J9 基地のゲート1

□えぴろおぐ
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 部屋からキッチンのちょうど中間に、基地の中枢であるセンタールームがある。
 その隣、センタールームに直接つながるドアを持ったのがアイザックの私室。
 まるでふわふわと地に足の着かない、それでいて浮かれる一方なわけでもなさそうなボウイが通りかかる。
 何がなんだか頭はまだ混乱している。自分のした事、キッドの言葉、視線がぶつかり合い、手ひどく弾き返された。永遠の決別を一度は確かに決心したものを、どこにどんな魔法が働いたのか、訳もわからぬうちにあっさり覆された。
、、、まじで、、負けた、、、
 けれど、どうしようもなく心地好い、甘やかな敗北。心臓の高鳴りが押さえ切れず、思考を邪魔する。
 アイザックの部屋の、センタールーム側でない、廊下に面したほうのドアが半開きになっているのも気づかず、前に差し掛かる。と、その部屋の主がすっと、ドアから半身を現した。

「あ、、、あ、あいざっ、、く?!こ、こんな時間から、、起きてんの?」

 夕べからの出来事を、まるですっかり見られてしまったかのような恥ずかしい錯覚に陥って、しどろもどろになる。

「お前こそ、こんな時間にどこへ?」

 特に代わり映えしない、いつもの静かな声にほっとする。

「キ、キッチンに。あ、メイちゃんに、俺、朝飯いらないって、言っといてくれる?じゃ」

 それでもやっぱり、あたふたとその場を去った。


 そして、腹を満たした帰り道、そのドアはまだ半開きのままだった。首を傾げながら通りすぎたころ、頭の中にポンとキッドのセリフが蘇った。

『降りるなら今がオススメだぜ』

、、、いつものマントのままのカッコだった、、あ、あちゃ、、俺のこと気にして、、まさか一晩中って事は、、、
 思わず引き返して部屋を覗きこむ。

「アイザック、、入るよー?」

「ああ、ちょうど良かった。最後に残ったこれを、どう片付けようか考えていた所だ。決めてくれないか?」

 唐突に何の話なのか、さっぱりわからないまま、差し出されたファイルを受け取り開いてみた。

「何よ、何コレ?俺ちゃんにどうしろって、、、あ、、、あれ?」

 名前の羅列が続くファイルの中に、顔見知りの名を見つけたボウイが、次々にページを捲っていく。捲っていくうちボウイは、人の悪いニヤニヤ笑いになってきた。
、、、コイツも知ってる、、コイツも名前だけは知ってる、、が、俺の方が速い、、、

「ふふン、なぁるほどね。するってぇと、俺の知らない名前は、どこぞの軍か何かのパイロット、、ってあたりか?」

 アイザックが頷いて肯定する。

「気を悪くしてくれるな。その中で実際にJ 9 に誘ったのはお前一人だ」

「コレをどうするんだって?」

「煮るなり焼くなり」

「わぉ、嬉しいねー。アンタに気を悪くしたりはしないが、、この中の誰かが、アンタとキッドとお町っちゃんの命、それに子猫ちゃんの操縦を一手に預かってたかもしれないって思うだけで、、、気が狂いそうなほど嫉妬するぜ」

 キッドが見ていたらどう感じるか、ボウイの笑みはこれ迄に無いくらいふてぶてしく挑戦的だった。

「たった今、基地中のコンピューターからその資料を抹消した所だ。それが最後」

「代替要員ナシ、ね。O.K. ! 俺ちゃん背水の陣ってヤツに強いんだ。生身のドンパチはまだしばらく遅れを取るかもしんないけどサ、、、クビにしてくれないようにネ」

 頭の中が徐々にすっきり整頓されてくる。
、、、アレはアレ、コレはコレ。欲張っていいんだ。な、キッドさん、、、

「取り違えてもらっては困る。私にはメンバーにクビを言い渡す権限など無い」

「ああ、じゃ言い換えよう。個人的に、、見捨てないでねーっ」

 おどけた投げキッスをアイザックに贈って、ファイルを手に部屋を出た。
、、、了解だ、キッドさん。負けは認める。お前が相手なら、俺は永遠に敗者でかまわない、、、
 けれど、この心地好い敗北感に甘えていてはいけないのだ。何かが解りかけ、何かが始まる予感に、やっぱり鼓動は早くなる。

 一息、大きく吸い込んで自室のドアを開けると、キッドはソファーから一歩も動いた様子もなく眠りこんでしまっていた。
 側のテーブルに走り書きのメモ。

『絶っっっっ対、起こすな!!
    S.W.A.K.   To .B owie 』





ーーーーend ー ーー

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