J9 基地のゲート1
□WARNING SIGNAL
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「動力系統よし。自、公転修正機能よし。エアサプライ及びシールドシステムよし。重力調整も基準値クリアだ。法に触れるような異常はみあたらんし、イカれた様子もなし。だが、微調整は慎重にしておけ。お前らはどうでも、成長期の子供が生活しとるのを忘れるな」
やりかけの研究もそのままに、ボウイに引っ張り出され、現着した途端にわけもわからずJ 9 基地の総点検をさせられているドク・エドモン。お前らはどうでも、などと言う程にはおかんむりである。
「ライフラインの方はと。水循環は浄化槽のメンテをそろそろ、、薬品タンクのbVパーツはひょっとすると交換かもしれんな。空調よしの、生活電源よし。廃棄処分はエラーが出とる。後で集中チェックだな。アイザック、宇宙暮らしの大家は店子の命を握っとるんだぞ、ちゃんとせんか」
ハタで見ていると、キーの操作から何からアイザックの方がずっと滑らかで早い。にもかかわらず、アイザックが与えてくれる安心感より、さらにずっしりした、質感があるのは、メカに囲まれて生涯を通してきたプロフェッショナル故か。無論そこには今のアイザックがひっくり返っても手に入らぬ、年の功と言うものも含まれる。
ともあれ、ドクの様子からすると、いきなり生命の危険を招くような種はないらしく、そのせいかどうか、口の滑りの良くなってきた三人は、よってたかってこれまでのいきさつを説明した。
ようやく状況を把握したエドモンは、即座に射撃室へ足を向けた。
「何ともまあ、呆れた話だな。揃いも揃って、お前らの目はフシアナか」
ブスッとした表情のまま、一巡り見渡した第一声である。
「大体にしてお前から浮き足立つとは何事だアイザック。現場を見ずして何が点検か!座ったままスクリーンばかり見ておるとそういう事になるのだ。わしが来るまでの間なにをやっとったんだ」
万が一の避難に備えて非常食を、、、とは言えなかった。
エドモンのお小言の連打は、この際アイザックが潔く一番前に立って拝聴している。どうやら、とんだ見当違いの所へ剃刀の刃を当てたらしいので、それもまた仕方ない。
エドモンは、ファイアリングラインのカウンターを乗り越え、標的よりももっと向こう、そこはもう壁であるが、その壁の一点を指差した。
「な、なんだコレ!穴あいてんじゃねえかっ」
「ありゃ〜」
確かに壁に穴があいている。たったの数ミリだが、よくよく見れば僅かに貫通する程には深く、間違いなくブラスターによるものだった。その壁の向こう側に、記録用のコンピューターの配線がある事は言うまでもない。
「心当たりはないのか、ボウズ共」
「俺はない」
真っ先にキッドが被告席から降りた。降りた途端に検事側になる。
「そう簡単にココの壁に穴があくはずがねえ。ちょっと悪質って言っちゃうぜ?誰だよ!心当たりのある奴。お町も呼ぶか?」
「、、、、、、、」
「、、、、!、、、☆◇△▽□!?」
「てっめー!ばかボウイ!お前かっ」
「い、いやまだ、そうはっきりとは、、ちょっと、最近、同じ所で同じ外しかた、、してるかな〜なんて、、」
再び射撃室の師弟。
「大体ずーずーしいんだ。幾らビギナーに毛が生えた程度のC 級だって、準備も何も無しにそんな作動のさせかた!もっと腕上げてからやれよなっ」
「だからー、始めにC 級で、遊んで、って言ったじゃんよ。それにその後は真面目にやってるんだから、トレーニングにはなってるだろ?」
「に、したって二度、三度で気がつけよ!」
ずいぶん前からボウイが射撃室に入った時の定番になっているC 級ショートプログラム。
練習用のプログラムはファイアリングラインのカウンターでそれぞれが操作出来るようになっているが、レンジ条件の設定は室内一括で、先程キッドが悪戯をした入口脇にある。
ボウイは、レンジ条件より先に、プログラムを作動させてしまうと言うのだ。ブラスターの状態も確かめず、室内は真っ暗なまま、プログラムは動き始める。それから入口に駆けもどって条件を、しかもでたらめにパネルをひっぱたいて決める。
調光も何も出たとこ勝負で、余分に行ったり来たりする分も含めて、間違いなく初めの数ショットは無駄にしているのだが、そんな中で万一ひとつでも当たればボウイとしては大儲け気分である。
彼の言う、遊んで、とはその辺の運を、、と言うことらしい。見方によっては本番により近い状況かもしれないが、本人はあくまで、遊びとしか自覚していない。無難である。
「で、問題の二発目、、だっけ?」
「そ、右肩の上にいっつも外してるみたいなんだ」
カウンターのこちら側に等間隔で並んでいる、トレーニングメニューを選択するパネルを、ボウイは足の向くまま一つ選び、慣れた様子でC 級のメニューを選択した。実行を押し終わるや否や、知らない者が見たら思わず道を開けるだろう勢いで左、、ドアに向かって走る。ドア脇のパネルを片手でひっぱたくようにしながらブラスターを構え、僅かにグリッピングを気にする仕草を交えて身を翻す。
走りながらまずワンショット。やめておいた方がいいくらい大きく外した。
活きの良さが弾けて場の空気まで変わってしまいそうな、見事な躍動感を見せるボウイの肢体だったが、見ている方は観察眼のカタマリと化しており、見惚れてなどいない。
続いて問題のショット。
全くの予告通り、人型の標的の右肩の上ぎりぎりに外した。
「お見事だボウイさん。標的があと三十センチ右上なら百発百中ってか。もう一度」
例の穴は補修工場用のガードがかかっている。三回目までがまるで同じ映像の繰り返しのように終わると、キッドはものも言わずにトレーニングメニューをセットし直した。
「これでやってみな。左右逆パターンだ」
怒っている様でもないが、実にぶっきらぼうな感じが非常に怖い。
ボウイの動きが、鏡写しで繰り返される。最初は右へ走り、何もない壁にパネル操作の真似だけして、左に向けてダッシュ、、ここでほんの少し足を滑らせて、一発目は外れる以前に撃つことが出来なかった。
そして二発目、、、命中させた。
「あ、、あれ?当たっちゃったよ。ねえ?」
本人がきょとんとキッドを振り返る。
当たっても全然うれしくもない予想に、軽く溜め息をつきながら、キッドは厳しい視線をボウイの足元から上へ巡らせ、最後に「?」丸出しのボウイの目を見て肩から力を抜いた。
「飛ばし屋、、ね。さて、どーしてくれようか」
「ちょっとー、解るように言ってくれマス?」
「つまり、お前の体は左に捻るのがニガテって事だな。、、自覚症状はないだろ?」
「無い」
即答しながら、言われれば気になる。腰から上を左右にねじってみるが、、。
「やっぱ、無いような、、、あるような。左ねぇ、、ん〜、、左?」
「心当たりありそうなツラだな。くそ、なんか腹立ってきた。脱げ!」
「は?え、今?」