J9 基地のゲート1
□Saurianをアナタに
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手足の縄を外すのにたっぷり時間を取られた俺は、完璧に日も落ちてガンガン冷え始めた頃になって、何度も期待しては裏切られた砂山の向こう側の景色の中に、月あかりのシルエットでヘリの残骸を発見した。
「ボウイっ、、っ!!」
掠れた声しか出ない。
近寄って確認すべきところだが、、我慢が効かなかった。万が一、そこに生きてるのがボウイでなく敵だったら、、、、。だとしてもヘリが無い以上はそいつも俺と同じ遭難者でしかありゃしない。そいつをパートナーにこのサバイバルやってくしか、ない。
「おおーいキッドさ〜ん!!俺ちゃん生きてるぜーっ!」
膝がくだけた。
あんだけ大声出せてりゃ内蔵は無事だ。
日が暮れてやっと熱気の収まった砂の斜面を滑り台よろしく一気に下り、残骸の影に立ち上がったボウイに、足をもつらせた勢いのまま飛び付いた。
「あーっっ!っとぉ、、」
ボウイが支え切れずに尻餅をつく。
「動けないのか?」
「ん、右足首、、捻挫だねこれは。肩もやっちゃったけど、自分で入れちゃったから、まあ、、。アトは背中がね、擦り傷、切り傷、その他いっぱい。飛び降りた途端に真上で爆発したもんだから。頭に破片こなくてラッキーよ」
手当てのしようもないが見せてもらった。あきれるほど運の強い男だと思う。
時々、、、ボウイの運の強さに自分が甘えてやしないかと、、ゾッとする事がある。もっと大きな破片が直撃していたら?紙一重で本当に別れのキスになる所じゃないか。
「まず悪い報告からな。たいしてニュースないけど、ここに来るまでにかなり体力つかっちまった事と、熱衰弱にやっぱりやられてるみたいだな、、頭をカバーする物がなかったから。ま、足がちょっと痙攣する程度だから朝までにゃましになるだろ。熱射病よりずっといい」
水がありゃ一発なんだけど。
へし曲がって、半分以下しか残っていないヘリの底だったらしき物の影に、肩を抱き合ってうずくまる。
「俺ちゃんの悪い方の話はね、、ココが正真正銘、砂漠の真っ只中って事。歩けるような距離には何もない。どさくさだったけど、ヘリの計器を見て確認した。俺の体は見ての通りだ。ごめんな、うまくやれなくて」
「別に、もともとあいつらにとっ捕まったのは俺のドジだったし。お互い様にしとこうぜ、今回は。で?いいニュースなんてあるか?」
ヌビアコネクションから足抜けしたいと言う女性からのコンタクトに応じて、カイロくんだりまで来ていた。
正確にはまだ依頼を引き受けてはいない。商談をすすめるか否か、その判断のために、動けないという相手に合わせてこちらから出向いたのだ。
早く着きすぎて、フラッと町中に出たのが失敗だった。バザールの雑踏の中で、いきなり薬をかがされて、気がつけばヘリの中。俺を取られたボウイもそのまま、ヘリの中。俺だって百パーセントの神様じゃない。ボウイも然り。
「いいニュースね。へへっ、期待はするなよ。二回だけ、ヘリからJ 9 へコールを送った。大変だったんだぜぇ!二人片付けたまでは良かったんだけど、パイロットがさ、揉み合いにもなんないうちに自爆スイッチ押しちゃって」
「自爆だったのか」
「こうなってみると、あのパイロットが一番使えるヤツだった訳よね。で、タイマーが三分で、パラシュート探してる暇なさそうだから、高度下げながら通信機の調整して位置確認して、、、やっとこ二回だけ」
パサパサに乾いた唇で口笛を吹いた。
「さっすがボウイちゃん、あいしてんぜー。そおゆう事なら連中が気づいてココを探し出すまで、俺達の体力勝負なんじゃん。二回が一回だって、奴なら気づくさ」
半分はアイザックへの信頼。半分はこういう状況下で欠かせない楽観主義で。ホントのところ全く良くない状況。時間が決め手か。
「俺はいいニュース無しだ。強いて言えばお互い生きてるって事か?さ、状況は出そろった。『ここを動くな』だ。休もうぜ」
厳しく冷え込む夜の砂漠で、ヘリの燃料もないので互いの体温が頼り。抱き合って横になり、ひとまずは目を閉じてみる。ときおり交代で互いの背を抱くように。
こんな時は切実に思う。せめてボウイとどっこいの体格があれば。俺が抱えたってはみ出しちまうこの背中、、どうにかしたいのに。
例の女性との接触に定めた時刻は、明日の正午。ボウイが必死で入れた単純なコールが俺達のSOS だと断定出来るのは、最悪その後の事になる。アイザックならその前に疑うだろうが、期待という感情に囚われるのはまずい。
そして、気づいた後にこの場所を突き止めるには、、、、ヘリの所属していた場所ならフライトルートや自爆地点が記録されているだろうか、、、すでに消去されたとして、命令した奴は居る筈だが。しかし、そこは、、ヌビアの拠点のひとつと見た方が、、。
たどり着いてくれるだろうか、アイザックとお町は。危険だろうけど。
依頼人の筈だった女を捕まえる事が出来たら、もう少しは早く事が運ぶかもしれない。どう考えたってあれが罠だったんだから。
(アイザック、、、時間が、ないよ)
「、、キッド。教えといてくんないかな、、?」
すーっと眠っては体を入れ替え、また眠り、、、随分それを繰り返した頃、ボウイがポツンと言った。
「この状況で、フツーはどの程度もつモンなんだ?お前は知ってんだろ?」
あ、いけね、ボウイは素人だったっけ。
「ああ、知ってるよ。日陰の最高気温が四十三度以上で、水がゼロ、移動の必要は無し。この場合、三日が限度だな。俺の体感気温が大きく外れてたり、もっと急激に上がったりすれば当然、生存日数はそれ以下になる」
「三日、、だけ?意外とたわいないもんだねー。しょうがねえ、俺達で生存日数のギネスでも出してやろうぜ」
サバイバルのパートナーがこいつで良かった。