【バクシンバードとトレインのゲート】

□★★(烈)柳に吹くなら風情もあれど
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 官庁街も近いこの界隈は、ゴーショシティでも指折りの高級な繁華街である。その裏通り。

「くやしいっスよ、、!まじっ」

 表が澄まし顔をしている場所ほど裏はぞんざいにしてあるものだ。飲食店や酒場から出されるゴミは、これから明け方にかけて益々増えて、ただでさえ定着している臭いも酷くなるだろう。

「何であんなチンピラ辺りに、隊の懐具合まで馬鹿にされなきゃならないんですっ」

 従業員出入口の、横の壁に拳を当てて思いを吐き捨てる若者は、今時珍しくさっぱり刈り込んだ髪に、店の制服であろうか品のよいスーツがよく合っている。

「いや、よく堪えてくれたよ。ま、地味な仕事の割りにいいチャンスだった訳だろう?御大尽のガードのチンピラが、雇い主に奢られて同席なんて、めったにない。口も軽くなろうってもんさ」

 出入口脇に酒瓶のケースが積み上げられているのに肘を付いて、もう一人が言った。こちらはこの辺りではよく見かける、グレーの地に紺のラインが入った作業つなぎ姿である。背中に大手酒卸し業者のロゴがある。

「そりゃ任務ですから、、けど、何処かで出くわしたら俺が斬ってやりますよ。ウチの隊規が厳しいのを笑いのネタにするような奴等!」

 キョーラーク星に上がってきた活動家たちはもっと慎重に身を隠し、こんな辺りには姿を見せない。しかし、ここはここで、公に役職を持つような大物の社交場でもある。
 銀河烈風にとって痛いのは、この近辺の警備をスクランブルポリスに牛耳られている事だ。ジル・クロード以来の軋轢も未だ尾を引き、相手の縄張りでおおっぴらにパトロールなど出ればどんなトラブルが起こるかわかったものではない。
 と言って、情報の一方の要であるこの地区は、実力本位で己の位置を保有する烈風にとって穴にしておけるものではなく、、結局、常駐的に隊士を複数箇所、潜入させている。
 その一人である彼は、要らぬお世話の悪口までも聞く羽目になり、未だ怒りが収まらぬらしい。

「ほらほら、目付きが烈風隊士に戻っちまってるぜ。まあ、もう少しの辛抱だろうさ。お前が任務のために、熱いモンをぐっと飲み込んだってな、副長サンの耳にでも入れといてやるよ。ドンの方が効果あるかもしれんな。隊を小馬鹿にされてカーッとなる若いモンが居ると聞いたら感激ものだろう」

「そんなつもりで言ったのでは、、!俺は、実力で認めてもらいたい」

 余りに生真面目な若者の、真剣な視線を受けとめ損なって、つなぎの若者は肩をすくめながら、つなぎと同色の帽子をかぶり直した。

「なに、軽口のついででそんな事を言うかもしれねえってだけさ。じゃ、拙者はもう何件か回収があるからよ」

 店員の肩にぽんと手を置き、慣れたような手つきで酒のケースを担ぐと、帽子の後ろで一つに結わえた黒髪を揺らして止めてある軽トラに向かった。




 そうしてしばらく後、、、彼の責任感と忠節な心意気を、副長だか誰だかに、、言ったのかどうかすら佐馬が忘れた頃になって、この話はとんでもない方向性を持って再燃した。
 
 
 
 
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