J9 基地のゲート1

□PARALLEL LINES
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 待ち合わせた場所が悪かった。遅れたキッドが到着してみると、ボウイは事もあろうに新しく出来たラーク社の販売店の前に立って居たのだ。ついこの前までそこは大きなゲームセンターの筈だった。
 かつては宣伝のために乗り心地などコメントを求められた車たちが、ウィンドウの中でライトアップされている。もちろんその当時からは幾度かマイナーチェンジなどされているのだが。
 磨かれた車たちに背を向け、ウィンドウの一番端でこれでもかというくらい深々と帽子を被っていたボウイは、キッドを見つけるや否や腕をひっつかんで向かいのファーストフード店に駆け込んだ。

「なにもばか正直に決めたトコで立ってなくたっていいじゃねーか」

 キッドとて状況を見たとたんドッと冷や汗をかくくらいだったのだが、ボウイがあまりにもムッとしたままなのでつい攻撃癖が出る。
 ポテトに伸ばしかけたボウイの腕が、方向修正してキッドの手首を掴んだ。

「なっ、、んだよ、、っ」

 こんな所で、と言いかけたキッドに、チロリと視線で牽制をやる。

「キッド、、壊れてんじゃねーの?通信機」

「あ、、っ、、」

 腕に着けた時計を確認すると、通信機能はいつの間にかオフになっていた。

「や、これはそのー、、。まあそんなにふくれんなヨ。とりあえずバレはしなかったんだろ?」

「まーね」

 鼻を鳴らしたんだか吹き出したんだかわからないような変な笑い方をして、座り心地の悪い椅子に背を伸ばしたボウイは、改めてポテトに手を出した。

「あとで、あそこのカレンダー見てみ」

 販売店の中の事を言っているらしい。

「、、、月、、か、どっか?手前に写ってるのマシンだろ、、レース用の」

 通りを行く人や車にめげず、距離にもめげず、さすがの目。カレンダーは女性の接客係が居るカウンターの後ろに下げてあった。

「アレ乗ってるの俺。別に顔が出てるわけじゃないけどさ。いい根性してるぜ、社長もお嬢さんも。来期の契約すっぽかした奴の写真、そのまま使うかねふつー」

「ばーか、印刷とかが間に合わねーほどお前のしでかした事が唐突だったんだろ」

 どこぞを脱走してお尋ね者になっている人物から言われる筋合いではないと、、とりあえず笑った。
 Pi!
 二人の通信機が同時に音を出した。

『仕事だ。地球へ飛ぶぞ。急を要する』

 要件のみ短く告げてプツリと切れた。

「へえ、これはまた、、」

「いーじゃん、ダンナのあーゆー声、俺ちゃんすきだもんな」

「同感だ」


   ◆ ◆ ◆


 すでにコズモワインダーでJ 9 基地を飛び出していたアイザックとお町を拾い、ブライスターはフルスピードで火星軌道に差し掛かろうとしている。
 アイザックの手元からキーを叩く音が止む。

「で?」

 待ち兼ねたキッドがくるりとシートを返す。

「ボウイ、月軌道まではフルスピードだ」

「あいよ。聞いてるから、やっててくんな」

 月軌道到達を自動的に知らせるようレーダーを設定したお町も、アイザックに向き直る。

「スーダンのハラーイブに居る男を、地球外へ連れ出す」

「な・ん・と。カーメン・カーメンの素顔を写真に撮ったんだって言うのよ」

「か、、っ、カーメンの生写真?!」

「まじかよ?!ガセじゃなくて?」

「すでに彼はヌビアに追われている。ポンチョと一緒だ」

 その一言で充分引き受けるに値する。写真が有ろうと無かろうと、依頼人はすでに命の危機を抱え込んでしまっているのだ。
 ハラーイブの何処に居るのかはまだわからない。ポンチョとアイザックの取り決めた時間は15:00。その時刻から三十秒以内という短さで、ポンチョが所在地を知らせるビーコンを出す。そんな不自由を強いられる程度には彼等は追い詰められていると言えた。
 現在、アフリカプレートと月のルナシティを結ぶシャトルが一便、エンジントラブルで月に停泊したままになっている事が、先ほどのアイザックの下調べでわかっている。月から大気圏ぎりぎりまでは、そのシャトルに化けて、コネクション、軍、交通各方面をごまかし近づく。

「そいで、その先のタイムスケジュールがこれってか?とんでもねーな実際」

「出来ないとは言わないだろう?君ならば」

「カワセミだな、まるで」

「ドブン!バクリ!バサバササッ?鷹とか隼とか言えないかなもー」

 報酬はその写真が真っ当な情報機関に売れた場合の、その金額という、採算度外視の上、出世払いのような仕事が始まった。
 アイザックは今度はお町をパートナーに、シャトルの利用する周波数に調整するやら、機体の申請ナンバーから機長や管制官のプロフィール、うんぬん、、細かい作業を片づける。
 やがて、白く輝くあばたヅラの月。ブライスターは鈍行モード。いかにもルナポートから出立したかのような角度で月を離れ、シャトルの定期コースに乗る。

「あ、ダンナ。依頼人の名前は?」

 一瞬アイザックが押し黙る。

「何?裏のある話しなん?」

「ディディエ・ライト。フリーのカメラマンだ」

「ディ、、ディディエ、、、ライトだとーっっ?!」

「なんだ?おい、ボウイ!」

「カレンダーの写真撮った奴だよっ。あっ、アイザック知っててだんまりか!」

「最初のカウントダウンに入っていいかね?それとも?」

「なんの話しようっ!除け者にしてくれちゃう気?」

「入っちゃってチョーダイっ!」

 足並みが崩れそうなやり取りで大気圏突入のカウントダウン。シャトルのコースから外れ、ブライスターの性能ぎりぎりの鋭角突入。さすがの機体がビリビリと震える。
 ブラインドアウトが開け、フロントビューに千切れ飛ぶ雲の白と褐色の大地、海の青。

「角度修正、Lマイナス0.3!」

『こちら宙間交通総合管理センター。アルテミス航空T G34、現状の報告を、、』

「こちらTG 34。機長の、、ジョ、、、シュレジンジャー、、、当機は、、、」

 アイザックが自作自演のノイズを手元で混ぜ混みながら口八丁を披露する。

『アフリカ管制では貴機のフライトを確認していない。このままでは着陸出来なくなるぞ。TG 34、、!』

 やり取りをよそに、キッドは単身コズモワインダーでスタンバイすべく席を立ち、お町はヘッドホンに集中してポンチョとの約束のカウントダウンに入っている。

『どうしたTG34!どこに着陸する気だ!トラブルかっ?高度が、、!』

 ヒステリックになってくる声を、アイザックはスイッチ一つで黙らせた。

「心配してもらって悪いが、そろそろ消滅といこうか」

 数秒前までは大海に浮かぶ島でしかなかった大陸はスクリーンいっぱいに広がり、ひび割れのような紅海がわずかに青を残すのみとなった。
 二度目のカウントダウンがゼロになる。

「キッド、G O !」

 立て続け三度目のカウントダウン。

「来た、、キャッチ!押さえたわよアイザック!」

 三度目のゼロ。

「シンクロン解除!」

「解除!」

 港町ハラーイブの人々が、突然頭上から降ってきた爆音に飛び上がる。だが、首をすくめて見上げた時には、そんな音をあげるようなものはどこにも見当たらないのだった。
 町の中心部から南西に五キロ。人家も木立もないはげた丘の上、半ば廃墟と化した教会がある。エジプトを中心にここ数年でこのように荒れ果てた教会が数多くなった。ヌビアのお膝元なのである。

「ちょっと!もう銃撃戦始まっちゃってるわよっ?!」

 失速のような角度とスピードに耐えながらスコープに写る熱反応のラインを見てお町が叫ぶ。銃撃戦などと言うものではない、ポンチョと依頼人しかいないのだから一方的に囲まれているのだ。
 崩れ落ちた教会に突っ込むかに見えたブライサンダーは、急制動で姿勢を持ち直し、そこに見えないアスファルトが存在するように空中でスピンターンを踏む。
 攻撃の集中している側に盾のように舞い降りると、更に躍起になって攻撃してくる敵陣へ、追い付いたコズモワインダーが横合いから走り抜け様放射を浴びせかける。
 アイザックとお町が教会へ駆け込んだのが先か、ポンチョと依頼人がまろび出てきたのが先か。

「収容した!行くぞキッド!」

 魚を食わえた狼が白茶けた水面を蹴る。青白いプラズマと共に翼を広げ旋回する。
 対空ではないものの、バズーカを持ち出した地上の敵に、尚も攪乱をかけていたキッドを収容、一気に高度を上げる。
 突入時よりはるかに安全な、それでも同サイズのシャトルなどかやれば大事故になりかねない大気圏離脱角度がアイザックの計算で示される。

「離脱まで三十秒。どうだ?」

「ええ、来てるわ!コールリーク社のヌビアオリジナルEタイプで、二十機前後。数とスピードは向こうが上。大気圏が1.5倍大きかったら、ブラインドアウトを狙われる所だけど、、、このペースならO.K. ね」

 雲蚊のごとくたかられようも攻撃力では桁違いにこちらが上である。さらにカワセミ作戦によって追いかけっこでも有利を得た。
 あとはフルスピードで安全な所、、、もちろんどこが安全なのかと言えばJ 9 基地が一番である、、、まで逃げ切ればいいわけである。但し、、。

『アイザック、近所に来ているかね?』

 但し書きの方の選択を促すラスプーチンからの通信が入る。

『月方面から数機と、アフリカ上空に静止しているヌビアの宇宙神殿から相当数、うるさいのが出てきているぞ』

 一直線に帰還する訳にもいかなくなった。逃げれば逃げるほど、他の場所からも敵機は増えるだろう。

「んで、アイザック?」

 促されるまでもなく、アイザックの頭の中にはそれこそ無数の但し書きへの対応が立っている。

「火星ポートだ」


   ◆  ◆  ◆


 
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