J9 基地のゲート1

□三度目の仕事
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 いつの間にか、青ざめてた顔はうっすらと紅潮さえしている。さっき見せた鋭い目付きも引っ込んで、でたらめに暴走しそうな危なさが影を潜めた。
ドタバタ騒ぎのうちにひとやま乗り切っちまったらしい。
 たいした奴だ、と思う。そのうち聞いてみよう。制御できないマシンでヘアピンに突っ込むのと、銃撃戦とどっちが恐いか。
 そう、コイツが今乗り越えたのは、単なる恐怖だ。これからじわじわやってくる、血の興奮の渦と、まともな奴なら一生消えないザイアクカンってやつがまた、輪をかけて厄介なんだ。
 あ、またきた。

「お町、新手だ。早目になっ」

「わかってる」

 ボウイと二人、バリの後ろから三、四人倒した時だ。
 俺は背中に銃を突き付けられて動けなくなった!
 ゆっくりと上に上げた手から、ブラスターが抜き取られる。ボウイが気付いてあからさまに表情がはりつく。

「さあ、そっちの坊やも銃を放しなさい」

 畜生!白衣の女だ!

「あったわキッド!」

 ああっ!頼みの綱がっっ!

「動くんじゃないよ!お嬢さん!」

 ヤバい位置。お町はボウイの後ろ、ずっと向こうに出てきちまった。
 ああ、サイテー。
 イチかバチか、まだブラスターを放してないボウイに賭けるっきゃねえな。
 出来るか?この至近距離で女を撃てるか?イヤ、やってもらわにゃ、、どうにもならん。
 声に出さず、口を動かした。
、、、、ヤ・レ、、ボウイ、、、

「早く!銃を捨てるんだよ!」

 ボウイが俺を通り越し、女の目を見てうなづく。が、それは女に従うという意味でない事が俺には充分伝わった。
、、、、スリー・ツー・ワン・!!
 ばっと、俺はその場に突っ伏しボウイのブラスターは即座に女の額を貫いた。お町が駆け寄る。

「ごめんキッド!ボウイ!」

 ボウイはまだブラスターを構えたまま。苦いツラをしている。

「さんきゅ、ボウイ」

 硬くなった腕をさすり、下ろしてやりながら、ちょんと、キスしてみた。

「わっ!キッドさんっっ」

 うぉっし!正気だ。ほんとにフルコースのデビュー戦になっちまった、、、な。

「さあっ!帰るぞ!」

 ボウイの背中をバンと叩き、通信をオンにする。

「アイザック!来てくれ。東の角辺りがいい」

『了解』

 もう、さほどの人影はないが、シェルをぼこぼこ投げつけちゃる!記念の花火だ。
 来る時は少々長いと感じた距離をさっさと駆け抜け、階段に差し掛かる。

「転ばないでよ、ボウイちゃん」

「げ、勘弁してョお町っちゃん」

 たった一回の実戦ですっかり慣れてら。生々しい死体の山も、おびただしい血も、そして、どの位置に移ってもコッチを凝視する死人の目も、ボウイをうろたえさせるものでなくなった。さっき俺がはたき落としてやった耳、お前の視界にも入ったか?
 始めはアイザックの神経疑ったよ。世界に名を馳せたナンバーワンレーサーを、こんな事に引き込むのかっ、、てね。スティーブン ボウイが、この仕事をやっていける男だと、奴はどうやって判断したんだろう。
 カウンセリングの足しにと思って、お前が巻き込まれた厄介事の数々を聞き出して、どうやらローティーンの頃のお前が、トラブルメーカー以外のなにモンでもないと知ってさえ、殺った事はないが殺傷沙汰に巻き込まれるのは慣れてる、、なんてセリフをお前の口から聞いてさえ、まだどこかで本気にしてなかったんだ。
 今なら、納得できるよ。あの目を見たからな。ビリビリと銀色の緊迫感を發つドッグファイトの時ですら見せない。
 ブライスターのコクピットでだけ、かろうじて見ることができるお前の横顔は、それは激しいけれど、さっきみたいな腹の底に重たいようなのと違う。
 何となく想像できちゃうナ。あの物騒な目をして刃物をぶん回してる、まだ半分子供のお前。カラダを持ってかれたって?売ってたって?ははン、どうせ瞼を閉じた裏であの目をしたまま、だったんだろう?そんなら解るぜ。俺も似たり寄ったり。
 なら、この一石二鳥、案外うまく行くか、、、?
 階段を上がりきると、目の前の壁をぶち抜いてブライスターの鼻っツラがにょっきり生えていた。

「会いたかったぜぇ!子猫ちゃん!」

 先に辿り着いた俺を押し退けて自分が真っ先に乗り込んだ。あ、むかつくっ。

「このやろっ、フツーそおゆう事するかっ?」

 俺にお構い無しでメインコクピットに向かう。あ、無視されたっ。
 お町がおかしそうにケラケラ笑う。

「キッドちゃんのキスより、子猫ちゃんの方がいいんだって」

 ち、ばかボウイ。
 あ、、、っ。

「お、お町、あのキスはさ、、、」

「いい手だったわよね。とりあえずビシッとさせるには。でも、この先、思いやられちゃうな、ドアを爆破した時みたいな事、しょっちゅうやられちゃ危ないわ」

 ああ、あの身の程知らずの心配ね。

「任せとけって。ああゆう場面で俺の言うこと聞かないとどういう事になるか、思い知らせてやるさ。次までに最優先でそれを叩き込んでみせましょう」

「自身あるのねーっ。ふふっそれにしてもおかしかったぁ。ボウイちゃんてば黒豹に牙を剥かれた仔犬みたいにすっとんで来たもの」

「ぷ、ははっ。でもあの仔犬、狼に化けるぜ?」

「うん、そうね。、、黒豹は黒猫に化けたりすることあるのかしら?」

「え?何?」

「ううん、何でもぉ」

 そんなこと言いながらコクピットに上がると、操縦席に座ったボウイの横でアイザックが肩をすくめて見せた。実戦初体験のボウイを気遣って、帰りの操縦をするつもりでそこに座っていたアイザックに、ボウイは入ってくるなり「代われ!」と一言。アイザックは引きずり出されたらしい。
 ああ、ホンの一歩早けりゃそん時のアイザックの顔が見物だったろうに!

「ガリコネ機は?出て来ないの?」

 お町がフロッピーを手渡す。

「来るには来るが、奴等の到着よりポリスの方が早そうだ。近場には戦闘機を備える程の大きなアジトはないからな」

 俺達はほっと一息。が、そうじゃない奴も一人いた。

「ええ?ンじゃ全く帰るだけ?俺ちゃんもうひと暴れかと思って期待してたのにー」

 威勢がいいというよりも、コイツなりの荒れ方なのかもしれない。

「物足りないって?なら、お前にやらせてやるからこの研究所ぶっつぶせよ。でもってフルスピードでおさらばだ。な、アイザック」

「そうしてくれ」

 持ち場に戻ったお町がソナーを中距離から近距離に切り替えて急かす。

「ポリスが来ちゃうわ、ボウイちゃん!」

「了解っ!」
















 
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