J9 基地のゲート1

□Saurianをアナタに
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 ヘリが降下を始め、やがてホバリング状態になった。
 慈悲深い敵でよかったな。それとも馬鹿なのか、なめられてるのか、、俺達の死を確認せずに、置き去りにするだけで満足がゆくらしい。しかも、降下までしてくれた。

「最後に遺言でもあるか?」

 素敵な程オーソドックスな言葉。俺と離れてヘリの中で反対側の隅に転がされているボウイは、そっぽを向いたままだが、俺は必死のフリをして首を縦に振った。
 荒っぽくさるぐつわが外され、口の中に澱んだ唾液が、布に引きずられるように唇の端から落ちる。畜生と思いながら、弱々しく肩で拭い、、、。

「アイツのも外してくんない?遺言はないけど、キスがしたい」

 芝居っ気たっぷりに、哀願てやつをしてみる。
 幸か不幸か、このヘリの中には、後ろ手に縛られた俺がそんなセリフを漏らしてもヘンな気を起こす奴はいないらしい。
 不幸というのは、この際コッチにチャンスを呼び込めるなら、抱かれるんでも犯やれるんでもかまわないってこと。ボウイの目の前だろうが、それが得策ならそうするが、そんな事になったら当のボウイがどう出るやら、、、これはちょっと見当がつきにくいってもの。俺の意図通りに動いてくれるか、ボウイを試すような賭けに出てチャンスをフイにしたら犯られ損だ。
 どっちにしろ、その手に乗りそうな男は居ないし、そんな手段を検討する時期はとっくに過ぎた。

「アステロイド辺りはそんな奴が多いとは聞いたが、、」

 無感情にそう言いながら、俺に言わせりゃとてつもなく慈悲深いその男は、俺を引き起こし引きずっていって、ボウイの上に突き倒してくれた。
 もう一人の奴はずっと銃をこちらに向けたまま隙がない。後はパイロットのみ。
 足首と手をそれぞれ縛られている不自由な動きで身をずらし、ボウイの顔を覗きこむ。

「別れのキスだって?どうせ俺と二人で砂漠の真ん中に取り残されるんだぜ、ひからびて死ぬまで好きなコト出来るじゃんよ」

 目の奥で笑い転げているボウイは、諦めてふて腐れた態度を演じ、俺もさっきからのなよなよと打ちひしがれた芝居を続けながら、唇を合わせる。
 長いだけの、気もそぞろなキスの合間合間、息をつなげるフリをしながら囁き交わす。

「、、愛してるよ、、キッド、、ナワ ホドケタ、、ヘリ ウバウ、」

「 オレ ホドケナイ、、、ボウイ、、オレガオトサレテカラ、、、死んでも好きだよ、、、アバレロ」

 パイロットを含めて三人なら、ボウイ一人で充分。縄のほどけてない俺が、かえって足手まといだ。
 ハッチが開かれ、砂漠の熱風が吹き込んで来る。ボウイから引き剥がされ、ハッチの淵まで連れてこられた。
 地上まで十メーター程度まで、ヘリは降下している。これなら怪我の心配もなさそう、、かも。

「キッド、、、っ!!」

 わかってはいるが、、、ちょっと胸に来るような、迫真の演技のボウイの叫びを後ろに聞く。振り向いたりして、その姿勢で落とされるのは嫌なので、もう芝居は放棄した。出来る限り目を走らせて地上の地形、、、といっても砂ばかりだが、、を測ってみる。

「十キロくらい進んだらもう一人も落としてやる。恋人のミイラは見たくないだろう?」

 げ、そんなの聞いてないって!てっきり同じ場所で落とされるもんだと思っていた。
 でも、ま、同じか。ボウイが成功してくれれば、十キロが、百キロだって。

(頼むぜボウイ、絶対、迎えに来いよな)

 そして落とされた。
 どこまでも砂の畝ばかりが続く景色。
 土用波のような砂山の、丁度てっぺん近くに落ち、頂上の三角を崩した事が多少クッションの働きをしてくれた。熱くさらさらする天然の三角を壊しながら斜面を転がり落ち、自然に任せてようやく体が止まると、ヘリがゆっくり上昇を始めた。
 頭をひと振りしてヘリを見返した頃には、もう充分な高さまで上がっていた。機首を少し回しかけたヘリから、男が一人落ちた。砂山ひとつかふたつくらい先の辺り、多分あれは俺を落とした方の奴だ。あれくらい高さがあれば即死か、免れたとしても確実に動けなくなっているはずだ。
 縄をほどくのは後回しだ。今はヘリからわずかの間も目が離せない。
 そのまま伸び上がり、バランスをとって太陽の位置とヘリの行く方向を確認、そして、、ヘリ内部の様子が少しでもわかるような動きがないか。
 ボウイは人が違ったように乱闘しているだろう。遠ざかりながらふらふらと高度を下げ始めたのは、パイロットに手をかけたか。
 心配はあるが、かなりの割合で俺は楽観していた。が、
 コインくらいに見えるまで遠ざかったヘリは、突然空中で爆発した。

「ボ、、、!ウイ、、」

 思わずその方向へ体が動き、ものの見事に顔から砂に突っ込んだ。

「く、、、そっ!」

 立ち上がるのももどかしく顔を上げれば、そびえる砂山の遠く向こうにひとすじ黒煙が沸き上がる。
 何て事だ。本格的なサバイバルになっちまった、、ボウイの、ばかやろうっ。
 爆発前に飛び降りてればまだよし、そうでなければ、、。いや、うまく飛び降りたとして、、、幾らか下降してはいたが、恐らく俺が落とされたよりは高い位置の筈だ。大なり小なり怪我をしているのは間違いない。
 炎天下の砂漠を装備も無しに移動する愚は重々承知だが、、そうするだけの理由が充分過ぎる程そろっている。
 移動する方向が判っている事。目測だが歩いてどうにか着けるだろう距離な事。多少無理して軽い熱衰弱を起こしたとしても、今は午後だから、何とか手遅れにならない内に夜になるだろう事。
 これが俺の側の理由。
 ボウイとしては、怪我を負っている以上、当然動かない方がいい事。サバイバル装備もない以上は、落ちたヘリの側を離れない方がいいと言う事。
 そして二人の理由。今のところ、、救助の見通しが無い事。
 次から次へ、染み着いた知識に基づいて状況の分析と判断をしつつ、片方ではボウイの安否に気を囚われる。

(畜生。馬鹿野郎。ヘタに動き回るんじゃねえぞ。ドジこきやがって)

(何で俺が行かなきゃなんねーんだよ。お前が来る予定だろーが)

 文句ばかりを意識的に並び立て、最悪の事態を忘れようと努める。



 
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