J9 基地のゲート1

□反撃前には忘れずに
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 バカはどっちなのか一瞬わからなくなりかけたが、言われてみりゃ確かに、どこがどうなってんだか、どういう流れの仕事なんだか、説明するのはとても大変な作業だ。とにかくしちめんどくさい状況に追い込まれている。だからといって。

「ともかく、水星で仕損じた分は挽回しなきゃでしょ?」

「だから黙って体やすめようとしてんじゃねえかっ」

「だったらなんも問題なんて、、」

「じゃなにか?俺達の依頼人は水星のダイロンで、依頼金は言い値マンマ、依頼内容は水星の武器商人を助ける事だとでも言うのかよ?」

 なっななな何?

「なになになに?ちょっと何言っちゃってんのよキッドさんてばっ。そんな律儀に足し算引き算してる場合じゃないでショーっ。人類全滅かって時にーっ」

 だめだ、だめだ、こんな言い方じゃ。落ち着け、、落ち着けよボウイさん、こんな時にこんなばかげたこと言い出すヒトじゃないだろうキッドは。何が言いたい?こんな時にわからなきゃ、俺は、、、。
 ああ、でもどうやって。どうやったらまず俺が落ち着ける。この、、そう、この不安。どうしようもないほどのしかかる不安。
 こんなこと今までなかった。不安はいつでももっと具体的で、必ずヒントがあった。不安を打ち消したければ、対処に集中していれば、ラッキーでも偶然でも、何かの結果はついてきた。けど、これは、、、?

「キッドさんよぉ、、俺ちゃん限界だわ。ごめんして」

「え?」

 シート越しに手を伸ばして、キッドを引き寄せた。ちょいとつらい体勢のまま、可能な限り抱き締める。
 初心に戻れ。言葉でわからなきゃ、顔見てわからなきゃ、体に触れてみろ。いつだってこうしてきた俺達。それでも何もかもがクリアになってきた訳じゃない。答えのないまま、ただ抱き合ってただけの事だってたくさんある。
 それでもこうして、なんとかかんとかやり過ごしてきたよ。少なくとも俺は。今も、、少なくとも俺の不安を静めるくらいの効果はあるわけだよ、、、、ほら。そっちは、、どうなの?

「ボウイ、後ろに、、、」

「イタズラ無しでね」

 後ろに移ったってどっちにしろ単座だから前と大差ない。ちょっと手足の自由がききやすいだけの事だけど、幾らかの目隠し効果はあるかな。キッドが大きく息をついて背を伸ばしたのも、目隠し効果がアップしたから、、とみた。

「時間ないから訊くよ?依頼人とかがハッキリしなくなってるのが不安なわけ?」

 シートと首の間に手を差し込んでキッドの髪を触りながら、言葉を間違ったと、思った。不安じゃなくて、せめて、不満と、言っておけば良かったんじゃなかろうか。けれど、、、。

「不安?、、そうだよな、、つまりそういう事になるな。ハッ、信じらんねーぜ。俺が、だぜ?不安なんだとよ。ここから出るのが怖いんだそうだ」

 言葉がつげない。信じらんないのはこっちだ。ほんとにキッドなのかどうか、無理やり確かめたい衝動にかられて、髪に絡めていた指に力が入りかける。

「くそっ。せめて一個中隊でも、、俺の使える分があれば、、アマルテアでも何でも突っ込んでやるのに、、!」

 珍しく親指の爪を噛むような仕草。さっきまでのただ俯いてるだけのキッドじゃなくなっている。暗い目でどこか遠くを睨んで、、、。
 でも。今の台詞がどんなにひどい暴言だか、、、、わかってるのか。

「俺とお町とアイザックじゃ頼りないって言いたいわけだ」

 だめだ、俺、押さえられない。

「余りにおおごと過ぎてJ 9なんぞの出る幕じゃないって?なら戻れよ。J 9 の持ってる情報かかえて正規軍に駆け込めば?このどさくさだし、お前は有能な手駒だ。以外と一個中隊くらいもらえるんじゃねえの?お望みどおり」

 どっちがひどい暴言だ、どっちが!泣きたくなってきた。
 けど、泣きそうな顔で掴みかかってきたのはキッドの方。殴られるかと思ったけど、それはなかった。胸ぐらを掴み上げた手はそのままに、俺の方に額をコツンとつけて。

「悪かった」

 そして離れた。

「忘れてくれったって、、無駄だろうけど、、。無い物ねだりの我が儘、、言ってみただけだと思ってくれると、、、助かる」

「けど本気で言ったろ、さっきの。俺ちゃんの方は、、本気じゃないけど、、ね」

「ボウイ、頼むから、、」

「わーかってる。わかってるって」

 ぽんぽんと軽く頭を叩く。されるまま子供みたいなキッド。早く戻ってこい、いつもの、俺のキッド。

「そういやお前、てんでいつも通りだな。このままじゃヤバイとか危機感とか、、カンが、働かねえ?」

 俺だって怖いよ。このままのキッドじゃ。お町とアイザックも。
 けど今は、強がらせて。肩をすくめて、俺はだんまり。

「成り行きったって限度がある。俺たちはこんなでも、いつだって選んできたじゃないか。依頼人も、仕事の内容も、やり方も、選べばそこが俺たちのフィールドになる。J 9 のテリトリーでJ 9 の狩りをする。あやふやなルールでも、それがあったから、なんとか裏社会の捕食者側でいられたんだ。違うか?」

「んな小難しく考えた事ねえよお、、」

「けど、お前だって選んだだろ。命令も大義名分も無しに人を殺して飯くってんだ。選ぶ時に神経すり減らさねえでどこでマトモなバランス保つんだよ」

 ああ、そうなのかな。そういうものなのかな。キッドはいつもこんな風に神経使って仕事のこと、考えてた、、わけ。俺なんかどうなんだろ。アイザックやキッドの意見に引きずられてきただけだった、ってコト?
 っと、こんなこと考えてる場合じゃないだろう。選んできたんだろうが、どうだろうが。

「ところがだ、カーメンのおかげで選ぶどころの騒ぎじゃねえ」

 それは、そう。

「奴の作ったステージで行ったり来たり踊らされてるだけだ、こんなの」

 確かに。何から何まで後手に回っているばかり。
 後手でも、結果良ければ、、って可能性は残されてるだろうけど、それさえ今はできてない。エネルギー兵器は持ってかれっぱなしで、いつ使われてもおかしくない。有象無象の各コネクションも今やヌビアの下っぱで、敵は増えるばかり、連邦政府は無能ぶりをさらけ出し、邪魔してくれないだけマシという程度。
 そして俺たちは、、、ここから出て次に何をすればいいかもわかってない。せめてひとつでも、ヌビアに対して有効な手はこれだっていう、、手がかりでもいい、何かあればと、、俺だって思う。




 
 
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