J9 基地のゲート1

□ちょっとした事故
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「アイザック。パソコン空いてるやつある?」

 キッドがバラバラのレポート用紙を手に入って来た。
 アイザックの私室の向かいにある資料室。極く狭い場所に、大小取り混ぜコンピュータの類いがずらりと並んでいる。
 入り口から死角になった辺りで声がした。

「譜面の、、、清書か?」

 アイザックを探すのは、他のメンバーに比べていとも簡単である。センタールームと、直接つながった私室、その向かいの資料室、隣の書庫、通信室。彼の用事のある場所は、センタールーム周辺に集中しているので、その一角のどこかにはいる。

「俺ンとこの、ちょっと変みたい。後で見てくれる?どれ、使っていい?」

「ああ、、」

 大型コンピュータの影から、ゆらりと人影が立ち上がる。確かにアイザックにはちがいない。
 しかしどうやらこれは、、、、

「どうしたのさ、アイザック?どっか具合でも悪いんじゃないか?」

 機材につかまりながらようやっと歩いて来た。

「今、メイが、差し入れしてくれたんだが、、どうも洋菓子にブランデーか何か入ってたらしいな」

「ぶ、ははははっ!何?よっぱらってんのお?メイちゃんにしちゃ抜けた事するなぁ。アンタも抜けてら、気付かなかったのかよ」

「笑うな!」

 そばの椅子を引き寄せ、ドスンと派手な音をさせて座る。普段の静かな物腰は保てないらしい。

「アイザックも人並みによっぱらうんだ。こないだはストレートで即、のびてたってことは、ふうん、成程。お菓子のブランデーがアンタの適量な訳だ。ほろ酔い加減じゃん?で、どれ、使っていい?」

 アイザックはものも言わずに側のパソコンを指し示した。
 キッドが、ちらちらと様子を気にしながら、その機械の前に座って、バサバサ、カチャカチャとやりはじめる。

「あれ、ねえ、こうで良かったっけ?」

「始めから、、教えてくれと言えんのか、、」

 ふらっと、キッドの真後ろに立つと、ドンッと両手を機械のわきについて、画面と、キーを覗きこむ。

「わっ、ちょっとお、しっかりしてくれよアイザック」

 パソコンの前に座っていたキッドは、彼のマントの中にすっぽり隠れてしまった。

(やっぱ、酔わない方がいいようだな、こいつは。)

「おい、ザクッ、座ったままでいいよ。、、重たいって」

 肩を竦めたまま、首を捻って上を見上げると、アイザックの顔が目の前だった。鼻先が触れあうくらい。

(おおっと、アブネーなぁアイザック。この俺の前で、、そんなイイ顔しちゃだめだよ)

 アイザックを座らせ、椅子を詰め、今度は肩を触れあわせながら。画面に向かうとアイザックは無言でカチャカチャ、ピッピと始めた。
 キッドがさっき思ったのは、ホンの冗談のつもりだった。が、一度心にとまった思いは、あっという間にキッド君の筋金入りの欲情をそそってしまった。
 アイザックは何処まで正気か解らなかったが、ひたすらキーを叩いている。
 キッドはもう、こうなっては譜面の清書どころではない。ずっとアイザックの顔を眺めて思案していた。

(よしっ!決めた。こんな機会、滅多にないからな。GO !だ、ヤっちまえ)

(でもその前に、律儀な俺としてはボウイさんのご承諾がほしいな。女はともかく、相手が相手だからナ、俺だって、、、本気でボウイ怒らせたくないしね)

 何やら非常に、ご都合主義な理屈、、ではあった。が、キッドにとってはやはりボウイが最重要人物なのである。ボウイも、その辺ナカナカ寛容であったのは、、、、、お互いのため何よりだった。

「アイザック、悪い、ちょっと待っててくんない、、ああっ、ソレ違うって!俺、五線譜ひきたいんだってば!マ、いいか、此処に居てよ」

 アイザックはやっぱり、酔っぱらいのままだった。





 ボウイは部屋に居なかった。お町の所でもない。

(格納庫か?かったるいな、グルッと向こうじゃねえか。出かけてたら事後承諾させちゃうぞ)

 途中、キッチンや、メインリビングを覗きながら格納庫に来たが、子猫ちゃんの主は居なかった。

(何処いっちまったんだ?あのボケは。しょうがねえ、もっかい部屋見て居なかったら、後回しだ。泣くなよ、ボウイ)



 灯台、モト暗し。
 彼氏が探しているとはツユ知らず、ボウイは資料室に来ていた。

「おい、アイザックしっかりしろって。一体何だってこんなとこで寝てんだ?」

「んん、」

 優しいボウイちゃんは、アイザックを担いで、向かいの私室に運んだ。取り敢えずベットに寝かせて、マントを剥がしの、ブーツを引っ張りの、マメに世話を妬いてやる。

「どっか悪いのか?うちのドクターがこれじゃなあ。お町かキッド呼んで来るカナ」

 まさか、お菓子のブランデーでつぶれたとは思い付かない。その程度では、アルコールの臭いもしない。
 最後に毛布をかけてやり、余計なことに衿元のボタンを一つ二つ外してやっていると、アイザックが目を開けた。

「ん、ボウイ。か」

「あ、ザク、どした?熱でも、、ないか」

 ボタンを外しかけていた手をアイザックの向こう側につき、反対の手を額に当ててみる。ボウイには全く罪はないが、結局の所、アイザックに覆い被さるような体勢になった。
 心なしアイザックが顔を赤らめているように見えるのは、、、、、。

「すまんな。少し、酔っぱらったらしい」

「ええっ?!飲んだの?」

「いや、ちょっとした、、事故だ。ボウイ、少し顔を離してくれんか?」

 まだ覆い被さっていた。

「へ?あ、わりぃ。水でも持って来ようか?」

「ん、頼む」

 さっきよりはずいぶん正気らしく、アイザックはベットに起き上がった。受け取った水を飲み干すと、ふーっと、深呼吸して、両手で顔をぴしゃっとたたく。

「まいったな」

「なんの事故だか知らんケド、ダンナも災難ね」

「いや、そのことじゃ無くてだな。、、、、お前さ、ボウイ」



 
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