J9 基地のゲート2
□Overflow
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手短にアイザックに流れを説明し、破片を渡して部屋に戻ると、ボウイがバスルームから出てきた所に鉢合わせた。もちろん俺の部屋だけど。
「早、、いじゃん」
「そっちこそ。曲がるブラスターの話で当分はダンナと盛り上がってると思ってた」
「欠陥品に興味ねえよ」
広くもない脱衣スペースでボウイとすれ違い、ホルスターに収まったままのブラスターを洗面ボウルの側へ置いた。軽くなる腰と逆に、気分が重くなる。手から離したばかりのブラスターをつい、意味もなく撫でる。
仕事でもないのにブラスター使う騒ぎとか、ほんと、ふざけんな。
そんなことで今さら気が重くなったりする自分もサイテーなら、あれっぽっちの銃撃戦でうっかり性欲刺激されてるとか、もっとサイテーだろ。
油断した。死を目前にしてなお存在価値を銃に頼った男と、違う価値を求めて泣いた女。他人事と割りきれなかった自分に何より苛つく。あいつはあいつ、俺は違うと、、、なら、どう違う。自分はどうなっていくのか、どうなるつもりなのか、明確なものを持っていない事を暴かれた。それでも、人間相手じゃない、競技用の練習に集中して気が治まってきた所だったものを。
心臓がガタガタ文句言ってる。シャワーなんかどうでもいいから、見栄張ってないでボウイのカラダにすがりつけと。
逆か。見栄張ってカッコつけたままで居たいから、か。
ずっとそうしてきた。意識して自分から仕掛けていくぶんにはぶっ飛んでようとハードだろうと楽しめる。イタズラの延長みたいに挑発して、余裕で煽って、手玉にとるなんて大層なことじゃない、じゃれあいレベル。
馬鹿だ、、俺。こんな好き勝手できる相手なんかボウイが初めてで、今んとこ、結局、ボウイだけじゃないか。
ボウイだけ、が、いつのまにかあれやら、これやら増えている。くだらない事から、自分でも驚くような事まで。
今夜、、このまま抱かれたら、もうひとつ増える。増やしたくないのか、増やしたいのか、いい加減ケリをつける潮時だ。あの銃撃戦をあれっぽっちと言うなら、言うんだったら、俺のプライドだか羞恥心だかなんてもっとこれっぽっちだろ。
はン、この期に及んでまだカッコつけが抜けないか。本当は待っていたんじゃないのか、こんな事になるの。もう、認めろよ。
「まーだそのまま突っ立ってるし。脱ぐの手伝うかー?」
また、迎えに来られちまった。
「ああ、頼むよ、手伝い」
何もわかってなさそうな顔のくせに、ケリをつける手伝いまでしやがる。
「はい?思ったよか、こたえてる感じ?ルチアーノの事」
「いや、、、足払い食らって、、お前に仕上げを頼む羽目になってる」
「、、、、、、、」
「抱けよ。じゃなくて、、待て、言い換える。、、、っと、、、抱かれたい。待てなさすぎてヤバイ」
部屋に来て初めて、ボウイの手が触れる。それだけで軽く震えがくるほど奮ぶってしまっている。もしこれがふわっとしたハグで、キスでもされたらこの場で腰砕けになってたかもしれない。けど、ボウイがくれたのは、ドンと体ごとぶつかる、何のスポーツだ?っていうほど強いハグ。
鏡に映るボウイの背。そして自分と目が合う。ブラスターキッド、お前はどこまでこの背中に甘えられる?
「先に言う、、今夜、俺、、グダグダだぜ?」
「わかってる」
優しく背を撫でるのではなく、ポンと一つ、気付け薬のように軽く叩いて部屋へと促す。置きっぱなしのブラスターをチラッと振り向くと、ボウイも気づいた。取りに戻るのかと問う視線に、首を横に振る。