J9 基地のゲート1
□日の沈む草原を
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今日も朝から、暇と平和をたらふく貪るボウイはまだ寝こけている。
「ねえ、ボウイったら、起きてよ!昨日、ブライサンダーいじるって言ったじゃないか、ねえったら、ねえ!」
そのボウイに馬乗りにならんばかりに騒ぎ立てているシン。
ボウイにとってはいい子分だが、シンの方でもマシンに関しては彼が師匠と開き直り、とことん学び取ろうとして、くっつきまくっている。
キッドにはキッドの専門を、お町にはお町の、、と、その学習意欲たるや目を見張るものがある。行く末は、ひょっとするとアイザック以上の際者になるかもしれないとは、お町の言。十歳の今でさえ中々活躍してくれる。
今朝、彼はボウイに夢中だ。とうとうボウイを格納庫に引っ張り出すことに成功した。
「そう、せっつくな、期待すんな。レーダーを熱探知に切り換えた時にパネル表示が見辛いって、みんなブーブー言ってっからヨ。本来なら俺ちゃんの仕事でもねえんだわ」
「なぁんだ。でもイイや、早くやろうよ」
ブライサンダーに手を入れるのは、さすがのボウイにも簡単なことではない。太陽系中、何処を探してもこの一台切りの子猫ちゃんである。
第一、世間に発表すらされていないシンクロンシステム搭載機。まかり間違って肝心のシンクロンシステムをドウニカしてしまったら、、、想像するのも恐ろしい修理代個人負担。
その技術を受け継ぐ者の居ないドク エドモンこそ、J 9 の弱点かも知れなかった。
それはさておき。
「そこのヤツ、一本」
顔も向けずに手を差し出す。中々横柄な師匠ぶりのボウイである。
「はい、この大きさで良かった?」
「ん、ナイス セレクト。ようっし終わった。作業終了!」
「もう終わりかぁ、つまんないの。ね、ボウイ今度やるときも教えてよ。絶対だよ」
ボウイでさえ弟子以下のお客さんでしかないドク エドモンの工場でも、なんやかやと自分から小間使いを買ってでるシンである。
とどまる所を知らないシンの好奇心と学習意欲には、付き合いのいいボウイも閉口気味だが、元気いっぱいまとわりつく彼がかわいくてしょうがない。
元々、孤児院で過ごした日々の後半の数年は、年下の子供たちの面倒を見てやらねばならない立場でもあった。シンやメイを見るにつけ、あの子らのその後を思わずにいられない。
図々しいくらい無遠慮なのに、真っ直ぐで素直。いっそのこと、そんなシンがボウイには救いだ。
「ドライブにでも行くか?」
「やったあ!!」
「メイちゃんも呼んでくれば?」
「お町さんと出かけちゃった。いいよ、オレ、たまにはボウイと男同士の話がしたいな」
「なんつぅ、、ナマイキなコトを」
「もう!やっぱり点検じゃないか」
アステロイドベルトを外れて、すでに最高速。そうしながら各機能をチェック。普段の生活でも足代わりに使っているとは言え、余り長いこと仕事が遠のいてしまうと、こんな事をする必要性もわいてくる。
シンは文句を言いつつ、あっちのシートからこっちのシートまで、飛び回りながらてきぱきと点検をこなしていく。
「お子さま向けの遊覧コースがお好みだった?」
「、、そんなのやだ」
「そらみろ。お前はアイザックの一番弟子だよ、やっぱり。実は俺ちゃんも助かるんだナ。他の連中は自分の持ち場っ切りしか見ねえから。全部見てくれて、手落ちのないのはシンだけだって」
ストレートに誉められて顔を赤くする所はやはり十歳の男の子。アイザックの右腕と認めてもらえるほど、今のシンにとって嬉しい事はない。
「で、でもボウイだってすごいよね、飛ばしながら点検しちゃうんだもん。ボウイじゃなきゃとっくに壊されてるって、アイザックさんも言ってる」
「へぇ、ダンナそんなこと言ってんダ?」
「うん。でもアイザックさんだけじゃないよ。オレも、、その、尊敬してるよ、ボウイのこと」
「アイザックや、エドモンのおやっさんの次に、な。改まって誉めたって、何も出ないぞ俺は」
とは口ばかり、昼めしを奮発してやれるかどうか、、財布の中身を思い出そうとしている。