J9 基地のゲート1

□反撃前には忘れずに
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 アンソニー・ボロンテは死んだ。
 どっこい、カーメンの野郎にはまた出し抜かれたらしい。ラシイじゃねえ。出し抜かれたんだ。ああまで裏々をかかれちまうと、ボロンテの長男にしたって、俺達が首を突っ込まなくても生きる道はなかったんじゃないかと思う。
 で、何しに行ったんだ!
 てな結果になった水星を後にして、、いや、そういう結果じゃ収まりもへったくれもないからこそ動いてる訳で、、。持ってかれたエネルギー兵器の輸送船団を追っかけ、アステロイドの内側でハードな一戦、それもまた逃げられたってんで、改めて探りをいれに木星方面へ。
 んで、今はヌビアの通信コロニーへ潜入して、逃げてきた所だ。

「おばちゃーん!順番でやってるとこ悪りぃけど、三人前、先にもらえないっかな〜」

 何が驚いたって、俺達が下っぱとやりあってるうちに、カーメンがてめえの計画を世間様におおっぴらにした事もだが、その上をいくビックリはなんたってココの活気だ。

「誰がおばちゃんだい?そんな事言うやつにやる飯はないよ!あ!あんたJ 9 の?!やだよう、先に言っとくれよ、そういう大事なことは!」

 厨房と食堂の区別もつかぬような狭い所に、むさい男達、気っ風の良さそうな女達と世間を知った風な子供達。まるでどこかの市場のような騒ぎの中、てんでに食事をとっている。ああそうか、まるでじゃなくて、市場そのものと同じだ。もっと言えば、輸送プレートの運ちゃん食堂か。
 カーメンの木星破壊宣告を受けて、ラスプーチンが結成した武装貨物船団。ここはそのリーダー、つまりラスプーチンの船の中。だから、ここに居る、誰から誰まで声のでかい連中は、ラスプーチンの放送を通して連携を強めていったトラック野郎どもと、そのカミさんや子供達。もちろん女の運ちゃんだって居るし、輸送とは関係ない職の奴も居る。

「はいよ、三人前。量だけは六人前さ。何とかして、ヌビアの神憑りどもの鼻をあかしとくれよ!」

 はいはい、そりゃもう、そのつもりでございます。

「すぐ発っちまうって聞いたけど、体、やすめていってくれよ」

「おうよ、これだけ集まってるんだ、なんかあっても寝てくれてていいぞ」

 そ、それはどうも、、はい。

「偶然でも立ち寄ってくれて嬉しいよ。あたしらは即席の烏合の衆だ。でもあんたたちJ 9 と顔見知りってだけで、何かをしてやるって、くそ度胸なんてものが出てくんのさ。政府も正規軍も、まだ動けもしない腑抜けだらけの中でさ、この土壇場でヌビアに歯向かってる奴なんて、他に見かけやしない。けどJ 9 は、あんたたちは、絶対に孤立無援なんかじゃあない!あたしらが、そんな風にはさせない」

「そうだ!いいぞエリー!」

 この熱気。この活気!こんなの見たこと無い。表彰台で受ける喚声なんて、これに比べたらなんてちっぽけな!
 大概はニックの放送局がやられた時からの知り合いだ。J 区近辺でしょっちゅうすれ違う奴、ラスプーチン経由の画面の中でしか見たこと無い奴、直接こっちに情報や依頼を繋げてきた奴なんかも居るけど、、、顔も名前も知らない奴までもが、、。
 そう、今に限った事じゃない。彼等の見聞きした内容で、どれだけ俺達の動きかたが決まってきたことか。あの仕事も、あの時も、どんなに助けられてたか。
 アイザックの潔く短い言葉を聞いていると忘れてしまいそうになる。その言葉の向こうに、これだけ多くの人間が、俺達J 9 に関わっていること。

「いいかい、知り合いだから助けてもらおうなんて考えてる奴はここには居ない。あんたたちは真っ直ぐヌビアに殴り込むんだ。何があっても、あたしらを助けに戻ったりするんじゃないよ!」

「そういうこった!こっちはこっちでやる!」

「戦わせてくれ、一緒に!」

 金属の壁が膨らまんばかりの喚声が響き、J 9 への、自分たちへのエールが巻き起こる。
 そういや、水星も途中からはココと似た盛り上がりになってたな。おどおど狼狽えて、俺達の後ろに隠れようとしてたはずの奴等が、いつの間にか腹を据え、エドモンのおやっさんの呼び掛けに応えて自警団を組んだ。ココまで熱っぽくなかったけど、エネルギー兵器を持ち去られたくらいで、意気消沈する雰囲気じゃなかった。
 そうだ一緒に。これまでだってそうだったんだ。
 J 9 稼業って、ケッコーとんでもねえコトで、下手したら自己嫌悪とかで足元ヤバイこと多いけど、こんだけたくさんの奴等が、俺達みたいなとんでもない生き方を支持してくれてた。みんな、ほんとは、自分がそうしたかったって、、言ってるみたいに。
 何度も口を開きかけて、でも言葉が出ない。ありがとうでもない、よろしくでもない。口先きオトコなんてばかにすっけど、こんなことだってあるんだ。声にならないほど感動してる。
 目の前にいたエリーの息子、シン達よりまだ小さいスティンに、てんこ盛りの飯のトレーをひとつ預けて、震えそうな拳を、ぐっと天上に向けて突き出した。
 そして、早々に食堂を後にする。このままでは、胴上げされかねない。

「ボウイ!めし、めし!」

 雄叫びを上げている大人達の間をかいくぐってスティンがトレーを持って追ってきた。

「いけね!さんきゅ、スティン」

 じっと俺を見上げる目が何か言いたそうにきらきら光る。何歳って言ったっけ。わかってるんだろうか、事の成り行きが。自分がどんな危険な場所に置かれているのか。いや、わかってる。この子も、他の子たちだって。

「お前のかーちゃん、強えぇなっ。いい女だし」

「うん!でも手ぇ出すなよな。ジェフが俺の父ちゃんになって、アンが俺の姉ちゃんになるやくそくだもん」

「クレーンオペレーターのジェフ?そっかー、優しい父ちゃんになりそうな男で良かったな!お祝いしなきゃな」

「まじ?ほんとにお祝いしてくれる?」

「おう!カーメンやっつけたらな!」

 言って、熱い冷や汗が体の中を走る。これは、生還の約束だ。大人連中とは違う、言い訳のきかない相手との約束だ。

「じゃ、がんばって早くすませちゃえよボウイ!」

 いっちょまえの口振りで言うと、まだ続く騒ぎの中へ小さな背が紛れていく。

「がんばって、、早く済ませちゃおうじゃない。マジで、、さ」

 興奮が止まらない。こんな太陽系中を巻き込むようなおおごとを、俺達がなんとかしようってんだぜ?約束までしちまって、興奮せずにいられるかい。はは、、顔が、く、口元が勝手に笑いやがる、、俺って今きっと、人相すげ悪りぃ〜!
 ああ、それにしても、人が、仲間がいっぱい居るってすげえイイ。この感じすげえイイ!





 
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