【バクシンバードとトレインのゲート】

□☆(疾)出船入り船母港は移動中
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 左右から、上下から、星々が流れ、遠のいていく。
 自分を残して。
 トレインの最後尾から、今きた宇宙を振り返っていると、フッとそんな錯覚にとらわれる事がある。現実には自分の方が、前へ前へと、突き進んでいるにもかかわらず。
 あまりにも駆け足すぎる事への罰か、警告か。まったく言葉通り、星の数ほどの人々と出会ってきた。
 けれども、先を急ぐばかりで、、、ゴールとタイムリミット、追っ手、理由が有るのを良いことに、一生を変えてしまうような出会いにも気づかぬまま、そそくさと別ればかりを繰り返して来てはいないだろうか。それが当たり前になってしまって、もしかしたら自分は、これから先もずっと、一つ所にとどまれずに人と深くかかわる事が出来なくなってしまってはいないか。

「ハァ〜イ、ロック」

 人目も憚らず後ろから抱きついてきたのはバーディ。最もこんな所では人目もないのだが。

「何?用事?」

「ひっどーい、つめたーいっ。なーにその言い方、ひまな時に一緒に居たいって思っちゃいけない?」

 すねているのか、怒っているのか、微妙な駆け引きを臭わせる声色。出会って間もない頃だったなら、慌てて取り繕って、、、小馬鹿にされたりあきれられたり、、すっかり彼女の術中にはまっていた事だろう。

「なーんだ、バーディもひまなんだ!」

「なんだとは何よ、、」

 さらなる駆け引きに引きずり込まれる前に、ロックは彼女の唇をふさいでしまう。ごまかしのキスではない、来てくれて大歓迎の、、その気持ちをたっぷり込めて、ちゃんと伝わるように。

「もう。、、で、なに見てたの?」

「いや、、何となく。ほら、マローン星のやつらとか、、今ごろどうしてるかなーとか」

「やーだ。後ろ見てると思ったらほんとに後ろ向きー?」

 心と裏腹、勝手に言ってろとばかりに通路の壁に寄りかかるロック。
 灼熱の金星を後にして、トライはブルー惑星海を残すのみ。ゴールがちらつき始めたこのあたり、ビートは落ちつかなげに阿呆のように口数を増やすし、ブルースは時間計算している時以外はフフフと己の世界。
 焦りと緊張の中、ほんのちょっとの暇さえあれば、遠足前夜のお子様状態に即突入してしまうJJ9一行なのだ。
 ブラディの襲撃は本気でごめん被りたいが、オーガン警部ならブルー惑星海に入っててんやわんやになる前にいっそお迎えしたいくらいだと、バーディは思う。

「バーディは、、アレだろ?コレが終わったら親父さんトコに行くって、、」

 すっかり、捕らぬ狸のモードに突入しているロックに、取り合えず付き合って相槌を打つ。作家である彼女の父親は、遥か太陽系の外へと軌道を外れたサン・ノブ・ジュピター、そしてその星に運命を託したヌビア教徒の旅立ちの顛末を追って執筆半ばであるが、愛娘が世紀を騒がすビッグゲームの渦中の人である事を見逃すはずもない。ゲームが終了した後は、根掘り葉掘りの取材攻勢を打診してきている。

「水入らずってやつだ?、、だよな、待ってる人が居る、、、か」

 自分はどうするだろう。このゲームが終わったら。父親は、、いくら無口な車椅子老人でも、これだけ世間で騒いでいれば騒ぎの元に息子が居ることくらい知っているだろうから、、、顔ぐらいは見に行って「俺なんだか有名になっちゃったよ」くらい言って、、、、。
 けれど長居は、やはりしないだろうと、思う。故郷の敷居はなんだか高い。厳しいけれどふところ大きく沢山の命を育んでいるあの大自然、今ではなんて遠い事か。

「遠い目しちゃってー。何かほら、アレみたい。遠ぉい港に残してきた女がぁ、今でも俺を待っている〜みたいな。もしかして居るんじゃないのぉ?そおゆうヒトー。金山の人達じゃなくて別のヒトのこと考えてたりして」

「バッカ言うなよ。居ねえよそんなの。そりゃ、居れば嬉し、、、」

 大失言に気づいたがすでに遅い。話している相手はビートやブルースではないのだ。

「どーゆーイミよ、それっ」

「いや、だからさ、居ないんだからいいじゃんよ」

 しない方がましな言い訳をあれこれ。

「単純にさー、男のロマンってやつのよくあるパターンだって。深い意味なんか無いってば」

 言えば言うほど窮地に追い込まれるのは、詰まるところ最初の失言が図星だったりする場合に多いものだ。そして多くの女性の場合、事の本質は本能でつかみとってしまうからタチが悪い。涙ぐんで自分の弱点を羅列しないだけ、バーディは男女の違いについて公平である。





 
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