J9 基地のゲート1
□西暦2001年カルナバルの反省文
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カルナバルの思わぬ大嵐で、遊び疲れ、仕事疲れ。キッドとボウイはこのところ基地内でおとなしくしている。
今もメインリビングで、メイとシンを相手にファミリー向けのボードゲームに興じている。どちらかと言えば、相手をしていただいているのではあるが。
「お町は?まだ戻らんのか、、」
通りかかったフリをしながら、いつ言おうかとタイミングを見ていたその一言をアイザックは口にした。
「心配ないだろー?ヤケ食いして、ヤケ酒飲んで、ヤケ買いして、ギャンブルの一つでもぶちかまして、踊り疲れた頃にでも帰ってくると思うけど?」
真っ先に返事を返したキッド。澱みなくすらすら言い切った様子は、全く気にしていないようでもあり、頭の中で何度も反芻されてセリフ化した言葉のようでもあり。
「でも、もう3日になるんでしょう?私、お町さんがいつ出掛けたのかわからなかったけれど。だってそのまえはずっとお部屋から出てこなかったし、、心配だわ」
仕組まれた出逢い、仕掛けられた恋。疑惑を招くはずの幾つかの不自然さは、街に溢れる祭りの熱と、酒の香りにカモフラージュされ、コネクションに雇われたヒットマンが、ミステリアスとロマンティックを同時にその身に漂わせる事は容易かっただろう。
自称、百戦錬磨の、されど16歳のエンジェルお町は、その男が自分のテリトリーに現れた事を許し、恋を信じた。
「なんでシツレンって事になっちゃったんだか、わかんないよ。ミゲルのパパとお町さんがケッコンしたって、全然モンダイないじゃん。もしそうなったら、ミゲルとだって兄弟だったかもしんないのにさ」
「失恋じゃなくて、お町っちゃんが、向こうサンを捨てたのよ。って!おいおい〜!何をとんでもないこと言ってんだお前は?お町があいつと結婚したって、お前とミゲルが兄弟になるはずないじゃないか?!」
「あ、あれっ?そ、そ、そうだよね、ウン、そうだった、そうだった」
シンはシンなりに動揺している。
「連絡くらいそろそろつけたいと思っているんだが、心当たりは?」
「ボウイの馬鹿が音信不通をやらかしてるワケじゃなし、心配ないって」
「何ヨ、それはーっ」
ゲーム用の12面体ダイスを弄んでいたボウイが、そのひとつをキッドに投げつける。躊躇なく鋭く投げ返すキッド。合計6個あるダイス総動員で空中戦が始まる。
「やめてよボウイ!キッドもっ、無くなったらどうすんだよ!オイラのなんだからねっ」
思わず白熱していくダイス投げの応酬をしながらボウイが言った。
「心当たり、、、あるかも」
「ホント?どこなのボウイさん?」
「ホストクラブ」
「ぶっ、、ホス、、、イテっ」
思わず止め損なった一発がキッドの頭に命中し、カツン、コツンと床に弾む。
「ホストクラブってなに?」
ボウイの後ろ頭をガツッと殴って、アイザックは無言でリビングを後にした。
「ねえ!ホストクラブってなんだよ?ボウイってばー。姉ちゃん知ってる?」
床に落ちたダイスをポヨンが拾い集めていた。