J9 基地のゲート2
□その硝子、あの鏡
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「知ってますよー。自分で言ってたじゃん、出掛けるかもって。行先、決まったんだろ?あれ投げたって事は」
「、、、、、」
ブーイングのブも無くケロリと言うボウイにキッドがポカンとする。もしかして気遣い、無駄遣い。
「あれっ?違った?」
「いや、、出掛ける。チケット譲ってくれる奴が現れたから。、、、俺、言った?ま、いーや。とにかくもう出るから、あとよろしく」
テーブルから這い出して拾ったピースを手渡すと、自分の部屋の戸締まりも何も押し付けてもう出掛けようとしている。
ウエストJ 区のど真ん中、なんと便利な場所に住んでいることか。今日も今日、たった今手に入ったチケットをちゃんと活用できるのだから。赤いホルスターをひっ掴んだだけの身支度でほいほい歩く、華よ蝶よの危険地帯。
ガラス越しの一幕などさっさと隅に追いやって、お出掛け先へ心を飛ばし始めたキッドだが、ボウイはちょっと黙っていられない。
「よろしく、じゃねーよ。俺、言った?じゃねーよ?てことは、俺ちゃんの言ったのも聞いてねえって事だな?」
ドアへ向かおうとするキッドへピースを投げつける。いつもやられてるお返しとばかり。ひとつ避けられ、ふたつ弾かれ。
「何だよっ?、、おいっ、、手短に!」
みっつキャッチされ。
「明日!エドモンのおやっさん所、一緒に行くか行かないか!」
足を狙ったよっつめがヒット。
「つっても、まだおやっさんからの返事待ちで本当に行くかどうかわかんねえから、行くことになったら、の話なわけよ。行くんなら朝早いんだから、叩き起こして良いかどうか、今返事してけ、つーの!」
全く聞いた覚えが無かったキッドが天井を仰ぐ。これから夜遊び、明日は早朝、、地球についでの用事、、おやっさんに用事、、明日やる予定だった弾薬庫の掃除、、、ぱぱっと天秤にかけて、考えるのをやめた。
「悪りぃなボウイ。帰ってから返事するから、ここで寝とけよ」
「はあっ?!嘘だろ?キッドの居ないキッドのベッドで独り寝しろって?」
「まあまあ、終わったら速攻で帰って夜這いかけてやるから。待ってないでちゃんと寝てろよ」
「んな予告されて寝てられるか!」
「ヨシ、じゃあオッケーだな」
どこがヨシなのか、どの辺でオッケー出た判断なのか。予告があっても夜這いなのか。
強引も我儘も自分で承知しているキッドは、みっつめに飛んできたピースをまだ手に残して室内に背を向ける。
ベッドから跳ね起きてすっ飛んで来る足音。キタ、、、と思う間もなく振り向かされてキッドの背は壁につく。
「手付け。もらっとくかんね」
口を合わせれば途端に遠慮なく入り込む。怒っているわけではないが、強めの自己主張。髪に絡んだ指は優しいが、反対の手はキッドの指を押し開いて強く握る。ピースを挟んで。息継ぎに声が混ざってしまうようなキツいキス。
ボウイの活きの良いキスに流されまくって、半分必死ですがりついて。負けはしないけれど、不意にキッドは自覚する。ガラスの上で踊らされるのはやはり自分の方なのだと。
「疲れたとか眠いとか、後で言っても聞いてやんないぜ」
「受けて立ってやるから、溜めときな」
「最後までひでぇ言い草」
「最初だろ?、、じゃな」
「ん、、」
閉まったドアのあちらとこちら。やめときゃ良かったキスの余韻に煽られて、どちらもしばらくぼーっと立っていたのは、内緒の話。
ーーーーend ー ーーー