J9 基地のゲート1
□三度目の仕事
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J 9 結成、一ヶ月と少々。俺達に三度目の仕事が来た。
「では、キッド、ボウイ、お町の三人で潜入してくれ。私はフロッピーを手に入れ次第突っ込めるようにブライスターで待機する」
その言葉は極くすんなりとアイザックの口から出た。
これまで二回の仕事で、奴は全くのパイロットだった。ブライスター、ブライガーでの戦闘はあったにせよ。
しかし、俺達のリーダーは今日からそうでなくなることを言い渡した。
なら、俺もコーチとして決断しよう。俺の生徒の出来は、素人にしちゃ中々悪くない。確実に前を走るだろう俺の、、、背中にぶち当てない程度には使える、、だろうな。
俺達三人は、これまでよりちょっとだけ緊張感を増した顔でうなづき、そして今までと同じように立ち上がりイエィとそろって部屋を出る。
改まってボウイの顔を見つめようなんて気の利かない馬鹿は此処にはいない。プレッシャーが増すだけだ。
ボウイを除く三人のうち、一番場数を踏んでいて、なおかつ軍で新人のその手の面倒を見るのに慣れていた俺は、銃の扱いのコーチと同時に、心理カウンセラーなんてヤクザな役割まで引き受けた。
そりゃそうさ。人を殺せばどんな奴だって少しはどっかがオカシクなって当然なんだ。そんな時に代わる代わる心配しに来るなんてのは、最上の愚策でしかありゃしない。誰か一人、適任者が付きっきりでツカマエててやればいい。
カウンセラーの件はアイザックとお町に了解を取っただけで、ボウイは知らない。その方がお互いやりやすい。
でも、俺は自分で適任だと思ってるぜボウイ。お前ってば、ここに来たその日の晩に俺を口説こうとしたくらいだからな。そうゆう奴には、それなりの治療法が一番って訳さ。
薬は俺自身。
初めははっきり言って、すっっっげえ嫌だったけどな。アステロイドくんだりまで来て、しかもこの少人数で暮らす中で、その手の男がいるとは考えもしなかったよ。
ああ、また俺の上に乗っかろうっていうエゲツナイ奴がいるのかってさ。
でも、いつのまにだろう。お前に言い寄られるのが、嫌なことじゃなくて、楽しみな日課のひとつになっちまったのは。
ま、そのたびに殴ったり怒鳴ったりすんのが特に楽しいんだけどさ。だって、お前っていくら拒んでマジで殴っても、とことん暴言はいても、基本的なトコで怒んないからな。だからって落ち込む様子もなし、次の日にゃゴク当たり前にお仲間として付き合ってるし、何つったってキッチリ仕事しやがる。その態度が気に入ったぜ、中々ご立派。
この俺を相手に一月も粘る奴も初めてだ。大抵、掌を返すように蔑むか、実力行使で来るか、、どっちかなんだけどな。
願わくは、俺と寝た後でその態度がかわらなければ、、、と思う。
そう、認めてやる。俺はボウイに惚れちまった。ヤバいとは思いつつ、気がついたらそうなってた。
お前みたいにいい顔で笑う奴に足元すくわれたら、人間不信のドツボかもな。口にも出さないで勝手に期待してんのは俺の方だけどさ。
あぁあ!すンげえ、公私混同の一石二鳥!なぁにがカウンセラーだか!
解ってるさ、それくらい。
俺は薬だが、劇薬だ。処方箋はロシアンルーレット並みのでたらめ。
けど、これが俺の選んだやり方。J 9 の中だからこそ、J 9 で出逢って惹かれ合うようになった相手だからこそ、素のままの俺がココで通用するか、ボウイがどう受けとるか、、試してもいいと思える。
二兎を追うものはナントカって言うけど、劇薬がアダになるか、薬として活かしてもらえるのか、ボウイ次第だ。あいつはお町でもアイザックでもなく、俺に惚れたんだから。
その俺のやり方についてこられないようなら、ココにいない方がいい。
そうなって欲しくないと、本気で思うから、全力でぶち当たる。
当たって砕けませんように。
だって、砕けるとしたら俺じゃなくってボウイの方だもん。
口説かれ始めてから一ヶ月ちょいか、、今まで気のないフリしてたのは、この日が来るのを待ってただけの事。お前のためにとっといてやったんだ。
まずは、見させてもらう。
お前がどの程度ダメージを受けるか、、、楽しみだ。
「お町、後ろな!ボウイ、背中は全部お町に預けろ。立ち止まらんでついて来りゃ上出来だ。行くぜ!」
「あいよっ!木戸コーチ!」
軍の新入隊員より度胸はよさそうだ。虚勢じゃ無いことを祈るよ。
さあ!しばらくは振り向いてやれないからナ!あとの事は任せろ、俺の手でシャッキリ、スッキリ立ち直らせちゃるから、たっぷり返り血浴びてこい!
そして俺達三人は走り出した。見張りの二人を、騒ぎにならないように確実に俺が仕留め、建物へ踏み入る。
一見ただの警備員だが、何の事はないガリコネの下っ端に制服きさせただけのこった。
此処は、某企業のさほど大きくない研究所。ごたぶんに洩れずガリコネのために役立つ物を研究している。正義派の科学者から盗まれたフロッピーを、悪用される前に取り返すために、参上させてもらっている。
研究所の規模と言い、中に居る人数と言い、初心者にはおあつらえ向きだ。人質なんて厄介なものはないし、フロッピーさえ手に入りゃ、どうせコネクションだ、建物ごとぶっつぶせばいい。つまり、遠慮も無用って訳だ。
こうこうと灯のついた廊下を、監視カメラを潰しながら走る。すぐに賑やかになるはずだ。
ソラ来た。
ボウイが走り抜けたばかりのドアから、ひょっこりと首を出した男は、声を上げるまもなくお町のナイフに倒れ、お町のウインクに促されたボウイが再び走り出す。
よしよし、いい子だボウイさん。
フロッピーは、地下の第二コンピューター室。
階段にたどり着く前に、監視カメラの異常に気付いて来たらしい数人と鉢合わせた。二人ほど仕留めてから、幸いにもそこで交差していた通路へ飛び込む。
ありゃっ!ボウイだけ十字路の向こう側じゃんか!
「お町ぃ、何でボウイの方へ行かないんだよぉ!」
言いつつ、壁を盾に応戦する。
「ああん、ごめんしてぇ!」
廊下を挟んで向こう側でボウイは中々奮闘している。
「大丈夫、ヨッ、何とか、やってる、ぜっ!とくらあ」
おーお、たいしたモンだ。一人前に撃ちに出てくらぁ。が、てんで当たってないぜ。コーチとして自信失くす用なマネしないでくれボウイ。
ん、あと二人か!よし、チャンスだ。
「ボウイ!来いっ!」
言いざま俺は廊下のまん中に飛び出す。一瞬の遅れも見せずにボウイが隣に立ち、二つのブラスターはほとんど同時に火を吹いた。
「イエィ!やったじゃんボウイ、あたったぜ!」
少し大きめの声でそういう言って、わざと強くボウイの肩をどやしつけてやる。ボウイは半分ほうけた顔で、それでもヒュウッと口笛を吹いた。
「当たった、、あたっちゃったよ!あいつ死んだかな?ああっ、殺しちゃったぞ俺!どうしよう、、、なんて、言ってみたりしてね」
俺とお町は一瞬声を詰まらせ、、そしてぷっと吹き出した。
「さ、行こうぜ。キッド、お町っちゃん!」
なんて奴だ!こんな反応する奴見たことねえぞ。根掘り葉掘り聞き出して、殺るのは初めてだと確かに確認したんだけどな。いやいや、カウンセラーとしては油断大敵だぞ。鈍そうな奴だからな、後でドドッと来るかもしれん。
自分達で作り上げた死体を数個、飛び越えて行くとすぐ階段だった。今の騒ぎで、ぞろぞろお出ましの筈だ。
やはり俺が先頭で、ボウイを中に挟んで駆け降りて行く。すぐ後ろに聞こえるボウイの足音が、テンポに微妙な狂いを生じている。やっぱりだ!あんな態度をとっちゃいるが、それなりにビビってやがる。
さっきの死体を見たのがまずかったか、こう明るくちゃモロだもんな。まあ、膝ガクガクって程じゃなさそうだ。なんて考えた途端だ!!
「わっ、わたたたっ!」
足をもつれさせたボウイは、そのままつんのめり、事もあろうかこの俺の背中に体当たりして来た。此処は階段だっ!俺はボウイのコケルのを見てはいない。全く不意討ちで階段から突き落とされたんだっ!
そのまま俺とボウイはみっともなく転げ落ちた。五、六段でよかったなボウイ!
「ばかやろうっ!」
と、声を押し殺して、上に乗っかっているボウイを蹴飛ばそうと、、、する間もなかった。
「キッド!ボウイ!」
お町の叫びは、階段を落ちたことを心配する声じゃなかった!
びっくり返っている俺達の頭上を、お町のシェルが弧を描いてゆき、爆煙が沸き上がる。咄嗟に伏せた。俺でさえめったにお目にかかれないほど至近距離の爆発だ。荒業だがお町の判断は正しかった。
お町の目にはボウイが俺にぶつかったその時、自分のブラスターで処理しきれないほどの人数が、角を曲がっていきなり目の前に現れたのが見えたんだ。
ボウイには可愛そうな事になった。本気で同情してあげるよ。爆風がおさまって顔を上げた時、ボウイの頬にへばりついていたのは、他でもない、千切れ飛んだ人の耳の残骸だった。
気づかずに頬の異物に触れようとするボウイの手を、ブラスターの砲身で慌ててはね除け、左手でソレを頬からはたき落としてやる。
ああっ、最悪!俺だって気色悪りィよ!なんて言ってる隙はないっ。
「二人とも怪我はないっ?」
さすがに青ざめて、べっとりと血のついた頬をさすっている。が、その目は脅えてなどいなかった。それどころか、、、なんてすげえ目付きしやがる。
このひょうきんオトコ、、こんなツラ隠し持ってたのか。初めて見るお前のダークサイド。こんなに激しいものを持ってる奴だとは、俺としたことが今の今まで気づきもしなかった。
「大丈夫だ、すまんキッド」
「ばかボウイ!後でたっぷり反省させてやるっ。来いっ!」
さっき跨ぎ越えて来た死体が、可愛く思えるようなシェルの威力。壁に叩き付けられた、何処までが一人分だか解らない肉の塊。内臓、眼球、脳漿、血、血、血、ちくしょう、オンパレードじゃねえか!せめて初心者の為に、見た目だけでもスマートにかたづけようと思ったのに!
ボウイはさっきの騒ぎで開き直ったのか、目覚めたのか、すでに前も後ろも敵だらけの廊下をかなりいい線でブラスターを扱いながらついて来る。顔は真っ青のままだけど。
「キッド!あの部屋よ!仕掛けるわ。そのまま駆け抜けて!」
「O.K. !」
「頼むぜボンバーギャル!」
ボウイが僅かに足を止め、お町を最後尾から真ん中に上げる。第二コンピューター室のドアまであと10メートル。他より頑丈そうなそのドアを手っ取り早くぶち破ろうと、お町が一時応戦の手を止める。
ちくしょ、ボウイにバズーカか自動操銃もたせときゃよかったか。
あと3メートル、2、1、、やたっ。
走り抜けざまドアに超小型ボムをセットしたお町が再び戦列に加わる。頼もしーい天使。
前から向かって来る敵より、追って来る敵が増え始め、ボウイの負担大。
「お町、前たのむ!ボウイ、お町に付いてろ!」
「キッドちゃん、タイミングよろしく!」
「承知」
お町とはすでに実戦三度目にして以心伝心というヤツが成り立っててこんな瞬間とってもキモチイイ。
二人の後ろに躍り出ながら乱射。ちっとキツいが、奴等の足を止めたい。
あ゛っっ!
「ばかボウイ!走れ!一緒ンなって立ち止まってんじゃねえよ!!」
怒鳴られたボウイがすっ飛んでお町の後を追う。それでよし。
ブラスターキッドを心配しようなんざ十年早いぜ!分をわきまえろってんだ、本気で惚れたらどうしてくれるっ。どうせもう遅いけどよ。
てな事してる間に俺は欲張り続け、出来りゃ、もう二、三人、、、引き付けたい、、よし!
「お町っ、ファイア!」
叫んで、ドアのある側の壁近くに倒れ伏し、爆風と飛び散るドアの残骸から身を守る。
やぁったね。大成功。追って来た十数人が一挙壊滅。
駆け戻った二人と共に、まだ爆煙冷めやらぬ室内に飛び込む。
スーツ姿が一人、白衣が三人。もう一人、白衣の女がドアの内側に倒れている。
純粋な研究者なもんか!うろたえる様子も見せずに応戦しようとするそいつらを、あっという間に片づける。
「お町、探してくれ。ボウイ手、貸せ」
その辺の機械をひっくり返し、大穴の空いたドアにとりあえずのバリを築く。お籠りする気はないからな、フロッピーを見つけるまでだ。
内側にしゃがみこみ、ブラスターのエネルギーカートリッジを取り替える。
「ボウイのも寄越しな、今日だけやってやる」
「じゃ、俺もフロッピー探して来る」
「いい、座ってろ。悪いなボウイ、とんだフルコースのデビュー戦になっちまってさ。ちょっとしたオードブルのつもりだったんだけどな」
「なんの、モトはと言えば俺がコケたのが原因だかんな。重かったろ?悪いね、、二人に余計なテマかけさせてさ」