J9 基地のゲート1

□アカルイミライと物置
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〜しらけきったFire works 〜Bowie 6才〜



 シスターメリーが電話を終えたのを見計らってボウイは声をかけた。

「ただいまシスター。病院いくの?」

「ああ、おかえりなさい。早く帰ってきてくれてうれしいわ。あのね、リンディが帰り道で怪我してしまったんですって。サニヤが付き添ってくれているのだけど、私も行ってあげないと」

 ボウイはすぐにうなづいた。ちょっと緊張した顔で。それと言うのも、ジュニアハイスクールのスコットとアーニーは揃ってバスケの試合だし、ボウイより4つ上のジェラルドは一生を決めるかもしれない大事な日、、、養子縁組を申し出ている家へお呼ばれしているのだ。シスターが出掛けるという事は、6歳のボウイ以下、4歳が二人と2歳が一人という事になる。

「三時半になったらドナルドソンの奥様が来てくださるから、それまでの間なんだけど、、。ああフロレンスのオムツだけでも替えて出ないと」

 ドナルドソン婦人はシスターメリーの母親ほどのおっとりした女性で、夕方から夜の忙しい時間にボランティアで手伝いに来てくれている人だ。そのドナルドソン婦人に大急ぎで手紙をしたためるやら、リンディの着替えを用意するやら、普段の物静かなシスターからすると目を回しそうな勢いである。

「フロレンス寝てたよ。もうぜんっぜんダイジョーブだから、リンディのとこ行ってやっていいよ」

「そうね、まだお昼寝中だわねぇ、、、
まあ!いけない、聖フランチェスコ教会に電話をしなくては」

「サウスの?」

「ええ、この前みんなでお花をたくさん造ったでしょう?今日リンディとサニヤが届けてくれる約束だったの」

「新年際に飾るヤツ?オレ行って来るよ、ドナルドソンさんが来てから。ケインのとこで自走カート借りればいいんでしょ?」

 教会としてより、孤児院の機能が中心になってしまったセントヘレン。クリスマスやイースターなど事あるごとに隣町の聖フランチェスコ教会と行事を共にする事が多くなっていた。もともとが小さな教会だったせいもあって、身内で祝い事をする事はあっても、地域の人々を招くような余裕はない。
 教会にとってニューイヤーデイは深い意味を持つものではない。けれど、今年は特別だ。なんと言っても2100年という切りのいい年を迎えようという記念すべき新年である。単なるパーティが少々規模を拡大してしまったところで、神様も目くじらはたてないだろう。





「ボウイが聖フランチェスコへ行ったの?誰と?」

 リンディの怪我は大したことはなかった。自転車と接触して足首を捻挫したので、サニヤと二人では帰るに帰れなかったのだ。

「それが一人なの。重たい物ではないし、カートも貸して下さるだろうから大丈夫だと思うのだけど」

「ああシスター、、!そうじゃなくって、、、」

 病院前のベンチで帰りのタクシーを待ちながら、リンディとサニヤは困り果てて顔を見交わした。何も知らない清らかなシスターに、この事態をどう説明すればいいのか。そもそも説明なんてしてしまっていいのかどうか。かといって、同じくまだ知らされていないボウイを一人で行かせては、、、。

「どうしたの二人とも、、?」

 意を決してリンディが指揮を取った。

「やっぱマズイよ!サニヤ行って。誰か、、誰か男の子を、セントヘレンの子じゃなくたっていいから、一緒に連れて行って!」

 しっかりと頷いてサニヤは走り出す。学年で1、2を争う俊足のサニヤは、あっと言う間に病院前のタクシープールから姿を消した。






 一方、留守番と子守りを無事にドナルドソン婦人に引き継ぎ、貸倉庫の管理人のケインからカートを借りだしたボウイ。鼻歌混じりでカートを引き連れ、隣町の教会へ到着した。
 入り口で造花の詰まった段ボールを渡して帰ればいいとだけ思っていたところ、何やら待たされる事になって、ちょっとばかり不安げに、カートを聖堂の前に置いたまま手持ち無沙汰でうろつく。裏手の霊園をぐるりと回って、元の聖堂の前。

「やあ、探したよ。君がセントヘレンからのお使いの子だね?」

 ようやく声がかかって振り向くと、そこにいたのは受け付けにいた人でも、たくさん居るぺーぺーの牧師でもなく、なんと神父様。イチバン偉い人と言う程度の認識しかない。
 何だってたかが造花を運んだだけの、たかが子供の自分の前に、そんなエライ人が現れたのやら。孤児院の子でなくとも、こんな時は怒られるか誉められるかのどちらかだと直感するものだ。

「待たせてしまったね、ご苦労様だが、西側の物置までカートで運んでくれるかい」

 黙って頷いてついて行く。神父様の衣服の裾をカートで踏んづけないように、一応は注意しながら。
 早くしないともう日が暮れる。カートで直接入れるように、段差をなくしてある物置の入り口でボウイはそう思った。
 神父様が物置の扉を閉めたので、明日の晴れを明快に連想させる西日が遮られる。目が慣れずに一瞬暗闇に感じたとき、ピッと電子音を聞いた。ご丁寧に内側からロックをかけたようだ。
 古くなった長椅子や燭台、行事の時だけ飾られる絵画や像、そんなものがとりあえずきれいに片付けられているのが、おまけのような愛想無しの高窓からの光で見えた。
 神父様は明かりをつけようとしない。高窓の光も、それこそ日暮れ直前のおまけのようで不安を煽る。日が落ちて真っ暗になっても、このままここで神父様と居るのはかなり嫌だと思った。

「ところできみ、、」

「ボウイ」

「ボウイ君、内緒の話しがあるんだけどね、シスターメリーから、、何か私へ伝言がなかったかね?」

「え、、」

 伝言、伝言、、。冷や汗。
 やはりこれは叱られるパターンの状況らしい。ボウイは出かける前の事を真剣に思い出そうとした。シスターは自分で電話していたのだから、用があれば自分で言うはずなんじゃないだろうか。ああ、でも内緒だから?内緒ならなんで自分なんかに聞くのか。

「聞いてないようだね。困ったものだな、セントヘレンはどの子も揃って私の言伝てを彼女に伝えてくれないらしい」

「わ、わかんない、です。神父様から伝言で、シスターから、、エット、どっちからどっち、、?」

 くっ、と、、神父様が笑った。日が落ちてすうっと闇が迫る。低い忍び笑いがやまない。ボウイの頭の中から、神父様に対する、エライ人、という肩書きが音を立てて崩れるような、、、嫌な笑いかた。

「仕方ないなあ。これはもう連帯責任というやつだよ。先輩たちの分も含めて、君が罰を受けなさい。今度こそシスターに伝わるようにね」

「なっ、なんで?!おれ全然しらないよっ。伝言とか!」

 自分が何か失敗をしただろうか?神父様からの伝言も知らなければ、シスターからの伝言だって聞いてない。どこからどう考えても自分に落ち度がない事がわかった時、幼いながもボウイは果敢に打って出る気構えになった。おろおろと後退りなどしない。エライ人と二人きりにされている不安も、迫る夕闇も、開き直ればへでもない。だが。

「だまりなさい!」

 低く圧倒的な、、いや、一方的な、叱咤が飛ぶ。一瞬にして二人の間には、もはやまともな会話が成り立たない状況が訪れた。先程までの神父様とは違ってしまっている。子供なら大抵は知っている、この空気、、何を言ってもムダ、、ほとんどの大人はまあこんなものだ。目の前のエライ人は、今はもう繁華街のチンピラと同類である。

「そこに立って服を脱ぎなさい!」

「はあっ?!」

 思わずとんきょうな声を上げてしまった。暗いのを利用して逃げ回ろうとしていたところだったのに。

「さあ、ここがいい。この古い祭壇の上。どうだね、神聖な祭壇の上に登るなんて、どんないたずら坊主にも出来やしないことだよ。なに、罰と言ったって、いたくもかゆくもしないのだから、さあ、ここに来るんだ、、」

 あきれ返るほどの猫なで声に、思わず「嘘こけ!」と怒鳴り、身を翻した。物につまづきながら、椅子を乗り越え、彫像を回り、書棚の裏手、手探りでドタバタと何かを落としたり倒したりしながら、それなりに物置の中がわかってきた。
 ガタンと椅子をひっくり返して神父様は転んだようだった。ちょうど室内を半周した向こう側で、ごそごそ立ち上がる気配がしたきり、すっかり物音が消えた。



 
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