J9 基地のゲート1

□ちょっとした事故
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 今度こそボウイには訳がわからない。

「俺ちゃん?ナンカしたっけ?」

「あっという間だが、夢を見たよ。お前の。気がついたらお前の顔が目の前にあって、、続きかと思った」

「へえっ、俺ちゃんダンナの夢で何してたのさ?」

 無邪気に聞いてしまうボウイ。

「くくくくっ。知りたいか?」

「何ソレ?思わせ振りな笑いしちゃって、断然知りたい!」

「キスしてたよ、私とね」

 ぽかんと口を開けたが、さすがにすぐ反応した。

「おっ、おい、おいっ、ダンナにそんな趣味があるとは知らなかったぞ」

「無い!そんな趣味は。、、が、どうやらお前達の毒気に当てられたかもしれんな」

 アイザックは苦笑いで終わらせようとしたが、ボウイはニヤケ面が増してきた。

「しかし、何だね、キッドじゃ無くて、俺ってトコが中々ユニークじゃん?何なら、その夢の続き見させてやろうか?」

 言いながら、ベットの上に膝を片方乗せる。ぐっとアイザックに顔を近づけたが、アイザックは逃げも焦りもしなかった。
 ボウイがたじろぐほど落ち着きはらって、見つめている。つと、片手を伸ばして、ボウイの顎先を捕らえた。

「別に、キッドと争おうと思うほど、お前に惚れているわけではない」

「承知。俺だってキッドを愛してる。残念だが、アンタじゃない」

 お互いに、気持ちを否定しつつ、唇を重ね合わす。

(ふうん、、なかなか、、、)

(私は、、、、まあ、いいさ。しかし、何か忘れているようだが、、)

 ボウイは自分の上着を放り投げると、アイザックの外しかけたボタンに手をかけながら、倒し込もうとした。

「違う。ボウイ逆だ」

 言うが早いか、立場もろとも体勢を逆転させた。

「え?そ、そうだったの?俺ちゃんが、、こっち?」

「そういう事だ、ボウイ」

(しかし、、やはり何か忘れて、、、)

 そう思いながらも行動が先に立つのは、彼がまだ酔っているせいだろうか。ボウイの首筋に軽く唇を滑らせ、邪魔なT シャツに手をかけたその時。

「アイザック!!ボウイ!!」

 二人を見た途端、ブラスター一閃。シーツを焼いた。

「わわわっ!燃えるっ、落ち着けキッド。頼むから、、」

(ああっ、ヤベエぞ!完璧、キレちまってら)

「思い出した!さっきまでキッドと居たんだ。資料室で待っていろと、、、言わ、れて、、」

「なにぃ?んな、今頃言ったって、、」

 くすぶるシーツを処理しながらボウイの声は情けない。

「やかましいっ!わかってんだろうな、ボウイさんよ」

 ブラスターをもてあそびながらボウイに詰め寄る。お仕事以上の迫力か。
 はた、と気がついて、アイザックがボウイの前に立ちはだかる。胸元をはだけたその姿のままで。

「ちょっと待て、落ち着け。ボウイじゃない、私だ、私が仕掛けたんだ」

「みみっちいぞボウイ!ザクにかくまってもらうつもりかっ!」

 取り敢えずアイザックは眼中に無いらしい。だが。

「本当だ!私がボウイを押し倒したんだ」

 キッドの怒りを抑えるため、恥も外聞もなくアイザックが白状した。結果。

「くっ!どいつも、こいつもっ!!まとめて片付けてやるっ!」



 部屋を一つ、駄目にしかねないほど暴れまわった後、キッドはぷいっと飛び出していった。そのまま、何処かへ出かけてしまったらしい。

「アイザックぅ、生きてるー?」

「ああ」




 キッドは一週間戻らなかった。お町は、ほっときゃそのうち戻ると言ったが、じっとしていられないのは、罪深くも正直な二人である。お互い、自分が連れ戻すと言い張ったが、お町が一言。

「ボウイじゃなきゃ無理よ。ボウイ、覚悟して行くのね」

 さすがのお町も、ばかばかしい仲裁には、乗り出す気も起きないらしい。冷たくいい放つ。

「すまんな、ボウイ。私のせいで、、何とか頼む」

「ダンナが謝る事なんか何にもないさ。その気になっちまったのは、お互い様だからな。じゃ、行ってくらぁ」



 彼を探すのは簡単だった。ビカビカの行きつけの店で、待っていたのだから。
 余程、気も収まったらしい。
 ボウイが店に現れた途端、店主やウェイター達は一斉にホッとした表情。
 店主に軽くウインクし、人差し指を口に当てて見せると、店主もまたウインクをを返し、カウンターに座っているキッドに黙って酒をつぐ。
 ボウイは黙ってキッドのとなりに座り込む。

「何しに来た」

 こちらを向こうともせずにキッドが言う。

「謝りに。ごめん、調子に乗りすぎた」

「、、、、、、、、」

 しばし、気まずい沈黙が続く。
 口火を切ったのはキッドの方だった。

「お前、、ほんとにアイザックに押し倒されたのか?」

「いや、まあ、見ての通りだけど、無理矢理ってわけじゃない。ケンカとナニは両成敗さ。ツイ、、な。アイザックに興味わいちまった」

「ち、バカが!素直に認めやがって。ま、ソオユウとこ、好きだぜボウイ。帰ってやるよ。まだ許しちゃやらんがな」

「本当にごめんな」

 あくまで下手に出るボウイである。手もにぎらなきゃ、キスもない。店のツケはアイザックに回して、口数少なく基地へと向かう。
 あんまりボウイがおとなしいので、キッドはクスクス笑い出した。

「そうびくびくしなさんなボウイさん」

「だって、、まだ許してもらってないモン」

「O.K. わかった。俺の出す条件のんだら、チャラにしてやる。まず一つ、次回の稼ぎは、額の大小に係わらず、俺とお町二人でヤマワケな」

 当然と言えば当然の申し出だった。但し、浮気の慰謝料などでなく、人騒がせ料として。アイザックも文句は言えまい。お町は、、ラッキー!、、である。

「その二、俺、今夜アイザックとネるからな。いいな?」

「そっ、そんな、俺、ダンナとはキスしかしてねえぞ!お前、最後までヤっちゃうっての?」

(あ!キッドの奴、ハナッからその算段してやがったな!)

「俺が部屋に行かなきゃどうせ最後までヤルつもりだったんだろ?違うとは言わせないぞ。一晩だ。たったの一回で許してやるって言ってんだ。悪くないだろ?」

「あぁっ、もう負けたよっ!それが俺ちゃんへの罰ってわけ?ちくしょう!一回だぞ!でもソレ、両成敗になってないぞ、アイザックだけいい目見ることになるじゃん」

「それは、ヤツの顔見てから考えるさ。へへっ、やったね。愛してるヨ、許容範囲の広いボウイさん」

 ふーっと、ボウイが大きなため息を漏らす。

「お手上げだよ」

 一段トーンを落とした声でそう言ったボウイは、とびきり優しい瞳。
 ボウイはいつでもそうである。許容範囲が広いなどと言う言葉では足りないくらい、キッドのやることなすこと、受け入れていてくれる。人並み外れた惚れた弱み。と言って、無理に我慢しているのでもない。
 キッドとしては、、こんな時のボウイの瞳には弱い。ちょっとかなわない。好き勝手にボウイを振り回して、ホンノ少し罪悪感を抱いてしまう瞬間。
 つ、とボウイから視線を、外し、高鳴る心臓を押さえ込み、思いきって口に出してみる。

「なぁ、ボウイさぁ、もう他の野郎に手だしたり、許したり、、するなよ。俺も、今夜限りにしとく」

 ボウイはちょっとした驚きを込めてキッドを見た。外を見るフリで横を向いてるキッドの表情を窺い知ることはできない。が、キッドがそう望むなら何も不服などあるはずもない。

「いいよ。約束してやるよ。野郎はお前だけでいい」

「ん、俺も」

 キッドもそっぽを向いたままで、その約束に同意した。ボウイには見えないが 自分で言い出しておいて真っ赤になっている。
 アイザックがどんなオシオキを受けるかは、聞かないでおこう。と、ボウイは思う。

(どこまでアテになるかは兎も角、コイツが、、色恋沙汰の約束を口にする気になるとはね、、、、オドロキ。なかなかいい気分、だとしておくか)



 念のために言っておくと、元々メイの不注意から起きた、キッドとボウイの恋愛トラブル(しかもアイザックまで絡んだ)である事は、不謹慎ながらも優しい男どもによって、本人には伏せられたまま、、永遠に闇に葬られた。

 キッドが、よからぬ目的で基地中ボウイを探し回っていた、、という事実と共に。




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