J9 基地のゲート1
□DAZZLING
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季節に似合わない強い日射しから一転、薄暗がりへ。モナコのトンネルなんか思い出す。
レースだったらどんなに楽か。攻めていけばいいんだから。
そうはいかないこの相手。あ、居た、、、!
「き、キッド、、さーん、、、!!」
やけに長い高架下の歩道の入り口、見つけて安心した途端、足はギブアップで止まってしまう。ダラダラと落書きの書かれた、古臭い壁に片手をついて、息を整える。
高架沿いの六車線道路。色気のないトラックが排煙を蹴立ててゆく。次のシグナルはずっと向こう。その半分辺りの所だろうか、キッドが、まるで姿勢も変えないでこっちを見ている。
昼だと言うのに人気もなく、延々と続く落書きの高い壁。黒のレザーは薄暗がりに紛れるどころか、質感の差を武器にしてキッドを際立たせている。
そうじゃない、キッドを際立たせるのはキッド。
心肺機能は回復しても、跳ね上がる鼓動。同時に足も上がり、体はそちらの方向へ体重を移動させている。
わざとくすませたような色ばかりを使った、シュールと言うには余りゲージュツ的じゃないイマドキの壁画。壁の中から、ぶつぶつと呻くような愚痴が聞こえてきそう。
ヨノナカ ツマラナイ
ナンニモ シタクナイ
イイコトナイシ
ドウデモ イイ
何かの文字をデザインした迷彩色の壁画の所でキッドは寄りかかっている。次の柱で手が届く、、、。
思った時、キッドの顔に呆れたような笑み。
すい、と壁から背を離して、こっちへ足を運んできた。壁の中からまとわりつく声を、さりげない仕草で、でも容赦なく切り捨てるブラック。
歩幅が合わなくなって、キッドの両肩に手をついてストップ。
「お、おまたせ、、」
「でけー声で呼ぶなよ。みっともねーな」
「あ、ごめ、、」
ドッと汗。上着を脱いでガードレールに腰かける。
「寄り道して来ただろ。この辺だって言ってたもんなー、昔のカノジョ」
整わない息が盛大にむせかえり、またまた汗。
「そ、そんなヨユー、お前待たせといてドコにあんのよ~」
「じゃ、今から余裕つくってやるから行ってくれば?」
「、、時間の余裕じゃねえよ」
言わなくたって、当のキッドがわかってることを、言わせられてる俺。
ラーク社おん出て、どーするでもない宙ぶらりんの俺と、何週間か居てくれたあの娘。カノジョ、、だなんてエラソウなこと言えない。迷惑かけるばっかりで、何もしてあげなかった。走りたかった。でもどこへ行きたいのかわからなかった。ろくでもない俺に、嫌な思いひとつさせないでいてくれた。このまま甘え切って、どんなオトコになっちまうのか。
不安、焦り、ひどい焦り。
そんな事、こんな事、全部キッドには暴露しちまって久しい。
言わなくてもわかってること、何度でも言っちゃうよ俺。
「お前じゃないのが入って来る余裕がね、ないの」
あ、でも、わかってるって事はつまり、妬いてはくれてないワケだ、ぜんぜん。
「で?一体どこまでブライサンダー置きに行ったから、俺がこんなに待たされたわけ?」
「それが、何でだかパーキングナビだけ入んなくてさ、KANNAI の駅の向こう側。戻る道を勘違いしてタワーのほう行っちゃったし」
「お前パーキング見つける能力ないんじゃねーの?!」
何度でも言うラブ ユーに、てんで嬉しそうな顔も見せない。
でも俺、最近ちょっとわかってきてる。一方通行じゃないってこと。俺の言葉はちゃんと効いてるってこと。
「ま、フラフラしながら歩くにゃいい距離かもな」
肩をしゃくって促す仕草に、ガードレールから立ち上がる。
「な、そのカノジョ、まだこの街に居るのかな」
「え、、、?」
「もし、、、、歩いてて見つけたら、言ってやれよ。カレシが出来ました。アステロイドで、シアワセにしてますって。そういう報告ができるコ、、だったんだろ?ただし、キョロキョロ探してんじゃねーぞ。大声で呼ぶのもパス」
思いも寄らないアドバイスに目を丸くして見返すと、その俺の目をじっと見ているのは、からかう優位を楽しむような、それでいてマジな何かを突きつけて来るような、キッドにしか出来ない視線。
本気で言ってるのか、プレッシャーかけてるのかわからない。
戸惑う俺の背を、パンと叩いて押し出す。本気みたい。
ちゃんと伝わってる。俺の言葉、言葉になり損なってるたくさんの気持ち。
「げ、つめてーっ。お前、そうとう汗かいたろ?!んー、、まずは着るもんでも買いに行こうぜ」
そう言えばココ、日が射さないからすっかり冷えた。せっかく地球に居るんだから、太陽の下を歩かなきゃ。
馬鹿みたいなトラブルで焦って、キッドを待たせて焦って、さっきまで走ってきた道。焦る気持ちが一人歩きして、あの娘と居た頃と重なりかけて。あやうくドツボのとこだった。
あー、オヒサマだー。もう秋なのに、強い光りでアリガトー。
「キッドさん、あいしてるよーん」
振り返ったキッドが逆光できらりん。でも、空に向かって言っちゃった俺を見て、自分の事じゃないとばかりにまた歩き出す。
まいったなー、すんげー機嫌がいいんじゃん?!
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