J9 基地のゲート1

□指先のシンジツ
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〜ひとごとのFire works 〜K id6才〜




 引っ越してきて3日目。丈太郎はここの町並がすっかり気に入っていた。古い石造りの町の中心にはサークルスクランブルがあり、噴水の中央には苔むした彫刻から水が吹き出している。
 環状に広がった町の外側は新興住宅街、特に東の方向へはよく発展して、隣町の真新しいサークルスクランブルまで途切れなくショッピングモールが続く。双方のサークルスクランブルを結んでメインストリートと成す、引き伸ばされた砂時計のような道の造りだった。
 メインストリートが有する大通公園は、自然の樹木を好む土地柄なのか、部分的には昼なお暗いといった風情だが、それが許されるほどには治安が悪くない。何度も引っ越したが、一人で勝手に公園や町中を遊び回るのを許されたのはこれが初めてである。この点もまた町を好きになった大きな理由だったが、一番の理由はロイだった。
 隣町に住む、母の妹の夫は、とてもおじさんと呼べるような年ではない。何しろ彼の方が奥さんより15歳も年下なのだ。十代を出たばかりという若さのせいだろうか、子供のやりたがる事を先取りして誘ってくれる。自転車の乗りかたに始まって、キャンプ、釣り、スポーツ観戦もゲームセンターも、ほとんど家に居たことのない父代わり、何もかもロイが経験させてくれた。ただし、どれも一度きり。どんなに気に入って次回をねだっても、彼は新しい事しかしたがらなかった。彼の職業はよくわからない。丈太郎が聞いたのはレストランでどうのという話だったが、どうも時々ちがうらしい。
 その彼が、今度はこんなに近くに住んでいるのだ。これからは週末の度に会えるかもしれない。こちらから会いに出かける事だって出来るかもしれない。
 引っ越し当日と昨日、ロイは来てくれていたけど、今日はどうだろう。クリスマスでもらったばかりのローラースケートを滑らせながら角を曲がり、家の前に彼の車を見つけた。

「ただいま!ロイ来てる?」


 荷ほどきや、なれぬ町での買い出しなど、まだ忙しい母に代わって、午後いっぱいロイが丈太郎の相手をしてくれている。自由に遊べると言ってもまだ3日、一本間違うとどこへ迷うかわからぬし、なんといっても冬休み中の転居で、同年齢と知り合えない。
 すっかり上達したローラースケートの腕を自慢しながら町をぶらつき、バーガーショップでおやつ。見つけにくい小さな公園や、地元でランドマークにされるビルや看板を教えてもらったり。
 喫茶店で暖をとって、そろそろ帰ろうかという頃合い、数人の若い男女が店に入ってきた。

「やだぁロイ!全然見かけないと思ったら、子供と居んの?」

「あ、それって、例の姉さん女房の連れ子とか?」

 ロイの知り合いらしく、あれよという間にテーブルを寄せて座り、取り囲まれてしまった。

「居ねーよ、連れ子なんか。甥っ子だよ。アイツの姉貴の子」

「甥?いや俺、さっきからさー、どっち、かなーって」

「男の子なのっ?やーん、カワイイっ」

 ロイに友達がたくさんいるのは何だか鼻が高かったが、これで一気に気分は最悪である。
 膨れっ面の丈太郎をよそに話が盛り上がっている。今まで聞いたことのないようなくずれた口のききかたをするロイ。やたらにキャアキャア笑う女。女の肩や腰にさわりっぱなしの男。わかるようなわからないような話の数々。
 そうこうしているうちに、店内放送が夜間営業のバーも開店したことを告げる。壁だと思っていた一角が自動的に取り払われると、店内の照明が三割がた落とされ、色とりどりのビンが並ぶカウンターが現れた。




「なんて事言い出すのよ!姉さんの大事な一人息子をそんな所へかり出すなんて!」

 金切り声で目を覚ますと、自分の家ではなかった。もっと小さい頃は、引っ越しが多いせいで、目を覚ますたびに『あれ?』と思ったものだったが、最近はそんなこともない。引っ越したばかりの自分の家では、確かにない。

「射撃場のカウントダウンパーティなんて!町で一番嫌われてる所よ?ヤクザみたいのや、遊び人ばかりの集まりじゃない。きっとコネクションだって出入りしてるんだわ」

 何だかわめいているのは真理らしい。真理の、、、つまりロイの家に泊まり込んでしまったらしい。

「レイシーだってリトバグだって、危ないような連中じゃないよ。俺だって責任持ってついてるからさー」

「履き違えだわ。小さい子を夜中にそんな場所へ近づけさせない事が責任なんじゃない?だいたい2100年だろうとなんだろうと、年越しはファミリーでするものよ」

 母は自分がここに居るのを知ってるだろうか。もちろんロイか真理が知らせただろうけど、どんな風に説明したのか。そして越したばかりの家で、母はやっぱり一人で過ごしたんだろうか。段々頭がはっきりするごとにあれこれ気になってきたものの、ドアの向こうがどうも険悪で出るに出られない。

「何でそう、ご家族一緒にこだわるんだよ。3ヶ月振りに友達に会ったんだぜ?俺の顔も立ててくれよ。途中でマーティンとこの店長も顔出してさ、ジョータローならカウントダウンイベントにぴったりだって、見込んでくれてんだ。旨く運んだら俺だって店員になれるかもしれないじゃん」

 どうも自分の名前が聞こえてくる。ひょっとして泊まってしまったことで喧嘩になっているんだろうか。あんまり出て行きたくないのだけれど、、、、トイレに行きたい。




 
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