【バクシンバードとトレインのゲート】

□☆(疾)きまぐれのまぐれ
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 人工大理石のなめらかなマーブルに、そっと腕を滑らせ、バーディは階下のフロアを眺めていた。
 航路は順調。トレインも上々。
 厄介な追手もしばらくは姿を見せそうにない宇宙田舎のプラネッツ・ハイウェイ。さらに、メンバーは腹も空かせておらず、懐の中も多少、、、とくれば。

「あらあら、、、来るわよ、来るわよぉ〜」

 目立たぬように息を潜めて彼女が見つめる先は、トランプのカード。軽やかに、物憂げに踊る。もちろんブルースの手の中で。
 カウンターに立っているスージーはチラチラとブルースの様子を読み取っているようだが、そちらに背を向けて話に花を咲かせているビートとロックはまだ気づかない。
 緊張感あふれるトライ&サバイバルのビッグギャンブル。その緊張がふっと和らぐブレイクタイム、、、そこに忍び寄るのはささやかな、、これまたギャンブル。
 仕掛ける方も、受ける方も、ばかばっか、、、と思いつつ「かわいいもんよねー」なんて、クスリとスージーと目配せ。

「なあブルース!この前のサービスステーションの女の子よりさあ、プラネッツ・ベイのアナウンス嬢のが美人だったよなあ!」

 カウンターのスツールをくるりと返して、鴨が葱を背負ってブルースに話をふった。

「過ぎ去った思い出を振り返るより、まだ見ぬ未来を想像する方が楽しいとは思わないか?」

「はあ?」

「みらい?」

 鴨は見事に立ち止まる。

「そう、例えば、、次のトライポイントで出会う女性が、、、」

「美人かどうか?」

 誰も、賭けと言う言葉を出さぬのに、既にその構図が出来上がっている。

「いや、それは不本意だな。女性の容姿に上下をつけるのは。もっと近い未来はどうだい?このカードが赤か黒か、、、と言うのは?」

「へえ、ブルースにしちゃ単純なルールだな」

 単純な賭けほど難しく、そしてスリルがある。という言葉は敢えてブルースは口にしない。なめらかな手つきでカードを切り、ひとまとめにテーブルに伏せた。

「おっけー。んで?何を、、、」

「ハぁイ!まい・ふれ〜んず。たのしそうねー?」

 ルールがすべて取り決められる前に、バーディは割って入った。このままいつもと同じ光景、、、つまりブルースの勝ちになるのは、きまぐれを名乗る彼女としては何となく面白くない。

「未来予知だよ。バーディもやるかい?」

「あら、それなら得意技よ。ちょおっとカード貸してね」

 ブルースの手に委ねられたカードはまるで踊るように見えるが、バーディの場合は逆である。艶を放つ赤いマニキュアに彩られて、しなやかなダンスを披露するのは彼女の手の方だ。
 シャッフルしたカードを二山に分けて上下を入れ換える。何度か繰り返してまとめると、手前から向こうに向けて伏せたカードを8枚並べ、左から右へもう8枚をクロスさせる。そして、置いたのとは逆から1枚づつ捲っていく。

「あらん、ロック?キミ今日は運が向いてないわよ?それとぉ、、ビートはねぇ、何かしらこれ、、、何か、いいことが来る、、みたい」

「い、いいことってナニナニ?ツキが回ってくるって?」

「うーん、そおいうんじゃないのよねえ」

「わっかんねーな。もっとハッキリしたの出ないワケ?」

「それじゃあロック、試してみるかね?キミの運」

 スイとポケットから取り出した銀のコインを、ブルースの指がピンとはじいた。ロックが咄嗟に視線をコインから外す。時と場合によっては、彼の目は裏と表を見切ってしまうのだ。

「オモテっ」

 横を向いたままロックが答える。
 ブルースの手に舞い戻ったコイン。その上になった側には、バクーフ末期の動乱の立役者とされるイーゴ・モッコスの横顔。

「はっずれー!」

「て、ことは、あたしの未来予知の当たりね」

「ほう」

 ブルースの目が興味津々に輝く。
 ロックもまた違う意味で色めきたった。3度目、5度目の挑戦、、、全敗である。

「すっごぉーい!バーディさんすごいすごい〜!」

 目をしばたかせてスージーが小躍りすると、一人真面目にトレインの運行を見守っていたジミーの声が車内放送で聞こえてきた。

『ビートさーん!プチから通信だよ〜!』

「わぁお!愛しのプチ・ロッチか、、、、、ら?!」

 飛び上がって走り出しかけたビートがハタと気づいて固まる。

「それってもしかして、、、」

 ロックもブルースまでも真顔になっていた。

「いいこと、、来ちゃった、、」

 後を気にしつつあたふたと操縦室へ向かうビートをからかう者は誰もいなかった。
 注目されるべきはバーディ・ショウ。その神秘的な力。

(こんなにうまくいったのって、、、ハ・ジ・メ・テ♪)

 そんな彼女の心中は誰知らず。

「恐れ入ったな。こんな才能を隠していたなんてね」

「おそるべし、きまぐれバーディだな。でもひょっとして、占いの結果もきまぐれだったりしてな」

(んモウっ。時々ズバリなこと言うのよねえ、ロックってば。ドキドキしちゃうじゃない)

 一方スージーは羨望の眼差しでバーディの手元を見つめる。

「ねえ、バーディさん、どうやったらそんなに当たるの?」

「それはね〜、、魔女の血が流れてるからっ」

「ま、魔女ぉ?」

「ジプシーだね?」

「さすがブルース。察しがお早いわ。はるか遠いご先祖様の血だけどね」

「先程の、ジプシー占いの並べ方だろう?」

「さすがブルース。博識で」

 カードの使い方はママから教わった、ママはそのまたママから、、、、と、言えたら、もうちょっとかっこよかったかもしれないが、実は全然ちがう。
 作家のパパが物好きで、家系を辿ったらどうやらその辺りで調べる手が無くなった。それでも思春期に入りたての女の子には、ジプシーの系譜に自分が属しているらしいと言うのは素晴らしくロマンチックに思えて、色々と聞きかじったのだ。
 結局の所、彼女は、少女向けの占い本どおりにやっているだけなのである。

「あ〜んもうバーディさんステキ〜」

 胸の前で両手を合わせて、身もよじらんばかりにスージーのお目々はキラキラ。
 自分の理解を越える事柄には、見たままだけを認めるロックは「当たるものは当たる」と、次の出し物を待つ構え。ブルースはと言えば、神秘の裏にある数式でも解こうかといった意気込みで、これも次を待っている。





 
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