J9 基地のゲート1
□反撃前には忘れずに
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トイレと言うのは半分はほんとだけど、キッドがゆいつものような素振りを取り戻した辺りから、俺はアイザックやお町がこの時間をどう過ごして居るのか気になり初めて、、いてもたってもいられなくなってしまった。きりきりして、必要以上に気をたててエネルギーの無駄遣いをしてたのはキッドだけじゃなかったはずた。
まずアイザックだ、アイザック。
思い返してみても今まであんなアイザックは見たこともない。どんなにぶちキレて怒っているような時でも、どこかしら人を安心させる事を忘れない。それは声だったり、瞳だったり、仕草のひとつだったり、その時々で違うけど、、、水星からこっちそれが感じ取れない。上ずった焦りまでが伝わってくる。
うーん、、、その焦りが遠回しに働いてキッドの不安を誘い出したって事も、、、、あるある!
俺だってああいうアイザックを見てると、何だか胸が苦しくなる感じ、するもんな。その上あのダンナってば、普段からして体力的な無茶をする癖あるし。ラスプーチンと何の話だかしらんけど、キッドみたいにすーかすーか眠って欲しいのに。
そんな事を考えながら、さっき食事を座り食いした廊下へ戻ると、二つ、三つ向こうのドアから出てくる所だった。
「よっ」
と、声をかけてから、あれ?と思う。
「どうした?ブライサンダーで寝ていろと言った筈だが」
そう言うアイザックの声が妙に柔らかい。
「、、、、?」
「何だ?私の顔を見つめても何の得にもならんだろう?」
肩を触れあわせてやっとすれ違う程度の廊下。いかにも俺が立ちはだかって見つめている構図だ。
「え、いや、、、なるよ。なるなる!今日はもうダンナの顔見ただけで得した気分だなー。で、すぐ出るんかい?実はまだ寝てねえんだ。途中、どちら様も都合のよろしいタイミングでもあったら、操縦任せていいかな。なに、ほんの五分か十分」
なーんでぇ、心配して損した。いやいや、損と得がいっぺんにきて、元通りだ。
「二人は?」
「お町はぐっすり、キッドはたった今、どっちも寝てる。アンタは、、、ちったぁ休んだかい?」
聞いてみただけ。すっかり落ち着き払ってやんの。キッドもこの人だけは可愛いとは言わんだろう。
「ラスプーチンのベットを使わせて貰った。すまんな、私が一番寝心地のいい場所に当たったようだ」
マントの襟を直しながら、どこかこそばゆそ〜な顔をする。キッドは言わなくても、可愛いとこもあると俺は思う。
「なんの、それぐらいがアンタはちょうどいいよ。公平に見てサ、ダンナが一番休息が必要かなって思ってたし。ついでに聞いてよけりゃ、ラスプーチンと何の話?」
「釘を、、刺されたよ。単純にな。お前らを犠牲にし兼ねん程、カーメンのみに捕らわれ過ぎている、とね。このままではチャンスも引き際もどちらも見誤ると言われた」
さらりと、そんな恐ろしい事を暴露してくれる。
聞けてよかった。余計な口を出して混乱させるマヌケをせずに済んだって訳だ。アイザックのあのビリビリした感じはラスプーチンが速攻で見抜いてた。メンバー内での連鎖反応は多少はあったかもしれないが、キッドがこれじゃあ他の奴は?なんて、やっぱり単純すぎ。理由も質もキッドとはまるで違っていたのに。
「ね、この際きいちまうけど、ダンナとラスプーチンって、、」
狭い廊下、俺はひょいと辺りを見回して、下から覗くようにしてアイザックに近寄った。
「俺とキッドみたいな仲、、とは違う訳だろ?」
丸くなる目。もうこれ以上はないという程のあきれ顔。ああ、ハイハイ、ワカリマシタ。ゴメンナサイ。
「何を言うかと思えば。、、しかし、そうだな、、強いて言えば、アウトローとしての生き方を選んだ者として、ラスプーチンは私の先達者、、という辺りかな」
ふむ、先輩、道標、、なるほど。の、割にゃ、平気で呼び捨てるわ、態度でかいわ、やたらと用事を言いつけるわ。でも、じゃあその言い方だと、ラスプーチンも何処かのエリートコースからすっ飛び出したのかな。そういや、ノリがどうも珍妙なのは、あれはひょっとしてお育ちの良さが働いての事?
まーいーや。
「それでお前は、もしかせんでもキッドをなだめて居たのか?」
プライベートな質問にプライベートで切り替えそうというのか、単に攻撃手のコンディションの把握か、話をそっちに振られた。
「ん、、そう言うことになるのかな。だいじょぶ、キッドは平気。ダンナがその調子なら、なおさら平気」
今頃は子猫ちゃんの中で、短い短い、いい夢みてる。
アイザックがじっと黙って俺を見る。
「な、なに?俺ちゃん見つめて何か得する?」
「いつの間にお前は、、。この仕事に馴染むのは、見ていて怖いほど早かったが、、、いつの間に私やキッドより余裕を見せるほど板についてきたものかな、、。瞬く間に変わっていくようだな、お前は」
「え、、、?」
キッドは、、変わっていないと言った、、。
「さて、行こうか」
「お町っちゃん、呼んでくる」
何事もなかったかのような、まるきり朝の挨拶でもする感じでそう言って、ゆったりとマントを翻すアイザック。こんな時、ウルフのマークがやけにしっくり背中に馴染んで見えて、アイザックの行く方にはきっと面白そうな事があるんだと、、自然と気持ちが騒ぐ。
さて、お町も呼んで早くあの背中にくっついて行かなくちゃ。
と、振り向くと。
「ハァイ。ボウイちゃん、おはよー」
いつからそこに居たんだか、壁に寄りかかってルージュなぞ引き直すお町。
「悪い事しちゃったかしら?アイザックと仲良しこよしのおハナシ、立ち聞きしちゃった」
「べつにー。悪い事ないんじゃないの?それよかさ、一段とまた美人になってるじゃん。お目々生き生き。良く眠ったんだ?」
「あらアリガト。我ながらさっきまでひどい顔で恥ずかしかったのよね。、、もう必死で寝たわっ、、いやだ、キッドとアイザックの次はあたしの心配までしてくれちゃう気?やめてよね、そこまで完璧にやられたらボウイじゃなくなりそうよ」
やっぱり立ち聞きは良くないよお町っちゃん。
「ま、安心なさいな。あたしに必死なのは体の休息だけだわ。もう、バッチリ、任せてちょうだい」
無敵、不敵、素敵の我らがエンジェル。両手合わせて拝みたい気分。
「それより、これっ。落とし物よ」
「あ、キッドの」
ホルスターの裏側に常備しているツールナイフ。メインブレードの強度と持ち具合重視!とか、でもやっぱりマイナスドライバーとヤスリは欠かせないし、なんて、相当頭を悩ませて選び抜いていたドイツメーカーの逸品。
「こんな大事な物落としても探しに来ないなんて、キッドちゃんアブナイわよ。もうタイムリミットだけど、ほんとに大丈夫なの?」
「なんの、ブラスターキッドさんご健在。見りゃわかるよ。行こう」
促して先を歩くと、後ろから腕を絡ませてきて、悪戯っ気のある笑顔で俺の顔を覗きこんだ。
「ふ〜ん、あたしのカンもまんざらじゃないのかも」
「何の話ヨ、いきなり」
「最初に会ったころー、この男は今はともかく、将来有望なタイプかもーって、思った事あったの。そろそろ食べ頃かしら?それとも、もっといい男になるまで観察してようかな?」
「そんな気ないくせに言うの好きなんだからっ!」
なにかんがえてんだか。お町だけはわけわからん〜。
俺達が来るまでアイザックはブライサンダーの横に立って待っていた。みんなして乗り込むとキッドも目を覚ました。
「あぁ?なんでボウイが俺のナイフ持ってんだよ?」
「ベットのとこに落ちてたのよ。人の事は怒るくせに、自分だってミスする時はするじゃない。しっかりしてよねーっ」
「寝起きにキツイじゃんよお町ぃ」
「寝起きから賑やかなことだな。一旦、J 9 基地に帰還する。まずはそこからだ」
「はいよっ。、、あっ!しまった!!」
「どうしたっ?!」
「トイレ行くの忘れた」
「幼稚園児かお前はっ」
「んもうっデリカシーも緊張もないっ」
「行くならさっさとせんか!」
矢継ぎ早に突き刺さる皆様のお声。
元気になった途端これだもの。こいつらってばまったく、、、、、ま、いいか。
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