J9 基地のゲート1

□三度目の仕事
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 そして俺達はJ 9 基地に戻り、三度目の仕事を終えた。
 ボウイはまだしばらく飛ばしたがったが、アイザックに無下に禁止されてた。小規模とは言え己の研究機関を潰され、いきりたって出撃したガリコネの戦闘機が、ポリスの出現で行き場を失くしたまま、まだ殺気立ってうろうろしている。
 ともかくさっぱりしたくてシャワーを使っていたちょっとの間に、ボウイは火酒をかっ食らって寝ちまった。頭を小突いても気がつかない。
 俺の初めての時は飲めば飲むだけ頭が冴えるようだったけどなー。
 ま、寝ちまったものはしょうがない。焦ることはないさ。
 真っ赤っかの渦が回り出したろ?いや、まだかな。ソレ、回り出したらもう止まんないぜ。
 俺がしてやれるとしたら、今いっとき、渦が渦になる前の、一番いやな澱んだ状態をお前ひとりにしておかないってこと。
 してやれるだなんて、エラソーなこと言ってるけど、俺は俺で自分の渦の中。いつ飲み込まれるか解らない。強気で我を張って『ブラスターキッド』を気取っているのが俺の見つけた血の渦との付き合い方。性に合ってると思うし、便利だし。
 お前はどんなノが合うのかな。見つけてくれよな。でなきゃ、一石二鳥が成り立たないよ。せめて、見つけようって気に、なってくれりゃいいからさ。
 嵐の前の静けさ。深い寝息のボウイを見てると、ふいに触れてみたくなり、慌てて別の事を考える。
 、、、腹へったっ。
 俺はいつのまにか、、、こんなにも自然にボウイの体に触れようとするほど、、、、。




 ボウイ抜きの顔ぶれで、メイの作ってくれたシチューが夕食。
 ああ、あったけぇ。

「メイちゃん、おいしいヨこれっ!一応ボウイの分取っといてやって。後で文句言われるかもしんない」

「はい。じゃ、トレーに用意しておきますね」

 嬉しそうに微笑んで答える。かっわいいなー。ココへ来るまで、この世にかわいい子供なんてモノがいるとは思ってもみなかった。いつか大きくなって、俺が初めてマトモに料理を誉めたその日、ボウイが初めて人を撃ったと知ったら、なんて思うんだろう。
 なんだか段々、アイザックの心境になってきた。

 あー、食った、食った。アイツまだ寝てるだろうな。それでもいいや、朝までいてやろう。
 毛布を抱えてボウイの部屋に行くと、やっぱり寝てた。
 いてやろう、とはこの期に及んで俺も見栄っ張り。カウンセリングの件を抜きにしたって、居たいんだ、ボウイの見える所に。
 部屋の灯りを落として、ソファーに座って、、せっかく自力で眠れたものを起こすことはない、、ちょっと苦しそうなボウイの寝顔をつまみに軽くビールでも引っかけて、、、。
 あーあっ!なあんでこうなっちまったモンだかな。
 疑いようもなく、コッチから男に惚れた。絶対ないと思ってたのに、コノヤロウが天地をひっくり返しやがった。
 けどね、自分の感情には素直な方でね。でなきゃ脱走なんざせずに軍の中で世渡り上手してるさ。
 だから、ためらわない。が、身体が「ちっとヤダ」って言ってるのも事実。いい加減お馴染みになっちゃったあの感触。好きで男と寝たことなんか一度っきりもない。思い出してみろ。男になでくり回された上にンな事されて、ちっとでもヨカッタこと、、あったか?
 NO。NO!ぜっったい無いって!
 だけど、さっきボウイに触れそうになった時、、すっかりその気分になっていた。自分で驚いたくらいストレートに身体を重ねたいと思った。
 今夜は、、腹据えてるさ。問題はそこから先、、、、お前のセックスはどんなだ?
 コレってすんげえ不安材料。いいさ、それも試してみなきゃ始まんねえよな。平気、平気、当たって砕けるのは俺じゃない、とでも思わなきゃまったく。
 くっそーボウイのばか、寝言ひとつ言わねえなっ。
 ねむてえよっ、、きどじょうたろー、本日まじめにお仕事したもんよ。かわいそーに、お町なんかクタクタだろうな。




 夜中。僅かな気配と小さな金属の音にはっとしてソファーから飛び起きたら、、、窓際の棚に腰掛けて煙草に火をつけようとしてるボウイが、星あかりでシルエットになっていた。
 それを見た途端、眠る前までごちゃごちゃ考えてたのはどこ吹く風、いつもの強気がクンと頭をもたげる。

「、、、、ライターか。いつから起きてた?」

「今」

 普段より幾分低いトーンの声で、聞かれたことだけ短く答える。ライターに照らし出されていた表情は、、ふふン、なかなかにシリアスじゃん?
 お待ちどうサン、ボウイ。料理しながら、されてやるぜ。
 ボウイはかわいいくらいに緊張してしまっていて、俺と目を合わさない。それでもすぐに間がもてなくなったのか、付け足すように言葉をつなぐ。

「脅かすなよキッドさん。もう少しであんたの上に座るトコだった。何してんの?人の部屋で」

 言い方は柔らかいが、暗に出ていってくれと、責める口調。
 ごあいさつだな、そりゃ。散々、人のケツ追っかけ回してたのは誰さ。

「初めて人を殺した晩に、精神安定剤をあげようと思ってね。知ってるか?肌を重ねあって精神の均衡を保つってのが一番の上策なんだぜ」

 良く言うわ俺も。

「おいおい、、、、」

 別段あわてた様子も見せず、灰皿を片手にゆっくり煙草を揉み消しながらこつっちへ来た。俺の所へ、、ではない。ベットサイドに灰皿を置くと、自分もベットに腰掛ける。
 おや、ボウイさん、まだこの距離縮めないつもり?程々にしないと潰れるぜ。人を殺した衝撃って、強がってどうにかなるモンじゃないんだから。

「そりゃ、キッドさんにそう言われると実に説得力あるけどね。俺ちゃんはそんなにヤワに見えンのか?その手のおせっかいは遠慮したいね。だいたい、ツイ今朝まで嫌がってた相手に無理させてまで、そんな事する趣味ねえヨ。クソ面白くもないからな」

 ほー、そうかい。そこまで筋金入りの強がりなら、、いい男には見えるな。それを言われちゃ、こっちだってホンネを言わなきゃなんないじゃないか。
 いいよ、言ってやる。嫌がってない、ボウイが欲しいってさ。
 だけどその前にっ!その筋金入りの強がりをひっぺがしてやらぁ。でなきゃカウンセリングの方が失敗しかねないんだ。お前がそうやって「俺ちゃん平気」みたいなフリで、無理したまま俺と寝たんじゃ、今は良くても後々わからんからな。俺はね、かわいいほど緊張してシリアスなツラのお前を見ちまったんだよ。

「成る程、おせっかい無用ね。オーライ。で、時にボウイさん、バンメシ食わなかったろ?持ってきてやるよ。腹へっただろ」

「ん、、、ああ、そういえば」

 やりぃ!ひっかかった。普通の奴ならココで「食う気がしない」って、素直に青い顔して言うんだよ。
 我ながらこんな時はマメだと思いつつ、シチューを熱々に温め直して、自分の分にビールをもうひと缶。
 ボウイのベットに座り込み、そ知らぬフリで缶を開け、ボウイはソファーに移ってハフハフと冷ましながら、、、、り、立派に食ってる。
 三口、四口、まだ行くか、、俺の知る限り、こいつぁ最高記録だ。
 カタ、と、皿を置く音。そら来た。ボウイが無言で立ち上がり、早足でトイレに駆け込む。

「どうしたー?」

 なんて、白々しく尋ねちゃう俺。お、派手にやってるな?それでよしだ。思い切りもどしちゃいなボウイ。強がった分だけ余計に自分が情けないだろ?馬鹿だな、ほんとに。
 でも安心したよ。とりあえずお前も普通の人間だ。こんだけ人の気持ちを騒がせといて、マジにダメージ、ゼロだったらどうしようかと思ったぜ。そこまで神経ぶっとんだ奴に惚れたら、地獄もいいトコじゃん?

「おい、大丈夫かよ?しっかりしろってホラ」

 ちょっとわざとらしいかも知らんが、、猫なで声で水を渡し背中をさすってやる。体を寄せ気味に。
 べったり汗かいて、肩で息して、むせかえって、、俺が渡した水でいまいましげに口をゆすぐ。そして。

「ざまぁねえやな」

 そう、そのセリフを待ってたんだ。
 恐い、苦しいと、口に出来る奴は簡単だ。助けてくれと、人に頼れる奴は。
 そうじゃない奴はそれ以前に、自分が、思ってたより弱いモンだと言う事、自分で認めなきゃなんない。それを認めた事をキッチリ自覚するために、そこにいる誰かに曝けだしてしまえればいい。
 俺もそうした。あれは退役まぢかの老兵で、、なんの脈絡もない自分の昔話を淡々と俺に聞かせていただけの事だった。気がつくと俺は泣いていた。止められなかった。それを見て、気の優しい哲学者みたいな目をした老兵は、また話を続けたんだ、、延々と。
 お前には、俺がその誰かに、なるから。
 俺はあの人みたいに芸術的に優しくはしてあげないけど、、お前なら、と思うから。

「ちくしょうっっ!!」

 突然ボウイが立ち上がりざま、ガラスのコップを床に叩きつける。

「あぶねっ、、、」

 言いかけた俺は、いきなり振り向いたボウイに胸ぐらを引っつかまれ、声を失った。
 あ、あの時の目、だ。

「ナンデだよ?え!なんでだっ!キッドさんよ!」

「何、、が」

 首が苦しいよ。

「けっ!」

 そのままボウイは俺を半ば引きずっていって、体がバウンドするほど強くベットにつき倒した。

「何で居なくならない!なんでいつまでもここに居るんだ!どうなるか解ってんだろうな!」

 言うが早いかのしかかってきた。
 そっか、あくまでもすがりつくのではなくて、、か。ハナっから人に頼ったり、すがりついて震えたりって行動がインプットされてないみたいな感じ、、なんだな。
 これが地なのか?苦し気に、暗く激しく燃え上がるこの目が。この際になっても外見上には弱さを見せない。とうに傷口を曝しているのに激しい奴。
 いつもの、弾むようなゲンキや、暖かそうな視線だってホンモノだろうに、、、、そのギャップ、どう処理して生きてきたのさ。
 しかし、獣のようなとは良く言ったもんだ。いいよ、それでも。ケダモノじゃないなら。まあ今夜だけはケダモノでも許してやろう。俺が起こしたケダモノだ。
 たったシャツ一枚、剥ぎ取る事すらしないまま、いきなりキタ。
 、、やっぱ、、痛てえ。ずいぶん久しぶりだもんな、最後に野郎と寝たのいつだっけ。
 それにしても、、なんて、、タイフーン、ハリケーン、サイクロン!
 こ、これはちょっと、、予想を上回る、、覚悟をしていたとは言え、、、、ひっでーの。
 ボウイの奴、潜在パワー有りすぎだぜ!頭が、、、ぐるぐる、、してきた。もしかすっと、マズいんじゃないか?
 強引に身体を貫き、引き裂く、、、引き裂く傷み。頭じゃ解ってるし、気持ちはといえばすっかりお前にのぼせてるんだけど、、、身体の方は勝手にその激痛、鈍痛から逃げようとして、背を反らせ、ずり上がろうと派手にもがいてる。
 とっくのとうに、俺は声を上げている。とっくに所か、最初から、だ。ボウイがフツーじゃないやり方で押し込んだ瞬間には、極くまっとうな、痛みに対する叫びだった。
 徐々に、それとは違う、誰が聞いたって解る種類の声が混ざり混んで、、、、おどろいた。こういうことか。これが、、そうなのか。
 胸を突く困惑。身体が形を失う錯覚。意志が意味をなさなくなる。衝撃的で、、そして強烈に切ない、、、、くっそー!なんだっていいさ!
 よおっっく解った。とにかく、とにかく俺は初めて、男じゃない部分で感じテンだ!今まで俺を抱いた奴!笑いたきゃ笑え!泣きたきゃ泣け!俺はボウイが好きだ。たった今、ボウイとするのも好きになった!
 感じてしまった瞬間から、俺は自制しなきゃならない事に気がついた。それまでバタバタとベットの上をさまよってはシーツを引っつかみ、離してはつかみ直しして、逃れよう、紛らわそうとしていた手は、ボウイに向かって浮き上がりかける。ボウイの腕にすがって、身体を安定させてしまいたい。背中に手を回して引き寄せてしまいたい。
 でも、今急に抱き締めてしまったりしたら、案外ボウイは正気付いてしまうのじゃないだろうか。ボウイが自分からストップするまでは、そうしたくない。
 存分に猛り狂え。得体の知れない赤く濁った澱みを、澱みのままで許してておくな。俺のように渦にするんでもいい、力を加えて流れを作るのでもいい、防波堤を築くか、ダムでもけっこう。どんな方法でもいい、お前の意志を介入させて、手なづけろ。
 そのスキをつくる為に今、トコトン発散させてやりたい。解放させてやりたい。こんな気狂い沙汰のセックスを許すのは、今夜限りだからな。
 だけど、俺が感じていられるのも、自制の努力も、正直わずかな時間でしかなかった。後は全く俺の予想通りの展開になってきて、、、、初っぱなであげてしまった声もすっかり掠れ気味。
 ボウイには、、俺の声なんか聞こえてないんだろうな。それどころか、俺が本気で抵抗してない事にさえ気がついていない。



 
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