
 ボウイがどんな別れを言ったのかは知らない。もしかしたらアイザックは知っているかも。改めて考えると、子猫ちゃんに関してはオーナーとドライバーって間柄だもんな。
 開いて行くゲートを見ながら、シンとメイが泣き出す。

「ほら〜二人とも泣かない、泣かない。J 9 の戦士を見送るのに涙は禁物だゾ」

 肝心のボウイに慰められて、二人は懸命に涙をこらえた。さすがアイザックの育てた子。俺達の立派なメンバー。

「今まで散々守ってもらったからな、お町、最後くらい俺達で援護してやろうぜ」

「Yeah !それって素敵」

『私も参加させてもらおう』

「さんきゅ!キッド、お町、アイザック!子猫ちゃんっ、、無事にいけよっ!」

 ボウイの拳が叩き付けられると同時に、俺はブラスターをぶっ放し、お町のナイフが連続で飛んでいく。
 そしてブライスターがゲートから押し出された瞬間、光速母船の全砲門が開かれた。
 閃光の渦の中あいつがゆく。
 それぞれの、大事な何かを乗せて、、、アステロイドへ、俺達の太陽の届く場所へ。


 後々から聞いた話、アイザックはブライスターのメインコンピューターにこれまで記憶されていた事柄をすべて消去した上で、俺たち全員の個人データを入れておいたらしい。
 それは、俺達という人間が確かにそこに存在したというささやかな証し。生まれて、育ち、何者であったのか。そしてどこへ消えたのか。

 いつか誰かが見つけるだろうか、、、アステロイドの星屑辺り、海に沈んだ、昔々の難破船のようなあいつを。
 積み荷がお宝じゃなくて、、申し訳ないけどね。






ーーーーend ー ーーー

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