J9 基地のゲート1
□反撃前には忘れずに
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今の俺たちは嵐の中、丸裸で迷子になってる。このまま進めば先にあるのは死だと、かなりリアルに感じてる。なのに、空腹で死ぬのか、寒さでやられるのか、落雷に撃たれるのか、可能性の範囲は広すぎて足元が見えない。
どこを守れば、どこを突き破れば、いいのか。
でもこのステージ、下りるわけにはいかない。
段々わかってきた。キッドだって、要は負けたくないからそんなこと、言い出すんじゃん。
だったら大丈夫、みんな同じだから。
「命令があった方が気楽だってなら、俺が命令してやる。俺とお町と、三人してアイザックの後についていけばいい。やって見せろよ」
「言うに事欠いてお前が俺に命令だと?」
お?なんか調子いいぞ。このままイケイケだ。
「それとも依頼人が居た方が腰が座るってなら、紹介してやるぜ?」
おお、睨んでる、睨んでる。
「全人類が依頼人なんてぬかすなよ」
ベリーグッドなお声&お顔。
「それでもいいけどね、もっと具体的なの欲しいだろ?」
とどめをくれてやるぅ。
「俺ちゃんが依頼人だよーん。依頼内容はズバリ、生還、だ」
本音もいいとこだ。ここから出たらきっと、、そんな事言うチャンスはないから。
どーだ、参ったか。まだ続きがあるんだぞー、、、。
と、ここで大きく広げた手のひらで俺は口を塞がれた。みなまで言うなということか。
キッドはバリバリ艶のある瞳を取り戻し、顔を寄せて見上げるように覗きこんでくる。意地悪っぽいこの顔、キッドさん復活の兆しか。
「で、報酬はカラダでって言うつもりだろ?」
あ、バレバレ。でも生きて戻る事を約束してくれるなら、この先一生ヤらせないって意味にすり替えられたって承知するぞ俺は。もちろん、わざわざ言わないけど。
そしてだめ押し、最後のとっておき。禁じ手だけど、、、、、言っちまえ。
「この依頼がもし達成できなかったら、、、」
口を塞いでた手を退けながらそう言った。達成できなかったら、、、つまりそれは、、。
キッドの目がみるみる険しくなるのを感じながら、俺は静かに目を閉じ、続きを告げた。
「俺、お前の後追って死んじゃうから、そのつもりでいなよ」
言われて一番嫌がりそうな台詞。わかってる、これは強迫だ。俺がキッドにぶつけて効力があるかどうか、、脅しでもなんでもしてみるさ。
「そんな迷惑な依頼は受けられねえな」
キタっ!、、来たよ!へへへっ、、愛してるよ、その冷たい即答。
「弱気だねぇ。迷惑なら間違いなく生き延びればいい。どうする?依頼を飲むか、命令に従うか。それともココでお別れがいいのか」
選んでみせろ。全く具体的な選択肢だろう?
ナ〜ンテ。強気な視線をぶつけてみたが、、、、ああもう、なんて嫌そうな目をする。イイんだよなあ、ソレ。
、、と、ツイ見惚れてしまっていた間、俺はキッドの心がどっちの方向へ向かったのか見失った。
「乗せられたわけか、俺は、、」
冷静とも投げやりとも、落胆ともとれる、、そんな声にギクリとする。
だって、乗せられる事を望んだだろう?完全に一人になる事もできなくて、半端に俺の近くにいて。
こっちは真剣だったけど、いくらでもひっくり返せた筈の俺の誘導にふらふら付き合って。他に手がないから頼ってきたんだろう?
それとも違うのか。
俺はテンデ見当外れな事を言ったのか?だとしたら、そうなら、、、。
コトバアソビでもいい、俺の依頼を受けて。オフザケでいいから、命令を聞いて。そうじゃないなら、全部はねのけて俺の前へ、、、走って。
「そんな顔すんな、、馬鹿ボウイ」
だって、、!やべ、、俺、泣きそーかも。
えらそうに従えなんてっても、やっぱりこれが俺。お前が俺にするように、強引に傲慢に高みに引きずりあげるような真似は出来ない。
初めて会ってからこれまで、散々、散々押し上げられ引き上げられ、手間をかけさせてきたのに。つっかかり、ひっかかりの俺が、それでもここまでついて来れてるのは、キッド、お前がそうして、居た、から。
なのに俺ときたらこんな肝心な時にハズしてしまうのか。
「もういいって、ボウイ」
急に優しい声のキッド。
なにがいいって?よくわからない。
時々、自信がなくなる。木戸丈太郎とつきあうヤツとして、俺はそれだけのものを持っているか?想う気持ちも、想われている自信も誰にも負けない。けど、それだけでいいのかって。
キッドがくすりと、ひとつ笑う。立て続けにニヤリ。
え、ソレって、、わっキタ、、。
髪の間にキッドの指が滑り込んできて、さっきと逆。胸の上に引き倒された。
完全復活、、しちゃったんだろうかキッドさんは。キッドの胸に頭を預けて情けないツラの俺。これじゃどっちが落ち込んでたのかわかりゃしない。
「わかったよボウイ。今回切りになるかもしんねーけど、全面的にお前に従う。お前がそうしろって言うから、そうする」
そんなストレートな、、。
しっかり抱え込まれて顔が見えない。
「貴重な時間を削っちまった侘びに、ひとつ白状してやるよ。ボウイの、、本気で困り果てた顔に、、けっこう弱いらしいぜ、俺。自覚ないだろうけど、可愛い、よ」
「え〜と、その、なんてゆーか、、」
キッドはまだ俺の頭を放してくれる気がないらしい。少し早いかもしれないキッドの鼓動を聴きながら、隣のシートから頭だけ乗せているので段々辛くなってきてしまう。
「俺、絶対今日の事忘れねえ。仕事がらみでここまでお前にリード取られたの、ほとんど初めてじゃん」
「仕事で?リードって言うの?こういうの。えーと、どのへんが?」
「ばか、誰が教えるか。さあ、従うぜ。次の命令は、眠る、、だよな」
ふいと俺を放したキッドはそれこそしゃっきりした顔しちゃってる。もう一段シートを倒すと、大あくび。
なんだかなもう。
たったこれだけの短い時間に、全くどれだけ卓さんの表情を見せられて、ドキドキさせられたのか。でももっと見たい。いろんなお前の顔。そうだな、、差し当たって、カッコイイとこ見せてよ。
「ね、キッドさん。このヤマさ、ラストのラストにお前のワンショットでカタがついたら、気持ちいいな」
「あ、、、うん。それ、凄い快感」
うっとりと、半分は眠気、残り半分は見事に実感のこもった表情。そして不意に寝返りを打ってこちらを向くと、優しい悪魔の顔したキッドはいきなり俺の頬をつねりあげた。
「ひ、、ひでででで、、、」
「おまえ、ぜんっぜん気がついてなかっただろ」
「あ、あい?あにがよ?」
「さっきからずっと俺、サカリがついちまってどうしようもなくなってたのに。お前が話しかけてこなけりゃ襲ってたぜ」
「い?えっ?」
そ、そうなの?やっと解放された頬をさすりながら、、、ど、どうしよう。わかんなかった。
満足そうににやつきながら、キッドはもう目を閉じてしまっている。
「惜しかったなボウイ。生きるか死ぬかの手前でよ、最後の一発、、ヤリそびれたぜ?ここでお前とヤルよかラストのワンショットを想像してたほうがイイって、おもっちまったよ、、」
う、、、。
「い、いいもんねっ。どうせ最後の一発になんかにゃならないんだから。カタつきましたお疲れ様、の一発のほうがいもんねーだっ」
あっ。命令はきかせたけど、けっきょく生還の約束させてないじゃん。
「あ〜っ、くっそ〜っ」
「おまえって、全然かわんねーのな。初仕事も今も、、、同じ顔してら。あー、マジに寝よ。お前もここで?」
キッドが片手を差し出すのを、丁寧にお断りしておく。
「んーと、トイレ行ったら休む」
俺の声を最後まで利いたかどうか怪しいくらい、キッドはあっけなく眠りついてしまった。