【バクシンバードとトレインのゲート】

□☆(疾)某日某所の足跡
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「来ない、、、わね」

「ああ」

「、、、、、、、」

 ここはイエロー惑星海。星から星への旅半ば。トライポイントも十を超え、いい風向きに乗って来たのはいいけれど、、、、。

「もしかして、探しているのかしら、、その、、ステファニア、、って人を」

 幼い日、淡い思い出を共にした彼女は幸薄い女性だったと、、ブルースは短い言葉で仲間に伝えた。ブラディとの戦闘の巻き添えを喰らう事になった、彼女が居た筈の建物の前で。

「そのつもりなら、、いや、その可能性があるんなら、今ごろ俺たち、総動員されてるさ」

 燻る家屋の内外に彼女の痕跡は無く、前庭と言っていいほど近い場所にある、ベルナー湖を見渡せる崖はその美しいラインを無残に抉られていた。そして駆けつけた時には、燃え上がった火が自然鎮火する程、時間が経っていた。ロックのいう通り可能性はなかった。
 賭けに乗った面々の、それぞれのポーズは元より、そうでない、言ってみれば靴下を脱いだ姿などというものも見えはじめた、、、そんな矢先の御大将の身に降りかかった出来事。
 ブルースという人間に対してもう一歩、踏み込みたい。皆がそう思っている。だが、彼にとっての一歩と、自分の思う一歩がどれ程違っているのか、、その、機微がわからないもどかしさ。
 今はブルースの居ない場合のサブリーダーにいつの間にか収まっているロックの個性にこの場を譲って、、触れずに静かに、待っている。
 だが来ない。小一時間も過ぎているだろうか。サインさえしてあれば、一足先に発って次で合流という手もあるのだが。
 地元の消防とポリスはとうに駆けつけている。有名モデルが夕べから消息不明だという情報も、いいかげん現場に伝わる頃だろうか。

「とにかくサ、待つっきゃないでしょ。だーいじょーぶ、そのうち来るって!ジミー、ちょっと機関室つきあってくれ。時間あるならチェックしたいとこあんだよね」

 ロック一人に場の空気を譲り渡していられぬと、まるで方向性の違う個性を出してビートが動き出した。
 全員が一つところでじっとしていれば、待つ事、を意識し過ぎてしまう。これまでの道程で常に先へ急ぐパターンを身に染み込ませつつある彼等にとって、待つのは既に精神衛生上よろしくない事、、、になってしまっている気来があるので、これはかなり気が楽になった。
 ビートに連れられてジミーと、やっぱりそうかのスージーも操縦室を出ていき、残った二人はまたしてももて余す。

「、、ねえ、ロック?ローティーン達はビートが引き受けてくれた事だし、、、本音の所、どう?捜しに出た方がいいかなーっ、なんて、思い始めてなぁい?」

 待つと判断したロックのプライドに配慮してか、真っ向から疑問をぶつけてはこない。視線を外しながらゆっくり言うと、しかし最後には離れた席から首を傾げて覗きこむようにする仕草。明るいブルーの瞳には、答えを引き出されずには済まない強さと魅力がある。
 今回の戦闘でどの程度の弾薬を使ったか弾き出そうとしていた手を止めて、彼女に受け答えする事に、ロックはいささかも抵抗を感じない。

「初めはさ、こんなでたらめな集まりかたした顔ぶれを選びも、切り捨てもしないで、よくまあ丸ごと受け入れたもんだなとか、、思ったけどさ。じゃなきゃ、これはあくまで急場しのぎで、気に入らなきゃその内ちゃんとした奴を雇うだろうとか、、さ」

 ふうん、、と言ったきり、話の方向がどこに飛んでいるのか訊きもせず、バーディは嬉しそうに瞬きをする。

「けど今にしてみれば、奴としては集まったのがどんな人間だろうと、自分が頭を張れる自信があった訳じゃん。ゲームの張本人って立場をヌキにしても、俺たちは奴の一挙一動に自然と注目しちまうし、奴の判断を仰ごうとしてる。とにとかくにも、リーダーなのさ。だったら、、、」

「だったら、これくらいの事でめげられちゃ困る、、?厳しいこと言うのね」

 やや否定的な相づち、けれどバーディの瞳はまだ曇ったわけでもない。ロックは頭をかいてうそぶく台詞。

「あと37惑星、ハナから気の進まねえ星もありゃ、来なきゃ良かったなんて事だって、全員なにかしらあるだろ。けど、プライベートで何か起きても大概の事はメンバーに伝わっちまう。それくらいの事は奴なら承知してると、俺は思ってた。いや、、思ってる」

 くるりんと、バーディの瞳がものを言う。イイモノ ミツケタ と。

「信頼したい、、のね」

「ああ、キタイしたいんだ」

 信用が信頼に変わる瞬間を、期待したい。彼がリーダーと、既に認めているからこそ。

「そうね。正直あたし、迎えに行ってあげたい気もするの。でも、ブルースがひょいと戻って来てくれたら、、、もっとずっと、嬉しいな」

 涼やかさと鋭利な切れ味を併せ持ちながら、反面、己の愉しみの追及を惜しまない人種に特有の、持ち崩した匂い。そしてそんな己を難なく受け入れる飄々とした態度。その身に彼等の、果てはこのゲームを知る者すべての期待を一身に受ける勝負師。彼は今や傷心の崖っぷちではあるが、、、、。





 
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