J9 基地のゲート1

□WARNING SIGNAL
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「アイザック!」

 一声聞いて機嫌の良くない事は判断出来た。が、ボウイと違って下手には出ない。

「少しだけ、待て。仕事関係の情報処理だ」

 センタールームのメインコンピューターと向き合っているアイザックに仕事と言われて、さすがにぐっと言葉を飲み込んだキッドだが、そのぶん余計にイライラはつのる。食事以外では一番使用頻度の高いセンタールームのテーブルに、持ってきたチャートを広げておいて、どかっと椅子に足を組みアイザックの背中をじっと見る。
 ボウイなら十秒ともたずに折れるだろう状況を、アイザックは自分の都合を最後まで押し通した。見事である。と言っても、ものの三分だが。

「で、何だと言うんだキッド」

「射撃室の記録チャートが実際と一致しない。読み取った時点でおかしくなるのか、記録だけがおかしいのか、もっと別の問題なのか、俺にはわかんねえ。トレーニングメニューのプログラムや調整は俺の仕事だ。最初に決めた周期点検よりこまめにやってるぜ。けど、結果を記録分析する方のコンピューターはアンタに任せてある。この前の点検はいつやった?その時の結果は?何だってコンナンが出る?」

 足を組み、腕を組み、鷹揚にテーブルの上へ顎をしゃくってみせる。
 アイザックもまた腕を組み、慌てず騒がず、引けをとらない。

「私の手抜きだと言いたいのか?具体的にどうおかしいのだ」

 キッドは立ち上がり、アイザックの胸ポケットからペンを一本抜き取ると、チャートに印をつけながらボウイの申告通りの事を説明した。

「それに、外すったってこれはボウイの外し方と違う。幾分安定してきてんだ、大きく外す時は大概上下に多いし、右下にパターンが集中する癖はない。あいつ指先は素直だからな」

「間違って誰か他の、、」

「日付と時間は合ってる!だいたい笑っちゃうのはココさ!俺以外にクイックで五連発ド真ん中なんて出来る奴、ココに居るかよ?」

 もっともだが、言い方はかわいくない。
 時間を惜しんで静かに仕事に集中していた所へ乗り込んできて、理屈が通っているとはいえ、ハナから突っかかり気味に騒いでいる。三分待たせて、一段落はさせたが、本来ならもうしばらくその情報に関して、自分の頭で考えを回していたいところを、曲げてキッドの訴えを聞いているのだ。この仕事が終わっても、今日はまだ予定が山積み。アイザックとて、いささかムッとしなくはない、が、目の前のトラブルも事実ではある。

「スクリーンは?」

「異常なし」

 反対側の壁面の、基地の機能全般を管理している、これまたややこしいコンピューターから、射撃室に関する部分を呼び出し、ひとまず通常の点検をしてみた。

「何処にも、エラーはないな」

「だったらコレは何なんだよ?!きっちり調べてくれよー」

「時間がかかる。悪いが手が空くまでこの件は保留だな」

「仕事が入ってくる見通し?」

「そういう訳ではないが」

「なら!原因だけでもいいから、今やっちまってよ」

「だから、時間がかかると言っている。お町が改良した輝煙弾をシェルタールームで爆破実験するからデータを取ってくれと言ってきている。シンはゴミ処理設備のノイズが大きくなっていると報告してきた。メイは最近水が必用以上に薬品臭がすると言い出してる。射撃室は後回しだ」

「急ぎって訳じゃないだろ、みんな!」

「その通り。射撃室も含めて、緊急ではない。先着順に片付ける。射撃室は、後だ!」

 とうとうアイザックが声を荒げる。忙しいのは嫌いではない。が、せっつかれるのは嫌いだ。幾らなんでもという時だってある。キッドのかわいくない物言いがそれに追い討ちをかけた。

「いいじゃんか!先に見てくれたって!頑固者っ」

「わからん事を言うな。融通のきかんっ」

「どっちが!」

 頭の片隅で理性が、いい加減程度の低い争いはやめておけと囁く。もう一人の理性は、ボウイと違っていつまでたっても向こうからは折れねえぞと忠告する。
 睨み合って、ぷいと視線を外したのはキッドの方。

「いーよ、後にすりゃいいさ」

 それでもどうにもむしゃくしゃして収まりが悪いので、ドアから出て行きながら、、、、まだ言う。

「実際調子がおかしいのにエラー表示が出ないなんてさ、コンピューターの中枢でもイカレてんじゃねえの?遮蔽機能が狂ってエア漏れ起こしても、警報鳴らなかったりしてな!」

 口から出任せ。効果など期待してない捨て台詞。
 の、つもりだった。
 だが、自分で口走ったコトの重大さに、思わず足を止めて青ざめる。二、三歩行きかけた廊下を一足で戻り、ドアに飛び付いた。

「アイザック、、!」

「あ、ああ、、」

「なんかさ、、マジでヤバイって事、、、ない、よな?」

 アイザックもご同様に顔がひきつっていた。
 雁首並べて、早々に各機能を総チェックするが、こうなってみると疑惑が疑惑を呼び合い、却ってオールグリーンの表示が空恐ろしく感じられる。
 顔を見合わせた所へ、射撃室の後片付けを済ませたボウイが現れた。

「そいで、、どうなっ、、、」

「ボウイっ!」

「ひとっ走り、、」

「地球へ行って、、」

「エドモンのおやっさんを、、」

「連れてこい!」





 
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