J9 基地のゲート1
□オニキスの瞳に
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最初にびびる→座にムッとする→しばらくしていぶかしむ。なんでびびったんだろ→それから密かに観察する→良く解らないまま、取り敢えず視覚的に刺激を受ける。きれーなオトコー!→目が合ってあからさまにうろたえる。くそっまたびびってる。→そして、突如、気づく。
ホ、ホレちゃっ、、た?!
あとは怒涛のごとく、信じられないほど自分の気持ちだけはスムーズに、、お前めがけて流れ落ちた。
なんてカイカン!こんなのハジメテ。
嬉しくってしょうがない。キッドを愛してる。
まだね、受け入れちゃもらえないけと。一筋縄じゃいきそうにないけど。
だって!そりゃそうさ男だもんよ!俺だってイヤだよ。此処までマジに男に言い寄られちゃたまんない。
だから焦らないつもり。せめてお前のために、蒸発していく俺のちっぽけな理性を全部とっ捕まえておきたい。
部屋のインターホンが二回鳴って、慌てて時計を見る。AM6:30 。
「ヤベっ!怒鳴られちまう」
ジャージに、上はランニングだけで部屋を飛び出せばキッドの怖い顔。
「ごめ、、」
「呼ばれる前に出てこい!トレーニング室までダッシュ。行け!」
今日で6日目のキッドのコーチ。ぎりぎり付いて行ける範囲ではあるけど、いつ仕事が入るか解らないからフルコースじゃないんだとか。
それに俺もこっちばっかりはやってられない。本業はパイロットですからね。まだまだ、もっともっと、あの子猫ちゃんを俺流に手なづけねば。
24時間飛ばしていたいくらいあの子は素敵だ。
「お?偉いじゃんマジで走ったんだ?んじゃ柔軟してダッシュ50本ね」
「イエッサ!」
「やめてくんない、、ソレ。まだ軍に居る気がする」
んなこと言って、さっき呼びに来たとき軍人さんモロ出しみたいな言い方してんのはそっちだ。
キッドの不規則なホイッスルに合わせて左右にダッシュを繰り返す。折り返し点で床に手をつかなきゃならない。銃を拾うつもりで、、だそうだ。
まだホンの10 本程度の所でキッドがピピッと鳴らして突然打ち切った。
「何?どっかまずいトコあった?」
「まあね、、いや、よし決めた。そろそろマニアックにいこうぜ。軍のマニュアルを適用する気はハナっからなかったけどさ、基礎体力的なノはずいぶん見せてもらったし、これからはどんどん自主トレに回すから勝手にやりなよ。体が資本のプロって意味では今までと一緒なんだし、、出来るんだろ?体の管理くらい」
ピッとV サインで返事を返す。
「レーサーの時、何をどんだけやってたか書き出しとくから、いっぺんプラス、マイナス検討してくれよ」
「プラスばっかしでも泣くなヨ。これでケッコウ試行錯誤してんだぜー、色々とサ。それじゃ、ちょっと体ほぐして待ってなよ。今日は面白い事させてやるから」
面白い事ねぇ、、期待していいんだか、悲しんでいいんだか。
キッドはしばらくして荷物運び用の手押しのワゴンに銃火器を山ほど積んで、おまけに肩にバズーカまでしょって息を切らして現れた。
「なっ、なにそれっ!どうすんの?!って、、でもそのお姿お似合いよ。すげえセクシーだぜっ」
肩のバズーカがひょいとこっちを向いた。さすが、幾ら重くたって銃火器を扱うのはお手の物。腕力が上でも不慣れな分俺の方が遅いんだろうな。
「朝から言うか?え?弾薬抜きでよかったなボウイさんよ。いい加減しつこいぜ。何考えテンだお前」
「何って?解らなきゃ何度でも言うぜ、愛してるよ。好きになっちまったんだよ」
どこからどう見ても、男に手を出されてびびっちまうような可愛いチェリーボーイじゃない。どころか、ひょっとすると予想を上回るツワモノかも。男を知ってる、てのは本人も口を滑らせてくれたし、、かなりロコツな言い回ししてたっけ。
こいつの体に、取り返しのつかない烙印を押したのは、俺じゃない他の誰か。本音を言えば、キッドにゃ悪いが、ソイツに感謝したいくらいだ。
もしキッドが、本当に全く、何にも知らないウブな奴だったりしたら、とてもじゃないが俺は、どうしたらいいかマジで解んなくなっちまっただろうから。
まあ、いいや、とにかくキッドはそうじゃない。
I Love You と言いながら、両手を上に上げて恭順の意を示しその話を打ち切った俺に、キッドも遊び時間じゃねぇとばかりにシカトでピリオド。
「こんなもんでいいかな」
トレーニング室中に持ってきた銃火器をばらまいて、撒き散らして、キッドが言う。
ダッシュしながら実物を手に取ろうって言う趣向な訳ね。しかし壮絶な眺めだ。いつものブラスターから、マシンガンから、さっきのバズーカに、シェル、ショットガン?ニードル銃?ロケットランチャー?!
でもって、またキッドの嬉しそうな顔ったら。どうやら朝から機嫌そこねたんじゃないかと思ったが、、心配無用だわ。
「好き勝手にこんだけ使っていいってのは快感だな。相当な贅沢モンだぜボウイ。じゃ、いい?トリガーに指かけたら、即、手を放して元に置く。此処からGO で、ジグザグにあそこから、こっちで、あっち、んで次あっち。往復ね」
「了解。いつでもどうぞっ」
「俺もやるのっ。最初の二つまでお前に取らせてやるよ。その後は取れるモンなら取ってみな」
うあ、止めろよその目つき。俺弱いんだからよ。
少しだけ上目使いのキッと光るオニキスの瞳に、不敵で妖しい笑みが混ざる。その混ざり具合のバランスが、こいつらしい、こいつにしか出せない色。
思わず目を逸らした。走る前から心臓が早くなる。
「ね、ねぇ、キッドさん、、ひょっとしてサ、自分がコレいじって遊びたかったダケとか言わない?俺ちゃん二の次で」
「なんか文句ある?スタート合図は、、これでいいか。行くぜ」
キッドが首から下げたホイッスルを外すと、後ろへ向かって高く投げ上げた。
床に落ちた音を聞いてダッシュ!
一つ目を手に取る。俺が銃を離して逆方向へ向かう瞬間ぎりぎりまで、キッドは床に手を付いて待ってる。
それって俺に対するハンデだよね。
二つ目を取らせて頂いて、三つ目の目標が近づいたと思った途端、殆ど同じ速さで並んでたキッドの体がフッと沈んで、体半分も俺より先に出て、、、。
あっという間に取られた。
俺はまだキッドやお町と一緒に銃撃戦に出ていない。キッドと並んで走るのも、こういう時のキッドを見るのも
殆ど初めてに近い。早い上に人の目を惑わすような不思議なタイミングで踏み込むキッドに釣られて、すっかり巻き込まれペースを乱している。
こんなんアリか?!俺としたことが、自分の動きのコントロールに集中できない!
まるでわざと俺のペースを混乱させているように、巧みにキッドは動く。くそっ!とんでもないのを師匠に持ったぞ。
四つ、五つと、立て続けにやられ、それでも何とか腕半分の差まで縮め、手首の差まで追い上げたが、どうしてもその先が届かない。まだ一つもまともに取れないなんて!
この程度のレベルでうろついててたまるかっ!
「っきしょー!」
指の差でキッドの方が早く届いたバズーカを、キッドがしっかり握りしめる前に思わず腕力に物を言わせて強引に奪い取った。これってズル?そう思った途端、キッドが明るい声で怒鳴る。
「上出来だ!それでいい!!」
その後も、指の差、手首の差で、結局一つも取れずに、最後の一つ。二人同時に滑り込みの競り合いで手を伸ばす。どっちの手が触れたのか、銃ははじかれて2、3メーター先へすべった。
頭の中を、引き分けという言葉がかすめた瞬間、キッドが足をもつらせながらも銃を追って飛びだし、俺は強烈な自己嫌悪に襲われた。
最悪!まだ終わってなかった!
が、もう遅い。まろび込むように前に出て銃を我が物とし、勢い余って一回転受け身を取ったキッドは、その銃を俺に向けた。
「今のが一番悪いっ!何で取りに来ない!!ゲームやってんじゃねえんだぜ」
返す言葉もない。どう考えたってこの先足を引っ張りそうなのは俺なのに、こんなんでどうするよボウイさん。
銃尻でゴンと頭を叩かれた。
「次ってのは無いんだぜ。もっとコイツに執着心もってくれよ、ナ」
銃口の辺りへキスの真似をする。
「俺って、トロい、、」
ネをを上げるつもりはないが、つい口を滑らせた。
「バッカ。マジでトロかったら、とっくに無視して先にゴールしてるって。それに、なんて言うか、お前ってヤバいくらい上達速度は早いぜ?」
上達が早くて何でヤバいんだ?誉められてんのか何なのか良くわかんねえ。
朝食までのあいだ目一杯それを繰り返し、と言っても準備に時間を割いてしまったのでたいして本数は出来ずに、俺はキッドに惑わされたまま終わる。
「その内サ、障害物どっさり置いて、お町とかも呼んでペイント弾使って模擬戦しようぜ」
一本やるごとに銃の位置はそれぞれズレてゆき、しまいには鞍馬の下を潜り腹筋台を飛び越えだったので、それこそ見事に散らばってしまった銃を拾い集めながら、またまたキッドさんは楽しそうな顔。
「Wao っ。そんでもって一番ペンキまみれの奴は罰ゲーム?」
「ぷっ。墓穴掘りやんの!ボウイが罰ゲーム免れたらキスあげるよ」
え、ええーっ?!
「ちょ、マジ?キッドさんソレ本気?信じらんねえっ!」
「じゃ、信じなくていい。お先っ!」
あ、揚げ足取りっ。
「タンマ!ちょい待ちキッドさんっ。後で殴っていいから、今だけ、ごめんっ」
ぷいっとトレーニング室から出ようとするキッドを引き止め、気持ちの勢いが止められなくて、抱きしめた。
小さめで華奢だけど、ひ弱さの微塵もない張り詰めた身体が、怒りで強ばる。
うわ、どうしよ。
恋愛感情まるだしでこんなに強くキッドに触れたのは、、初めて。ヤバい、、かな。二人とも一汗流した火照りがまだ全然ぬけてない、、、、。
「てっめぇ!ふざけんのもいいかげんにしとけよ!」
「だからっ、、ごめんてば、、。嬉しかったからさ。物の弾みでも冗談でも、キスくれるなんて言うんだもんよ」
嘘でも、、そんなこと言うの初めて聞いたから。
キッドがまだ暴れ出さないのをいいことに抱きしめたままでいる。一秒でも長く触れていたい。ギリギリに、、切ない。
「そうやって、、少しずつ強引に押してけば、てめえの女に出来るとでも思ってんのか?なめてんじゃねえよ!」
「ふ、ふざけてんのはそっちだ!」
思わずこっちから身体を離して声を荒げてしまった。そんな風に思われんのは冗談じゃない。人の気も知らないでとはこのことだ。
「まだ、会ってから少ししか経ってないけど、もうチビっとくらいは信用してもらえてんのかと思ってた。ンな姑息な手でモノにしようなんて下らねえコト考えてねえんだよ!それに、そんな言い方。女だなんて自分で言うなよ。一番似合わねえよっ。そこらじゃちょっと見ねえくらい男らしいクセにっ。俺、ソレ嫌いだから今度そんな言い回し使ったら殴らせてもらうぜ。俺は、、俺だって、、その、、誓ってキッドさんは女の代用品なんかじゃない。好きだから、、、抱きたいと、、は、思ってるけど」
見事なくらいの、、竜頭蛇尾。
俺の言ってることは矛盾しているのか?何がどうなんだか、俺にだって解らない。とにかく、コッチはこんな気持ちで人を好きになるのは初めてなんだ。
黙って俺の言うことを、多少不思議そうに聞いてたキッドだけど、瞬き一つ後、案の定おキツイ反応を頂いた。
「俺の、されるコトの中身に、違いはねえよな」
確かにそういうことになる。それを言われちゃ一等辛い。お子様向けの童話やお伽噺じゃあるまいし、カラダ抜きなんて俺には無理だ。
それとも、もし、キッドが愛してくれて、それでも抱かれるのは嫌だと言ったら、、俺はガマンする、、?
ああ、いけねぇ、いけねぇ。恋愛沙汰で『捕らぬタヌキの、、』をやる程みっともねえ事は無いわな。
「あ、待ってよキッドさん!おーい!殴んなくていいのー?」
「変な奴っ。早く来いよ。朝メシ食おうぜ」
フォローと取れなくもないけど期待しちゃいけないその笑顔で、いつだってお仲間としての俺は立ち直れちゃう。
「ね、女で思い出したんだけどサ、俺ちゃんてば肝心な事聞くの忘れてたよ。キッドさん、彼女とか居るの?」
一瞬ポカンとあっけにとられて爆笑してくれた。真面目に聞いてんだけどな。
「ば、ばっかじゃねえのぉ!おま、お前今まで何にもそういうこと考えてなかった訳?笑える奴だなー。ホント変な奴ぅ。、、、いないよ。今は。いつでもまたしかけてこいよ。この次はキッチリ殴ってやるから」
WAO !進展!好きだってノだけは認めてくれるんだ。
「キッドさん今夜二人で飲もうぜ。こらこら、あからさまにヤな顔しなさんな。キッチンでもメインリビングでも、ラウンジでもいいよ。部屋に二人っ切りは嫌だろ?男二人であっかるく女の話、しよっ」
「ますますヘンな奴っ。口説こうとしてる相手と女の話か?OK。今夜な」