J9 基地のゲート1
□PACK
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「ソフトクリーム食いてえな」
「あ、俺、クレープがいい。えっと、、ブルーベリーのやつ」
アステロイドのサウスゾーンの外れ、もうほとんどイーストゾーンに近い。アステロイドで唯一、食用にされない動物の居る所。
ボウイが買ってきてくれたクレープを頬張っていると、ニヤけた視線が目に付いた。
「俺ちゃんがビカビカのメインストリートでそれと同じモン食ってたら、女の子の食いもん、、とかって、馬鹿にしてなかったっけ?」
「いいんだよっ動物園なんだから」
鼻で笑うボウイがソフトクリームに舌を伸ばした瞬間を狙って、指先でコーンの底を突き上げてやった。
加減したつもりが思いっきり決まっちまって、甘いお髭のサンタクロースが出来上がり。俺の指も、たまにゃドジる。
帰りの待ち合わせに決めた園内の中央広場。噴水を取り囲むように置かれた簡易テーブルの一つに、みんなより一足先に到着した。
「でもさ、動物園だからってのは、言えてるよな。思わずお子さま気分になっちゃうもんな」
だろう?と、得意げに言っておいて、はしゃぎっぱなしの自分を弁護しておく。
「けど、せっかく全員で遊びに来たのに、結局お前とデートみたいになっちまって、お子さま気分もそがれるな」
前々からメイとシンが行きたがっていたのを、ようやっと今日かなえてあげられる事になって、お町もアイザックも来ている。行き先うんぬんよりも、みんなと、というのが二人の希望だったようだ。
「んじゃ、デートだと思わなきゃいいじゃん。同僚と遊びに来ただけって事にしちゃえば?」
「へえ、、、めずらし。ボウイは今日、恋愛感情オフの日?」
「俺ちゃんてばオトナでしょ。なんてね、だってどうせこんなトコじゃ、キスの一つもO.K. 出ないだろーしー!」
こんな会話しててどこがお子さまだか。
カバ見て、ゾウ見て、キリン見て、、ウサギ抱いて、ヤギ撫でて。
動物園をみんなで一巡りした後、本物のお子さま達は隣接している博物館に行きたいと言い、お町はお土産グッズの店で見た肥ったワニのイラスト入りティーカップが心残り。俺とボウイは喉が乾いて缶ビールが気になりだし。
そうか、この時点でお子さまやめたのか。
で、博物館には有能なガイドが付き添って別行動になった次第。
「しかし動物園なんてマジに何年ぶりだろうな」
「アステロイドのは初めてだけど」
今日はお町と三人して、こんな台詞をそれぞれ二回づつくらい言ったんじゃないだろうか。
おやつタイムの中央広場。
広場の一角を陣取っている幼児向けの乗り物からでたらめに賑やかな音楽が聞こえてくる。テーブルを挟んでいるのに顔を寄せようとするカップル。楽しくもせわしない家族連れ。慌ただしい休息を取っている観光船のガイドとパイロット。すっげーうるせーローティーンの仲良しグループ。
俺とボウイがここに座ってりゃ、まあ友達連れでよし、お町とアイザックが加わってやっぱ仕事仲間、、だろ。プラス、シンとメイで、、えっと、どういう組み合わせに見えるんだろ。
「サンブルックの院にいる頃にさぁ、、、」
噴水を眺めていたボウイが、俺に視線を戻してそう言いかけた時、少し向こうで子供の泣き声が聞こえて言葉が途切れた。
「ママーっ!ママ、、どこぉっっ?」
なんて時になんて状況。ほら見ろ、ボウイが痛そうな顔してる。
俺って嫌なヤツ?迷子の子の運命より一瞬はやく、ボウイの方が気になるなんて。
でもほら、大丈夫。母親はすぐそばにいた。
もうちょっとで立ち上がりそうだったボウイに、よかったな、と声をかけたが、、本音は、助かったってとこ。
「俺ちゃんも動物園で迷子になった事あんのよ。シスターの親戚だかが、隣街の動物園に勤めててさ、毎年招待してくれてたんだ。いつだったかな、たまたま園内の改装工事があったすぐ後で行った時、、、」
「あ、わかった。いつもと同じつもりで、勝手に集団行動から抜け出して、、迷った!だろ?」
ボウイがたのしそーに話すから、調子を合わせて聞いてやる。楽しい思い出なら楽しく聞いてやるべし。
「あたり~。ゾウの居る所にゾウは居ねえし、爬虫類館だかなんだか新しい建物できてるしで、すっかりわかんなくなっちゃって!まあな、迷子になった事自体はたいしたこっちゃなかったんだ。自分で係員のとこに行って、呼び出してくれって、言ったくらいだからな」
「ご立派。自立心旺盛なガキじゃん。そーゆーやつ好きだよ俺。かわいくはないだろうけどな」
その頃に出会っていても、仲良くなっただろうか。何となく、ダメじゃないかな、、って気弱に思う。
でも、今のボウイが語る、思い出の中のがきボウイなら好きだ。時間と意識の中で浄化されて、良いところしか聞かせてもらえてないのだとしても、それはそれで今のボウイがそうしているのだから。
「うん!かわいくなかった。自分で断言しちゃう。でも未だにあれは向こうが絶対悪いと思ってんだ。悔しかったのは、そっから先さ。俺が名前言ったら、その迷子係、真っ先に聞いたんだ『お父さんとお母さんのお名前は?』ってさ」
「、、、、、」
「で、完璧にふて腐れちまって、それきり一言も返事しなかったのよ。そりゃ圧倒的多数がそうなんだから、しょうがないとは思うけどね、ハナっから思い込んでんだよな、子供は親と来てるって。せめて『今日は誰と来たの』ぐらい言ってくれりゃーなー、こっちだって考えんのによ」
うーん、なんといったらよいか。俺だって、その迷子係と大差ない事をしょっちゅう、、知らぬ間にしているんだろうと思う。
ボウイがくすっと笑って柔らかい瞬きをする。
うん、思い出話はここまでにしよう。
「ボウイ」
テーブル越しにボウイの頭にぱふっと手を置いて、尋ねた。
「今日は誰と来たの?」
「え?、、っと、その」
「ちゃんとお返事できるよね?」
似合いそうもないが、迷子係の優しいお兄さんになってみた。
「えーと、仕事仲間が三人と、、あと二人は、だから、その、、、か、家族だと、思ってる」
驚いた。戸惑うように、すっごく赤面しながらだけど、そんなにはっきり言いきるとは。あの二人は自分の家族だと。
「あーその、よ、よく言えました」
釣られて一緒に赤くなってしまった。
気恥ずかしさをもて余したボウイが、腕の通信機をちょこちょこいじる。
「子猫ちゃんには何も連絡とか入ってないようだな」
全員でお留守をしてしまうので、基地に届いた通信はブライサンダーに回すようにしてある。
「何事も起きなくて結構なこった。に、しても、、遅せぇなみんな。お前の顔ばっか見てちゃそろそろ飽きるぜ」
「ひっでー言い草!じゃ、その辺歩いて探してくればっ?俺ちゃんココに居る。迷子になりたくないもんねーっ」
わらいながら、べいっと舌を出すボウイに、立ち上がってから同じように返して言ってやった。
「お前が迷子になったら、帰る足に困るからな。ここでいい子にして待ってな」
人混みを縫って交わして、、、完全に姿が見えなくなるまで俺を追っている視線を感じながら、、、博物館の方へ歩いた。